「管理職になったのですが、やっている事は変わっていません……」
「管理職になったのですが、自分の仕事が忙しくて……」
「組織の目標を達成できるか、不安の毎日です……」
これは私が担当する新任管理職向け研修で、受講生からよく聞くセリフです。このセリフの中には「ある事」が欠けています。それは何でしょうか?(文:働きがい創造研究所社長 田岡英明)
プレイングマネージャーが陥りやすい罠
リクルートワークス研究所の調査(2019年)によると、日本で働く管理職の約90%がプレイングマネージャーです。人を動かすマネジメント業務と、自ら動くプレイング業務を両立していかなければなりません。問題は、多くのプレイングマネージャーが、プレイング業務に走りがちなことです。その理由は、何をやらかすかわからない部下に仕事を任せるより、自分でやってしまう方が安心だという発想です。
このやり方は、短期的には効果が出ます。しかし、長期的に見ると部下が育たないため、組織として成果を出しにくい状況を作ってしまいます。そして、管理職は焦り、「昇進者の心得」(ダイヤモンド社)の中でリンダ・ヒルが言っている「5つの落とし穴」にハマっていくのです。
成果を上げられない新任管理職が陥る5つの落とし穴
1 隘路(あいろ)に入り込む
2 批判を否定的に受け止める
3 威圧的である
4 拙速に結論を出す
5 マイクロ・マネジメントに走る
この「クイック・ウィン・パラドックス」に陥ると、そこから這い出ることは難しくなります。
業績と人への関心を併せ持つマネージャーへ進化する
次に、こうならないための考え方を2つ紹介します。1つ目の「PM理論」は1966年に社会心理学者の三隅二不二氏によって唱えられたリーダーシップ論で、Pはパフォーマンス、Mはメンテナンスの頭文字です。この理論ではリーダーには、業績を達成するパフォーマンス機能と人間関係を良好に保ち人と組織をまとめるメンテナンス機能の両方が必要だと言っています。業績への関心だけではなく、人への関心を併せ持つリーダーになることが必要なのです。
「マネジリアル・グリッド」というリーダーシップ行動論にも、同じような考え方があります。マネジリアル・グリッドは1964年にブレイクとムートンによって提唱されました。リーダーシップの行動スタイルを「業績に対する関心」と「人間に対する関心」という2軸に分け、9・9型と言われる、業績にも人へも最大の関心を持てるリーダーが理想的だと言っています。やはりリーダーには業績への関心と人への関心が求められるようです。
メンバーへの関心を持つために、接触機会を増やす!
では、業績のみならず、人への関心も最大に示せるリーダーになるためには何をしたらいいのでしょうか?
他人への関心を抱く第一歩は、その人をよく知ることです。1968年、アメリカの心理学者ロバート・ザイアンスによって提唱されたザイアンス効果をご存知でしょうか。これは人や物やサービスに何度も触れることで警戒心が薄れていき、関心や好意を持ちやすくなる、という心理的効果です。
ここから考えると、メンバーへの関心を持つためには、こまめなコミュニケーションの機会を作っていくことが大切だとわかります。日頃の挨拶や声掛け、報連相や面談の機会等を、これまで以上に増やしていく必要があるのです。
プレイングマネージャーはどうしても、自分の仕事を中心とした業績に偏りがちです。しかし、このようなマネジメントはいつか破綻します。そうならないためにも人への関心を持てるコミュニケーションの場を現場に設計し、高い業績の出せる組織を作っていってください。
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筆者近影
【著者プロフィール】田岡 英明
働きがい創造研究所 取締役社長/Feel Works エグゼクティブコンサルタント
1968年、東京都出身。1992年に山之内製薬(現在のアステラス製薬)入社。全社最年少のリーダーとして年上から女性まで多様な部下のマネジメントに携わる。傾聴面談を主体としたマネジメント手法により、組織の成果拡大を達成する。2014年に株式会社FeelWorks入社し、企業の管理職向けのマネジメント研修や、若手・中堅向けのマインドアップ研修などに携わる。2017年に株式会社働きがい創造研究所を設立し、取締役社長に就任。