トップへ

意外と知らない「クルマ」の豆知識 第32回 メルセデス・ベンツの「メルセデス」って誰?

2022年04月15日 11:31  マイナビニュース

マイナビニュース

画像提供:マイナビニュース
メルセデス・ベンツの「ベンツ」は創業者の1人であるカール・ベンツから来ていると聞いたのですが、では「メルセデス」のほうには、どんな由来があるのでしょうか? こんな名前のピッチャーがいたので、人名なのではないかと思うのですが……。モータージャーナリストの内田俊一さんに聞きました。


○メルセデスとは誰なのか



ゴットリープ・ダイムラーとカール・ベンツの2人がメルセデス・ベンツの生みの親というのはよく知られた話である。では、メルセデスとは何だろう。



1926年にゴットリープ・ダイムラーのダイムラー・モトーレン社とカール・ベンツのベンツ&カンパニー社が合併し、ダイムラー・ベンツ社が誕生した。その後、ダイムラー・クライスラーなどに名称を変えながら企業としての歴史は続き、2021年12月には商用車部門をダイムラー・トラックとして分離。2022年2月にメルセデス・ベンツ・グループに社名を変更し、現在に至る。このグループにはメルセデス・ベンツのほか、メルセデスAMG、メルセデス・マイバッハ、メルセデスEQなどのブランドが属する。



さて、少々小難しい話になってしまったが、ここまでに多くの「メルセデス」という名称が出てきた。では、このメルセデスは何かというのが今回のお題である。

“メルセデス”とは女性の名前で、スペイン語で“神のご加護”を意味する言葉だ。



黎明期のダイムラーで自動車開発に深く関わった2人の人物がいる。1人はオーストリアの大富豪エミール・イエリネックであり、もう1人は天才的なエンジニアのウィルヘルム・マイバッハだ。



イエリネックは自動車マニアでもあり、始まったばかりの自動車レースにダイムラー社製のクルマで積極的に参戦していた。彼がダイムラー社にオーダーした当時の最新レーシングカーが、1900年から1901年にかけて製造されたメルセデスブランドの1号車「メルセデス 35PS」である。このクルマ、当時としてはハイパワーで、最高出力35馬力を発揮するエンジンは最高速度90km/hを可能とし、多くのレースで優勝する。



自動車ビジネスの将来性を見抜いていたイエリネックはダイムラーに対し、35台の35PSを購入することと引き換えに、交換条件として「ヨーロッパとアメリカでの販売権」と「新しいブランドネームの使用」を提示した。そのブランドネームこそが“メルセデス”である。これはイエリネックがレース出場時に用いていた名前であり、彼の愛娘の名前でもあった。



イエリネックは「好きになってもらい愛してもらうには、クルマは女性の名前でなければならない」とのコメントを残している。まさに、ビジネス的視点でネーミングを考えていたのだ。メルセデスの名前は当時のダイムラー社が製造するすべての乗用車に使用され、1902年にはダイムラー社の自動車ブランドとしてドイツ特許庁に正式登録されたのである。



内田俊一 うちだしゅんいち 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験をいかしてデザイン、マーケティングなどの視点を含めた新車記事を執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員、日本クラシックカークラブ(CCCJ)会員。 この著者の記事一覧はこちら(内田俊一)