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eラーニングは業務時間になる? 結果次第で上司から注意、休日をつぶして勉強するハメに

2022年04月25日 09:51  弁護士ドットコム

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会社から業務時間外に「eラーニング」を受講するよう事実上強制されており、プライベートの時間が削られ負担になっている——。情報提供などを受け付けている弁護士ドットコムニュースのLINEにこのようなメッセージが届きました。


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eラーニングとは、主にインターネットを利用した学習のことで、コロナ禍で対面での研修や学習などが難しくなったことを受け、利用する企業が増えています。



情報を提供してくれたAさんの会社では、決められた内容のeラーニングを毎月受講し、振り返りテストを受けるよう伝えられるそうです。受講時間は1カ月で約6時間前後。テストはそれほど難しくないものの、合格するまで再試験を受けなければなりません。



「eラーニングで学んだ内容を振り返ってディスカッションなどをする機会が定期的に設けられていて、受講していないとついていけません。また、テストの回答内容を上司が見ているようで、結果次第では注意されることもあります」(Aさん)



業務時間外に受講するよう会社から言われているわけではありませんが、Aさんは「日々の業務の忙しさを考えると、業務時間外に受講せざるを得ない」と受け止めており、プライベートな時間を削られることが負担になっています。



eラーニングの費用は会社負担で、「勉強の機会を与えてもらえること自体はありがたく思っている」というAさんですが、もし受講しなければ、上司の対応などから「おそらく査定に悪影響がある」と推測しており、業務時間外での受講を強制されているモヤモヤしています。



Aさんは、会社に対して異を唱えたいとは思っていますが、「(eラーニング受講を嫌がる)『意識が低い人間』と自分から言っていると受け取られそう」だと感じて、言い出すことができずにいるようです。



「『自分の努力が足りないのでは』と思い、休日に焦ってしまう」(Aさん)など、心理的なプレッシャーも重くのしかかっています。



仕事上不可欠な内容のeラーニングでも、費用が会社負担なら業務時間外に受講させても問題ないのでしょうか。島田直行弁護士に聞きました。



●問題になるのは「会社の"明確な"指示がないケース」

——eラーニングの受講時間は「労働」に当たらないのでしょうか。



人材不足が続く企業では、社員ひとりひとりのスキルアップが強く求められるようになりました。企業としてもいっそう人材育成に注力していかざるをえません。



eラーニングは、いつでもどこでも受講できるためコロナ禍において広く利用されるようになりました。



もっとも、企業と社員では「受講」への意識の相違があります。



企業からすれば、「社員のために」スキルアップの機会を提供するという恩恵的な発想があります。これに対して、社員からすれば、「会社のために」受講するといういわば義務的な発想があります。



こういった両者の意識の相違を前提にして、受講が賃金の支払いが必要となる「労働」に該当するのかを検討していく必要があります。



——具体的にはどのように検討すればよいのでしょうか。



社員がeラーニングを受講するパターンとしては、(1)勤務時間外に社員が完全に自発的に受講する、(2)勤務時間内に会社の指示で受講する、(3)勤務時間外に会社の指示で受講する、という3つのパターンにおおむね整理できるでしょう。



(1)の場合は、あくまで個人の意思によるものなので賃金の支払いはありません。(2)および(3)については会社の指示に基づくものであるため賃金の支払い対象になります。



現実的に問題になるのは、(3)の場合に会社の「明確な」指示がないケースです。



こういった会社からの指示の有無は、形式的にではなく、周辺の事情も加味して実質的に判断されるべきものでしょう。「明確な指示がないから労働にはならない」という形式論では終わらないということです。



●Aさんのケース「業務時間外の受講について賃金を支払うべき」

——Aさんのケースはどうでしょうか。



今回のケースに対しては、(a)受講について会社から指示があったのか、(b)指示があったとして業務時間外の受講まで求めるものであったのか、という視点で確認してみましょう。



まず、振り返りテストが実施され合格するまで再試験を余儀なくされていたこと、上司からフィードバックを受けていたこと、および査定にも影響しうると推測されていることからすれば、受講について「会社からの指示があった」と評価できるでしょう。



つまり、受講するという行為は「労働」に当てはまるといえます。



次に、普段の業務量からして業務時間外での受講しかできないという点です。



会社としては、受講を指示するのであれば、対象社員の業務量を調整するなどして業務時間内での受講ができるように配慮するべきです。



それが事実上できない状況でありながら受講を求めていたとすれば、業務時間外の受講についても指示していたと評価するのが自然でしょう。



「業務時間外の受講までは明確には求めていない。だから時間外の労働には当たらない」というのはあまりにも形式論で認められないものと考えます。



会社として業務時間外の受講を指示するのであれば、それは「労働」としてしかるべき賃金を支払わなくてはなりません。今回のケースについても、会社は業務時間外の受講について賃金を支払うべきでしょう。



——eラーニング受講に対する会社のスタンスをあらかじめ明確にしておくことが重要ですね。



「社員のスキルアップのためだから」というあいまいな理由でごまかすのは、社員の信頼を失います。それでは「社員のために」と企画したことが、かえって社員の反発を生むことにもなります。



「指示をする。それに対する賃金を支払う」というあたりまえの関係をきちんと押さえることが、社員の育成においても大事になるでしょう。




【取材協力弁護士】
島田 直行(しまだ・なおゆき)弁護士
山口県下関市生まれ、京都大学法学部卒、山口県弁護士会所属。著書に『社長、辞めた社員から内容証明が届いています』、『社長、クレーマーから「誠意を見せろ」と電話がきています』『社長、その事業承継のプランでは、会社がつぶれます』(いずれもプレジデント社)、『院長、クレーマー&問題職員で悩んでいませんか?』(日本法令)
事務所名:島田法律事務所
事務所URL:https://www.shimada-law.com/