スーパーGT300クラスに参戦する注目車種をピックアップし、そのキャラクターと魅力をエンジニアや関係者に聞くGT300マシンフォーカス。2022年シーズンの第1回は、HOPPY team TSUCHIYAが製作した『HOPPY Schatz GR Supra』が登場。3月26~27日に富士スピードウェイで開催されたスーパーGT第2回公式テストでシェイクダウンを迎えたばかりの新車について、設計を務めた木野竜之介エンジニア、そして土屋武士代表にその素性を聞いた。
そう語るのは、HOPPY team TSUCHIYAの木野竜之介エンジニア。現在31歳の木野氏は、東京大学工学部出身。レーシングカーコンストラクターの童夢などを経て、2020年にHOPPY team TSUCHIYAに加入。同年よりHOPPY Porscheのデータエンジニアを務めると、2021年には同車のトラックエンジニアとデータエンジニアを兼務。2022年は武士代表からHOPPY team TSUCHIYAが新たに製作する『HOPPY Schatz GR Supra』の設計者に指名され、初めてレーシングカーデザイナーとして1台の車両を手掛けることとなった。
「“あとは好きにやっていいよ”とは言われましたが、HOPPY team TSUCHIYAはプライベーターですので、予算が潤沢にあるわけではありません。自分たちで作れるものは作りながら、ですね。予算などの理由で、できないこともある制約のなか、できる限りいいものを、手間と工夫で解決するというプライベーターのやり方が大元にあります」
そんなHOPPY Schatz GR Supraの“火入れ”が行われたのは第2回公式テストの搬入日前日となる3月24日の18時前。搬入日となった25日も富士スピードウェイのピットで夜遅くまで作業を行い、26日午前のセッション1でシェイクダウンを迎えた。慌ただしいスケジュールのなかでのシェイクダウンとなったが、走行初日を終えた時点で「ECUの合わせ込みといったところでも課題があり、本格的なペースでは走れていない部分はあります。ただ、根本的なところでの大きな問題はなかったです。作ったところは作った意図通りに機能してくれているかなど、いろいろ確認できましたし、概ね満足というか安心という感じですね」と木野氏は語った。
■「骨は同じも“手足”は大きく異なっている」
それでは、HOPPY team TSUCHIYAが設計、制作を手掛けたHOPPY Schatz GR Supraと、同じくGT300規定で製作されたほかのトヨタGRスープラとの違いを見ていこう。大前提として、GT300規定のGRスープラはトヨタ自動車が図面の製作及び、ホモロゲーションを受けており、HOPPY Schatz GR Supraの根幹となる部分はほかのGRスープラと同じホモロゲーションに準じている。
つまり、244号車HACHI-ICHI GR Supra GTなど、GT300クラスに参戦するほかのGRスープラとは基本となる部分は同じであり、スペック表に書き出してもその差はタイヤとホイールくらいだ。これについて武士代表は「人の身体で言えば胴体の骨がまったく同じです。ただし、“手足”が違うという感じでしょうか」と語る。
そのため、エンジンは5.4リッター自然吸気V型8気筒エンジン“2UR-G”を、そしてミッションはヒューランド製の汎用品(6速/後退1速)とほかのGRスープラ同様のものを搭載する。ただし、『HOPPY Schatz GR Supra』のエンジン、ミッションは中古品を搭載している。その理由を尋ねると「新品はコストが……」とプライベーターらしい答えが返ってきた。
速さの肝となる“手足”は大きく異なっているHOPPY Schatz GR Supra。同車の設計は木野氏が務めたが、外装のみ、コスト管理の兼ね合いもあり、武士代表が手がけている。HOPPY team TSUCHIYAのオリジナル設計をベースに、JGTC全日本GT選手権時代のつちやMR2の製作にも携わり、現在はエアロメーカー『LEXON exclusive』を手がける高砂岳美氏に造形を依頼。そしてマザーシャシーのHOPPY 86 MCからHOPPY team TSUCHIYAのクルマ作りに携わるカーボンショップ『サイトハウンド』の山口仁氏のジョイントでボディカウルが制作された。武士代表曰く、風洞実験は行わず「こうした方がかっこいいんじゃない?」などみんなで話し合いながら誕生したという。
足回りに目を向けるとアップライトはアルミの削り出しを採用している。2021年シーズンはたかのこの湯 GR Supra GTがクロモリ鋼削り出しのアップライトを採用していたが、2022年はGRスープラのアップライトにアップデートが施され、他車でもアルミを採用しているケースもあるとのことだ。なお、HOPPY Schatz GR SupraのアップライトはHOPPY team TSUCHIYAのオリジナル設計となり、仲間内の製作所に製作してもらったとのこと。また、ほかのGRスープラのエンジンのサージタンクがカーボン製となっているなか、HOPPY Schatz GR Supraはアルミ製を採用。これはコストを考えてのことだ。
そして、ほかのGRスープラが2口タイプの給油口を搭載するなか、HOPPY Schatz GR Supraはクロンテック社製の1口タイプを採用。これはGRスープラのドア後方のスペースが狭く、ピット作業時に給油担当とリヤタイヤ交換担当の作業スペースが被ってしまい、作業がしづらいという課題の改善を見込んでのこと。さらに、昨年までのポルシェ911 GT3 Rと同型の給油口のため、昨年の設備がそのまま利用できるというメリットもあってのことだ。
HOPPY team TSUCHIYAの手間と工夫が混じり合うHOPPY Schatz GR Supra。改めて、木野氏にこの車両のこだわった点を尋ねると、「クルマの基本のポテンシャルを高める方向で全部を作っています。そして奇をてらったことはしていません。シンプルに、理に適ったことをするということが設計としてこだわっているところですね。あとは、自分たちで作れるように作るということ。そして、自分たちでメンテナンスするので、現場での整備性にもかなりこだわっています。自分たちで作ったところはかなりいじりやすくなっていますので、それが現場でのセットアップのしやすさ、ひいてはレースウイークのクルマの強さに繋がります」と語った。