2022年04月14日 18:51 弁護士ドットコム
「仮面ライダー」シリーズを制作する東映(東京都中央区)が、法律の上限をこえて社員を働かせたうえ、割増賃金を適切に支払っていなかったなどとして、中央労働基準監督署から是正勧告を受けたことがわかった。
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労基署に申告した女性社員(20代・休職中)と労働組合「総合サポートユニオン」が4月14日、都内で記者会見を開いて明らかにした。
「仮面ライダーは正義のヒーローです。その現場で作品を好きという気持ちで死に物狂いで働いて、労働基準法を守らない働き方が横行するのは正義だと思えません。子ども向け番組の夢をこわす告発が正しいのか悩みましたが、同じ業界で傷ついた人たちが声をあげやすい空気になればいいと思います」(女性)
東映側は是正勧告を事実としたうえで、「改善済み」とした。
女性は2019年の入社後、テレビ企画制作部に配属され、見習い期間を経て、2020年4月にアシスタントプロデューサー(AP)となった。
『仮面ライダーリバイス』(2021年9月から放送)の現場には2020年11月から関わり、翌年1月から固定残業制(月70時間)への給与形態に切り替わったという。それからはタイムカードを切らなくなったという。
女性は、1日13時間労働が常態化する過重労働のほか、セクシャルハラスメント被害もあったと主張している。適応障害を発症して、2021年6月から休職中だ。
ユニオンに加入して団体交渉をすすめる中で、2021年11月から今年4月までに、中央労働基準監督署から東映に対して、女性社員について、以下の内容の是正勧告が出されたという。
(1)固定残業制が適用される社員について、同社に「労働者の労働時間の状況を把握しなければならない」と勧告(労働安全衛生法66条8の3違反)。
(2)固定残業制が適用される前の「見習い」期間の一部で、45時間を超えた残業時間の事実があるとして労働基準法32条違反を勧告。
(3)固定残業制の導入期間における時間外労働に対する割増賃金未払い違反(労働基準法37条違反)を勧告。
ユニオンによれば、東映側は、固定残業制を適用した社員の時間管理をしていなかったことを認める一方で、固定残業手当の無効性は認めていない。
そのため、女性は未払い分の賃金があると考えているものの、東映は過去にさかのぼっての支払いを考えていないという。
また、東映は今年1月から固定残業制を廃止したという。
女性は「後輩に同じ思いをさせたくない。健康で働ける環境を望む」と労働環境改善をうったえた。セクハラ等についての話し合いは進んでいないという。
東映は4月14日、弁護士ドットコムニュースの取材に応じ、コメントを出した。
「当該従業員の過去の残業時間等に関しては、同従業員が申し立てをした労働基準監督署より、すでに公平な判断をいただいており、その判断に基づき、対応しています。なお、同従業員1人を対象とする是正勧告につきましては、すでに改善の報告書を提出済みです」
なお、固定時間外手当(上記=固定残業制)については、東映の社内労働組合と数年前から協議を続け、2021年に廃止したという。