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貯金箱メーカーの挑戦!逆風の中、“キャッシュレス決済”“硬貨預け入れ手数料”より恐れるもの

2022年04月25日 11:00  週刊女性PRIME

週刊女性PRIME

ロングセラーの『●●万円貯まる貯金箱シリーズ』。実際に100万円貯めた人も少なくない

 金融機関での硬貨預け入れ手数料の導入や電子マネーの普及など逆風にさらされる『貯金箱』業界。これまで『10万円貯まる貯金箱シリーズ』などユニークなアイテムを開発してきたメーカーはこうした事態をどのように捉えているのだろう。担当者に話を聞いてみるとーー。

貯める楽しみ、貯まった喜びは健在!

 今年1月17日、これまで無料だったゆうちょ銀行のATMでの『硬貨預け入れ手数料』がかかるようになった。手数料新設の直前には各地の郵便局で「無料のうちに硬貨を預け入れよう」と、利用者または顧客が長い列をつくった。

 こうした硬貨預け入れ有料化の動きは大手金融機関などでもすでに導入されている。
 硬貨預け入れ手数料だけでなく、電子マネーなどによるキャッシュレス決済の普及により、硬貨使用は年々減少していくとみられている。

 中でも大きなあおりを受けているのは『貯金箱』のメーカーではないだろうか。

 硬貨を使う機会が減れば、貯金箱で貯める機会も減る。メーカーはこの事態をどう受け止めているのか、貯金箱を開発・販売する、株式会社トイボックス(東京都)に直撃した!

「弊社はもともとおもちゃメーカーとして創業した会社ですが、事業の一環として貯金箱も作るようになりました」

 同社の須藤栄司さんはそう話したうえで貯金箱事情について説明してくれた。

 トイボックスは1966年創業、老舗おもちゃメーカーだ。だが、少子化やおもちゃ店の減少などに伴い、15年ほど前におもちゃ事業から撤退。現在はキャラクターアイテムやバラエティー雑貨の開発、販売にシフトしている。

 おもちゃ開発と並行して展開していたのが「貯金箱」。特に500円玉で10万円、30万円、100万円が貯まる『●●万円貯まる貯金箱シリーズ』は1986年の発売以来注目を集めている、同社のロングセラー商品なのだ。

 その開発秘話を尋ねると、

「当時は500円硬貨が発行された直後で、使える場所が限られていた。そこで行き場のない500円玉を貯金したらいいのではないか、とのアイデアから開発されたのがこの貯金箱シリーズでした」(須藤さん、以下同)

 ほかにも同社ではさまざまな貯金箱を作ってきた。硬貨の金額ごとに分けて貯められる貯金箱や笑い袋付きで硬貨を入れたら笑いが起こるものなどユニークなアイテムも数多くあった。

「貯金箱の売り上げがいちばん高かったのは30年ほど前の'90年代です。当時は若い人たちの利用も多かったのですが、今は40代以上が多い。貯金箱は業界的に見て今後の成長アイテムではないですね」

 苦境に立たされている貯金箱。その理由のひとつはキャッシュレス決済の存在だ。

「かつて貯金箱を使っていた層は若者や子どもたち。いま、その年代は現金をあまり持たなくなりました。ICカードや電子マネー決済が浸透していますからね」

 須藤さんらメーカーが最も恐れているのはキャッシュレス決済でも硬貨預け入れ手数料の導入でもなく、デジタル通貨「CBDC」の導入だ。

 「CBDC」とは『中央銀行デジタル通貨』の英語訳の頭文字をとったもの。お札や硬貨の代わりにスマートフォンなどを通して中央銀行が発行したデジタル通貨を利用して決済をする機能のことだ。すでに世界各国で導入の検討が始まっており、日本でも2021年4月、日本銀行が「デジタル円」の概念実証をスタートした。実用化はまだ先とみられているが、導入されればゆくゆくは社会から紙幣や硬貨が消えていくことになる。

「給料がすべてデジタル貨幣で支払われ、決済もデジタルになる時代がくれば貯金箱は無用の長物になるかもしれません」

 デジタル全盛の時代でも貯金箱は大切な役割を担っていると須藤さんは訴える。

「トラブルが起きたときを想定し、自宅に現金を置いておくための備えにもなります」

 例えば災害時。停電し、ATMやクレジットカード決済が使えなくなったり、スマートフォンの充電がなくなって、支払いができなくなる可能性がある。硬貨がなければ緊急時の連絡手段として有効な公衆電話も使えない。

「災害対策として貯金箱を活用している事例も増えています。停電やシステムトラブルでATMが使えなくなったり、クレジットカード決済ができなくなるなどの弊害も起きています。そんなときに備えて、貯金箱にお金を入れておけば、安心にもつながるんです」

貯金箱は“貯める”だけじゃない

 さらに貯金箱は人と人とをつなぐツールにもなる。

「家族でルールを設けて、それを破った人が罰金を入れる、野球やサッカーなどを応援している仲間同士で、チームが勝ったらお金を入れる、など複数名で一緒に使うこともできます。貯金箱は1年に1回開いて、中に貯まったお金でみんなでおいしいものを食べに行くなど家族や仲間たちとの楽しみにもつながります。貯金箱の醍醐味は“貯める楽しみ、貯まった喜び”なんです」

 中にいくら入っているのか、ひと目ではわからないところもポイントだ。

「『●●万円貯まる貯金箱シリーズ』は実はもうちょっと入るんです。開けたときに少し多くお金が入っていたらうれしいですよね」

 貯まったお金を今度は投資に使うなど、貯金箱との合わせ技という使い方をしている人もいる。

「貯金箱はアイデア次第で、いくらでも使い方の幅が広がるんです」

 これまで同社で販売されてきた『●●万円貯まる貯金箱シリーズ』や笑い袋貯金箱などユニークな貯金箱の展開以前から面白いアイテムを開発してきたことが根底にはある。そのひとつが『カラフルアイアンハンド』だ。

「1979年の発売以来のロングセラー商品です。実は今、福祉、介護業界で注目されています。かがむのが厳しい人が下にあるものを拾ったり、入院中、ベッドにいながらカーテンの開閉に使ったり。

 これが意外と便利で、退院した人から“どこで買えますか”と問い合わせがくることもあるんです。貯金箱よりもこっちの商品が注目されています」

 それでも貯金箱開発の挑戦はまだまだ続く。

「具体的にはまとまっていないのですが、インテリアになるようなデザインで紙幣を貯める貯金箱が作れないかな、と考えています。災害用にも使えるもので、紙幣の中でも使用する頻度が高い千円札を貯められるタイプのものです。

 キャッシュレス時代とはいえ、ほかのツールと組み合わせたり、面白いアイデアがあれば貯金箱はまた注目されるんじゃないかと思います。私たちはもともとおもちゃを作ってきました。そのアイデアを生かし、ほかとは違う貯金箱を作りたいと思っています」

 取材の最後に貯金箱の魅力を尋ねてみた。

「忘れることがいいんですよ。思い出したときに開けると“こんなに貯まっていた”と感動するんです。知らないうちに数万円入っていたら、儲かった気になります。ただお金を貯めるだけじゃないんです。買いたいものがある、という目標だったり、家族や友人たちと貯めて、そのお金で食事や旅行に行くなど次の楽しみにつなげたり。

 貯める人の思いやそれにまつわるそれぞれのドラマが貯金箱にはあるんです。実は奥が深い」

 お金を貯めるだけでなく、アイデアひとつでさまざまな楽しみ方ができる貯金箱。逆風に負けない強さをこれからも見せ続けてほしい。