2022年04月12日 10:11 弁護士ドットコム
夫婦円満な生活を送るためにも、できれば事前にトラブルの芽は摘んでおきたいものです。そこで、年間100件以上離婚・男女問題の相談を受けている中村剛弁護士による「弁護士が教える!幸せな結婚&離婚」をお届けします。
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連載の第7回は「世帯年収800~1500万円くらいの家庭は要注意」です。仕事柄、他の家庭の家計を見ることが多いという中村弁護士。高収入で余裕のある生活のように思えますが、「意外にそうでもなく、一歩間違えば火の車になるケースが少なくありません」と話します。
一体、どうしてなのか。詳しく解説してもらいました。
世帯年収800~1500万円の方達は、一般的に高収入だと思います。令和2年の国税庁の民間給与実体統計調査によると、平均給与は433万円とのことですから、それを超える収入を得ている方が多いでしょう。
そのため、気が大きくなりがちなケースがあります。自分達は高収入世帯だから、家も高級マンション(あるいは一等地または比較的大きな戸建)に住み、高級外車に乗り、子どもを私立学校に入れ…と際限なく手を出しがちです。
しかし、私が拝見してきた中から申し上げれば、世帯年収1000万円前後の方であれば、(1)高級な家、(2)高級な車、(3)子どもの私立学校入学のうち、かけていいのはそのうちの1つだけです。世帯年収1500万円前後でも、かけていいのはせいぜい2つまでで、3つともお金をかけようとすると家計はかなり苦しくなります。
例えば、会社員で年収800万円というと、相当高収入の部類に入りますが、いくらくらい手元に残ると思いますか? もちろん、人によりますが、一例を挙げると、月収50万円×12ヶ月、夏・冬の賞与2ヶ月分ずつで計200万円という具合です。
月収50万円だとすると、様々な条件により変わりうるものの、毎月受け取る手取りは40万円前後でしょう。
これで、住宅ローン、マンションの場合は管理費・修繕積立金、駐車場代などを入れて月15万円前後(住宅ローン10万円、管理費・修繕積立金2~3万円、駐車場代2~3万円)の支払いであれば、残りは25万円です。
その上、自動車もローンを組んでいたりすると、月額3~5万円飛んでいき、子どもの習い事を2~3つさせていれば月1~2万円程度、子ども2人なら2~4万円程度です。そうすると、残りは16~20万円前後になります。
ちょっと遊びに行ったり、外食を増やしたり、旅行に出かけたりすると、あっという間にギリギリの家計になってしまいます。
さらに、これに私立学校の学費が加わると、相当負担は重くなります。東京都内や、大阪などの大都市圏では、それなりに年収がある家庭だと、子を私立学校に入れることを希望するご家庭が多いのですが、家計のやりくりをしっかりと管理しないと、途中で破綻してしまいます。
私立学校の学費は、もちろん学校によって異なるのですが、文部科学省が公表している平成30年度の調査によれば、保護者が支出した1年間・子ども一人当たりの学習費総額は、次のとおりです。
月あたりとして計算すると、私立小学校は月約13.3万円、私立中学校は月約11.6万円、私立高校は月約8万円です。子どもが2人いて、2人とも私立学校に入れると、この2倍の金額になります(1人目を私立に入れると、2人目も私立に行きたがるのが一般的です。)。相当な額がかかることがわかると思います。
そして、高等学校については、高等学校等就学支援金が支給されるのですが(執筆時点では最大39万6000円)、小中学校ではそれに相当するような補助金がなく(地方や学校独自の補助金の制度がある場合もありますが、それほど多額にはならないことが多いです)、相当な負担になります。
私立学校に行かせるか否かは、各家庭の教育方針なので、どちらがいいということはありませんが、相当な負担になることから、ある程度家計は厳しく見ておかなければなりません。
また、収入が一定額あると、所得制限に引っかかってしまい、国や自治体からの各種手当や補助金がもらえなくなります。
例えば、児童手当は、扶養親族の数により異なりますが、主たる生計維持者(収入が多い方)の収入が概ね833万円~1040万円の収入を超えると、所得制限の対象となり、「特例給付」として児童1人あたり5000円のみの支給になります。
