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『39歳』が教えてくれた、自分の手で選んでいくことの大切さ 「家族」と呼べる3人の友情

2022年04月12日 08:31  リアルサウンド

リアルサウンド

『39歳』(写真はJTBC公式サイトより)

 韓国ドラマ『39歳』がNetflixにて最終回まで配信され、多くの視聴者の涙を誘っている。振り返ってみれば、第1話からすでに宣言はされていたのだ。仲良し3人組のミジョ(ソン・イェジン)、チャニョン(チョン・ミド)、ジュヒ(キム・ジヒョン)のうち、1人が早すぎる死を迎えることを。


【写真】『39歳』6人が集まって雪を見る様子


 それにもかかわらず、私たちは彼女たちと同じように希望を失くすことができなかった。そんな日は永遠に来ないのではないかと。別れを頭の片隅に置きながらも、10代から変わらぬ青春のような日々が続いていくのだと。


 なぜなら、それは現実の私たちも同じだから。人はいつか必ず死ぬ。200年前に生きていた人が、今この世にいないように。この先200年後には、きっとここに生きるすべての人がこの世を去っているに違いない。


 加えて、昨今私たちはいつ何が起こるかわからない生活をしている。突然の病に倒れるなんてことも、他人事には思えない時代だ。しかし、それだけ死が身近になっても、いざ自分にとって唯一無二の人の死を迎えるというのは受け入れがたい。誰も避けられない死がやってくることを、私たちは情報として知っているはずなのに、その日は来ないような顔をして過ごしていることに気付かされる。


 人を愛するほどに、幸せな時間を感じるほどに、いつかはそれを手放さなければならないのが人生。そんな理不尽でやるせない事実を知っていながらも、やはり私たちは愛や幸せを追い求めずにはいられない。それが、私たちの生きる意味と呼べるものだからだ。


 では、抗うことのできない運命を前に、どう生きていけばいいのか。『39歳』で見せてくれたのは、その中でも自分の手で選んでいくことの大切さだったように思う。39歳という大人の女性たちが、迷いながらも見せてくれた潔い決断の数々。言うなれば“選べない生まれより、誰と生きるか”ということ。


 例えば『39歳』では、ミジョが養女であるというバックグラウンドが、「血縁だけが家族ではない」というひとつのメッセージを感じさせた。3人の友情が生まれたきっかけは、ミジョが実母を探していたことだった。


 だが、実母に会ってミジョは大きく落胆する。育て母から「お腹の中にはいなかったけれど、心の中にはずっといた」という印象的なセリフも登場するように、血の繋がりよりも心が通い合っているのかが、家族には必要なことだと知るのだ。


 そう考えれば、3人の友情も十分に「家族」と呼べるものだったのかもしれない。末期の膵臓がんを患い、その痛みに耐える親友に対して「その苦痛を半分でも分けてもらえたらいいのに」と切に願う。ときに姉と妹、さらには母と娘のような関係になるのも、女の友情の不思議なところだ。


 大人になるにつれて、子が親の精神年齢を超えたと感じる瞬間がある。39歳となれば、多くの人が親世代を労る側となっていることだろう。親に心配をかけまいと、冷静な対応を心がけながらも、ときには子どもっぽい態度で甘えたくなるもの。その顔を見せられる友人の存在は、親やきょうだいとはまた違った形の「家族=慕ってくれる存在」だ。


 また、人生の多くの時間を費やす仕事についても、ジュヒが40歳を目前に迷惑客と正面切って対立し、会社を辞めるという決断をしてくれた。3人のうち一番頼りなさげに映るジュヒが、そんな大胆な行動に出たことに驚かされる。さらに学びたいことを見つけて、自分のお店を出していこうという力強い姿にも拍手を送りたい気分になった。


 年齢を重ねるほど、挑戦よりも現状維持を選びがちになる。だが飛び出したいと思ったときには、その一歩を踏み出してもいい。人生は一度きりで、巻き戻しもできないのだから、職場だって自分の意思で選びとっていくくらいでいい。もちろん、それには新たなことを学ぶ努力も必要だが、それを応援する「家族=味方」がいれば、何歳からだってトライ可能なのだと教えられる。


 そして、10年以上ひたすらジンソク(イ・ムセン)への想いを貫いたチャニョンの愛についても、その芯の強さに頭が下がった。韓国とアメリカで離れ離れになっても、ジンソクが結婚後プラトニックな関係でありながら「不倫」だと周囲に責め立てられても、そして人生の終わりを覚悟したときにも……チャニョンの愛情は常にジンソクの幸せを願う形で注がれた。


 誰からも理解されなくても、恋人から友人へと関係性が変わっても、チャニョンの想いはまっすぐでピュアで揺るがない。その強さに、ジンソクもその愛を貫く勇気を持つまでに変わることができた。最初こそジンソクの煮え切らない態度に苛立っていたミジョも、ジュヒも、そして視聴者である私たちも、そんな2人のひたむきな姿に愛を信じることができたのかもしれない。


 これまでどんなに壁が立ちはだかろうとも、一緒に生きることを選び続けた2人。それは、もしかしたら生と死という圧倒的な距離さえも超えていくのではないか。きっとジンソクならチャニョンのために毎年クリスマスツリーを飾り続けてくれるのではないかと思うと、胸が一杯になる。


 人生に正解はない。ミジョもチャニョンもジュヒも悔いのない人生を送りたいと願いながらも、いざ「死」を前に何ができるのか戸惑ってばかりだ。誰もが今の年齢を、その状況を「初めてだからうまくいかない」と、ぶつかりながら試行錯誤を繰り返す。それでも、変わらないのは自分が愛したもの、守るべきもののために、自分の信念を貫くという強さを彼女たちは見せてくれた。


 どんなに考えても「もっと何かできたのではないか」と歯がゆい思いをするのが人生だ。ならば彼女たちのようにまっすぐで、清々しいほどの決断をしてながら歩んでいきたい。まだ大切な人の、そして自分自身の旅立ちを、もう少し先に考えられる今から。3人にならって自分の人生を選んでいく勇気を持とう、そう思えるドラマだった。


(佐藤結衣)