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入学式に100着の制服間に合わず…「子どもたちに申し訳ない」と謝罪 業者の法的責任は?

2022年04月08日 15:51  弁護士ドットコム

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東京都の多摩地域を中心とした複数の中学と都立高校で、入学式直前になっても新入生の制服が届かないトラブルが相次ぎ、約100人分の制服が入学式に間に合わない事態となった。


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各学校の制服を受注していたのは衣料品販売の「ムサシノ商店」(東京都武蔵野市)。多くの学校で入学式のあった4月7日、記者会見を開いた同社の社長は「子どもたちに申し訳ない」と謝罪したという。



報道によると、都立高校と特別支援学校では計68校が契約し、その大半が4月7日に入学式の予定が入っていた。前日になってトラブルが多く報道されると、東京都教育委員会は4月6日、都立学校に対して、入学式までに制服が届かなかった新入生について、私服や卒業した学校の制服での参加を認めるよう要請したようだ。



同社は業務を継続しており、ホームページで「ただいま、新入生の納品に向けて急ぎ作業を進めております」(4月5日付)としている。同社社長は、制服の発送の遅れを問われた際、「学生服の受注数の予測が大きく外れてしまったことがある」と釈明したという。



入学式という節目に制服が届かず、新入生やその親の動揺はさぞ大きかっただろう。制服を販売した業者はどのような責任を負うことになるのだろうか。坂口靖弁護士に聞いた。



●会社の責任だとしても「慰謝料は原則認められない」

——入学式当日までに制服を届けられなかった場合、生徒側は会社に対しどのような責任を追及することができますか。



報道からは納品期限の定めなどが明らかではありませんが、当然入学式当日よりは前に納品する契約になっていたものと考えられます。



したがって、入学式当日までに納品できなかった場合には、ムサシノ商店は債務不履行に基づく損害賠償責任(民法415条1項)を負うこととなります。



この損害賠償の範囲については、他の店で制服を購入することになったような場合や入学式用に他に洋服等を購入せざるを得なかったような場合には、別の業者で購入した制服代の差額増額分や、入学式用の洋服の購入費用等が損害として認められる余地があるように思われます。



——入学式に制服を着て出席できなかった生徒の中にはショックを受けた人もいるかもしれません。慰謝料などは発生しないのでしょうか。



制服の納入がされなかったことに対する慰謝料は、原則的には認められません。



しかし、「入学式に真新しい制服を着用し、出席したい」との期待については、「高校や中学の入学式は一生に一度きりのイベント」であるということを考慮すると、一定の保護が与えられても良いようにも考えられます。



私見にはなりますが、入学式に制服で出席をすることができなかったという点に関して、少額(数千円から1万円程度)には留まるものの、一定の慰謝料も認められる余地はあるように思います。



●たとえ費用増大しても「納品できるように最大限努力をすべきだった」

——別の会社に制服を発注する家庭もあるかもしれません。そのような場合、生徒側はどのように対応すればよいのでしょうか。



生徒側の対応としては、ムサシノ商店と協議し、契約の合意解除をし、別の業者に対し、制服の発注をするということが考えられます。



通常、入学式までに制服を納品できそうもないという状況であれば、業者が合意解除に応じないということは考え難いものと思われます。



他方で、合意解除ではなく、法定の債務不履行解除などによって一方的に契約を解除するということも考えられます。



しかしながら、制服というのは、入学式の時にのみ着用するものではなく、長期間に及んで使用するものであるため、単に入学式に納品が間に合わないとの事情のみでは、契約解除が認められないという判断もありうるものとも考えられます。



この点、私見にはなりますが、入学式前に制服が納品されるというのは、社会的常識に照らして、当たり前の話であり、注文者においても、当然に入学式前に納品されることを強く期待しているものと考えられ、その期待は契約の本質的内容となっているものと考えることができると思います。



したがって、納付期限である入学式までに納品される可能性が著しく低い状況となった場合や入学式までに納品されなかった等の場合には、直ちに契約を解除することが可能であるものと考えます(民法542条1項5号など)。



しかし、前記のように、債務不履行解除では、制服は数年間使用するものであり、入学式までに納品することは契約の本質的内容ではない等として、入学式までに納品されない等の事情のみでは、解除が有効と判断されないような場合も想定されます。



そのような場合には、2つの制服の費用を負担しなければならないというような状況に陥ってしまうことも考えられます。



そのようなリスクを考えると、業者と協議し、契約を合意解除した上で、別の業者等で制服を発注する方が安全であるように思われます。



——入学式直前のタイミングでのトラブル発覚となりました。会社としては、入学式までに間に合わないなどがわかった場合、どう対応すべきだったのでしょうか。



入学式までに間に合わない可能性があると判明した時点で、各注文者に対し、直ちに状況を連絡するべきです。



また、同業他社に対し、在庫等の有無について確認する等、仕入れ費用が増大するとしても、納品できるように最大限努力をすることが対応としては必要であったものと考えられます。



入学式までに納品できない場合に、制服代金の減額をする等の提案をする等、注文者らに対し、誠心誠意の謝罪の態度を示すことが重要であったように思われます。




【取材協力弁護士】
坂口 靖(さかぐち・やすし)弁護士
大学を卒業後、東京FM「やまだひさしのラジアンリミテッド」等のラジオ番組制作業務に従事。その後、28歳の時に突如弁護士を志し、全くの初学者から3年の期間を経て旧司法試験に合格。弁護士となった後、1年目から年間100件を超える刑事事件の弁護を担当。以後弁護士としての数多くの刑事事件に携わり、現在に至る。YouTube「弁護士坂口靖ちゃんねる」<https://youtube.owacon.moe/channel/UC0Bjqcnpn5ANmDlijqmxYBA>も更新中。
事務所名:プロスペクト法律事務所
事務所URL:http://prospect-japan.law/