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「こんなおばちゃんをどうするの」70代女性に性暴力 出所3カ月後に事件、40代男性の常習性

2022年04月23日 07:41  弁護士ドットコム

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年齢を重ねても性被害と無縁になるわけではない。アパートの隣に住んでいた70代の女性宅に侵入し性的暴行を加えたとして住居侵入や強制性交等致傷の罪に問われていた40代の男の裁判員裁判が今年3月、東京地裁立川支部で開かれていた。


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被告人はスーツ姿にメガネ。白髪混じりの天然パーマを後ろでひとつに結んでいる中年。初公判の罪状認否では「住居侵入は了解を得ていた」「強制性交ではなく合意があった」と完全否認し、無罪を主張した。(ライター・高橋ユキ)



●女性とは「大人の関係」だったと述べた被告人

冒頭陳述などによれば被告人は2020年7月某日の夜、当時住んでいたアパートの隣に住む女性・Aさん(当時73歳)宅のベランダ側にある無施錠の吐き出し窓から侵入。Aさんの口に粘着テープを貼り、後ろ手に縛り、暴行を加えたとされる。逮捕当時の報道は見当たらない。



「シンクの不具合などを修理してあげて親密な仲だった」。そんなエピソードを挙げながら被告人はAさんと「大人の関係」にあったと罪状認否で述べていた。実際に、家主の仲介によりAさんとは顔見知りで、実際にシンクの修理を請け負ったという。しかし本当に「大人の関係」にあったのか。



別室からのビデオリンク方式により行われたAさんの証人尋問では、被告人の言い分とは全く異なる事件当時の様子が語られた。



「就寝中、誰かが馬乗りになってきた。最初は、お付き合いしてる彼氏かな? と一瞬思いましたが、『騒ぐな、静かにしろ』と言われて、ただ事ではないと気付いた」



Aさんは、突然の侵入者に「こんなおばちゃんをどうするの」と告げたが、被害に遭い、両前腕部の挫創など全治1週間の怪我を負った。「警察に言うのか!」と言われ「言わない」と答えると、犯人は出て行ったという。



●「男の人が入ってきて襲われました」

法廷では、事件直後のAさんによる110番通報の内容も明らかになった。当時からAさんは「大人の関係」などではなく「事件」であることを申告している。



Aさん「男の人が入ってきて襲われました」 警察「犯人は今いるのですか?」 Aさん「もういません。テープで口と手を縛られました」 警察「縛られて電話できますか?」 Aさん「トイレに行きたいと言ったらテープを取ってくれました。暗くて顔も分からなかった」



部屋からは、被告人の指紋がついたガムテープが発見された。だが被告人はそれでも、Aさんとは隣人という関係以上の仲にあったと被告人質問で主張し続けた。



「Aさんの本当の年齢は知らなかったが、関係を持つことには抵抗はなかった。それまでも大体Aさんの部屋で関係を持った。当日も、Aさんが『来てくれないか』というので部屋に入った。最初は世間話とかそういうのをして、そこからまた男女の関係になりました」



被告人の言い分に照らせばAさんから招かれ、玄関から部屋に入ったことになるが、足跡はベランダ付近から見つかっており、客観的な証拠とは食い違う。また、Aさんが事件後すぐ110番通報をしているそのタイミングで、被告人は「散歩に出た」とも語っていた。そのまま電車で新宿に向かい、ネットカフェなどで数日間過ごし、自宅には戻らなかったのである。



●「前科がありましたね?」

検察官は被告人が「110番通報を察知して自宅から出たうえ、警察を避けるため最寄駅とは異なる駅まで遠回りした」と追及したが、被告人は「当日の行動にそうした意図はなかった」と反論し、一貫して認めない。



そんな被告人に対して、検察官はいよいよこんな質問を切り出した。



「あなた、これまでも高齢女性に対してわいせつなことをして怪我をさせたという前科がありましたね?」



ところがこの質問に対して弁護人からは異議が申し立てられる。裁判所もこれを認め、検察官による前科についての質問は不可となってしまった。



質問者は再び弁護人に替わり、被告人は改めて“合意の上での男女の関係”であることを強調。



弁護人「あなたは今回、この法廷で真実を話しましたか?」 被告人「はい」 弁護人「Aさんとは男女の関係にあり、事件の日も部屋に招かれて男女の関係になった。ところがAさんは110番通報して、あなたとしては理由がわからないということ?」 被告人「はい」



しかし、こうした被告人の言い分は認められず、判決では懲役11年が言い渡された(求刑懲役12年)。被告人は前科9犯。高齢の女性に対する強制性交等や強制わいせつ致傷事件を起こし服役。出所から3カ月後にAさんに対する事件を起こしたことなどから常習性の高さが指摘されていた。



【プロフィール】高橋ユキ(ライター):1974年生まれ。プログラマーを経て、ライターに。中でも裁判傍聴が専門。2005年から傍聴仲間と「霞っ子クラブ」を結成(現在は解散)。主な著書に「木嶋佳苗 危険な愛の奥義」(徳間書店)「つけびの村 噂が5人を殺したのか?」(晶文社)など。好きな食べ物は氷。