また、2022年10月に支払われる分以降は、法改正によって、主たる生計維持者の収入が概ね1071万円~1276万円以上となると、特例給付すら受けられなくなります。
また、上記高等学校等就学支援金も、扶養控除対象者の数や、両親が共働きか否かによっても変わりますが、執筆時時点では、年収640~740万円を超えると減額され、年収950~1090万円を超えると支給されなくなります。
このように、収入が増えたことによって、もらえなくなるお金が出てきてしまうのです。
加えて、ある程度収入が増えると、税率が上がります。所得税では累進課税制度を取っているため、収入増に比例して税額が増えるのではなく、収入が上がれば上がるほど、税率が上がって税の負担が重くなります。現在は、最低の税率が5%、最高税率は45%となっています。
各種控除がどこまで認められるかによって変わるので、一概には言えませんが、大体の目安で言えば、年収700万円前後(10%→20%)、1100万円前後(20%→23%)、1400万円前後(23%→33%)で税率が上がるタイミングがあります。ですので、この前後の年収の人は、一気に税負担が重くなるのです。
このように、「税金の負担は重くなるのに、手当や補助金はもらえなくなる」というのが、年収800~1500万円前後の人の特徴です。
さらに、この年収の人達で怖いのは、「平常時は何となく家計が回せてしまう」ことです。
高級な家に住んだり高級な車に乗って高額のローンを組み、子どもを2人または3人私立学校に入れていても、「ギリギリ何とか回せている」という状況はよくあります。特に、賞与で補填すれば、何とか収支は維持できることもあります。
しかし、そのようなことをしていると、預貯金が全く貯まらないことが少なくありません。そして、収支バランスが崩れるときは突然訪れます。
例えば、会社の業績が悪化して賞与が大幅に減る、会社が倒産する、パワハラ上司にあたって鬱になり、休職または退職を余儀なくされる、会社から突然解雇される、交通事故に遭ったり、急病で働くことができなくなる、妻(または夫)から突然離婚を切り出されて別居される、子どもが事故で突然介護が必要な状況になる、親の介護のため実家に戻らなければならなくなる、などなど…。数え上げたらキリがありません。
保険で賄えるものもありますが、全て保険で賄うことはできませんし、なるべく多くのリスクを保険で備えようとしたら、今度は保険料が高額になって家計が回らなくなります。そうなったら、本末転倒です。綱渡り状態ではいつかは破綻してしまうのです。
したがって、これらのリスクに備えるためには、一定の蓄えがかかせません。一般的には、突然収入が途絶えたとしても、6カ月程度はやっていける程度の預貯金が必要だと言われます。毎月50万円程度の支出があるとしたら、300万円程度の預貯金(生活費として取り崩さない預貯金)は最低でも必要です。
特に、家計管理を妻(または夫)に任せきりにして、自分は全く家計を把握していないという方は要注意です。突然のことで預貯金を確認してみたら、年収1000万円程度あるにもかかわらず、ほとんど預貯金がなかったというケースは少なくありません。家計管理者に浪費などなくても、です。
以上が、「世帯年収800~1500万円くらいの家庭が要注意」である理由です。
1500万円を超えてくると、ある程度お金を使っていても蓄えが貯まっているケースもありますが、世帯年収800~1500万円くらいだと、家、車、子どもの教育費でギリギリの状態になっているケースが少なくありません。収入を急に上げることは難しいので、支出を抑えるようにし、きちんと計画して余裕のある収支を目指しましょう。
(中村剛弁護士の連載コラム「弁護士が教える!幸せな結婚&離婚」。この連載では、結婚を控えている人や離婚を考えている人に、揉めないための対策や知っておいて損はない知識をお届けします。)
【取材協力弁護士】
中村 剛(なかむら・たけし)弁護士
立教大学卒、慶應義塾大学法科大学院修了。テレビ番組の選曲・効果の仕事を経て、弁護士へ。「クライアントに勇気を与える事務所」を事務所理念とする。依頼者にとことん向き合い、納得のいく解決を目指して日々奮闘中。
事務所名:中村総合法律事務所
事務所URL:https://rikon.naka-lo.com/