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「雇調金の不正受給を強要され、うつ病に」元社員が労働審判申立て

2022年04月07日 18:11  弁護士ドットコム

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宝石類・衣服のリユース事業を営む会社(東京都渋谷区)の部長職にあった男性が4月7日、会社からコロナ関連の助成金に関する不正行為を強要され続け、これに消極的な姿勢を見せると部長職を降格されるなどして、うつ病を発症して欠勤し、その後退職扱いされたとして、会社に対し、労働契約上の地位確認と約720万円の損害賠償を求めて、東京地裁に労働審判を申し立てた。


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男性は、会社側に不正受給をやめるよう進言したが、会社は不正受給を継続し、男性を降格処分にするなどの対応をしたと主張している。



申立て後に開かれた会見で、男性は、「若い社員が多くて優秀な会社なのに、一部の人間によって会社がおかしくなることに憤りを感じる」と話した。



●「雇用調整助成金を不正受給していた」と主張

申立書によると、経理・財務、人事、法務等を担当するコーポレート部の部長だった男性は、2020年2月頃からコロナ禍で資金繰りに苦しんでいた会社から、国・東京都がおこなうコロナ感染症対策制度融資を申し込むよう指示され、融資を受けるための要件である「前年比の売上が20%以上減少」を満たすため、損益計算書の売上数値を改ざんさせられたという。



会社は2020年4月から雇用調整助成金も受給。当初は、男性が部下に指示しながら必要書類を手配し、滞りなく申請していた。



ところが、同年8月からは営業を全面再開させ、休業の実態がないにもかかわらず、虚偽の申請をおこない、少なくとも2020年12月までに約9200万円の雇用調整助成金を不正に受給したという。



男性は、コーポレート部部長として経理や財務、法務の責任者であり、不正の責任を負わされうる立場にあったことから、同社代表取締役に不正をやめるよう進言。不正に加担させられている他の従業員にも関与をやめるよう注意喚起していた。



しかし、会社は男性を排除したうえで不正受給を継続。男性を部長職から降格させ、違法行為に加担しないことを理由に退職勧奨をおこなったという。



男性は会社による度重なる不正行為の強要により、刑事責任を追求され、いずれ逮捕されるのではないかと精神的に不安定な状況に置かれたという。降格処分による精神的苦痛もあり、2021年4月、男性はうつ状態と診断された。



それ以降、男性は出社せず、有休消化後は欠勤となっていたが、2021年12月に会社から「2021年11月末で定年退職とし、再雇用はしない」旨の通知が届いたという。



●労働局にも告発「出勤簿や通勤費精算書などの証拠ある」

男性の代理人を務める江夏大樹弁護士は、雇用調整助成金の不正受給については2021年10月に東京労働局を告発しており、現在調査中であることを明かした。



告発の際には、休業実態がなかったことを示す証拠として、社員の出勤簿や出社した社員の交通費を支給するための通勤費精算書などを提出したという。



「テレワークしている社員に加え、出社している社員をも休業扱いとするなどの手口で不正受給をしていました。また、一定の教育訓練をおこなった企業には助成金のほかに教育訓練費が加算されますが、教育訓練をおこなったようみせるために、雛形を用意して感想文をたくさん作って、助成金申請の際の添付資料にしていたようです」(江夏弁護士)



コロナ感染症対策制度融資を受けるために改ざんした損益計算書についても、改ざん前の裏帳簿と改ざん後に提出した書面のどちらも証拠として持っているという。



2021年6月には渋谷警察署に告発をしたが、動いてもらえなかったという。



「警察は詐欺に関してはなかなか動いてくれませんが、今日の会見を契機に社会的反響があって、助成金事務センターなどが動けば、警察も動いてくれるのではないかと期待しています。これでも(警察が)動かなければ、助成金詐欺は野放しになるのではないでしょうか」(江夏弁護士)



会見に同席した男性は、会社が途中から自分の関与を排除したことについて、「正しいことは正しい、NGはNGとはっきり伝えていたからではないか」と振り返りつつ、会社が進言を無視して不正受給を続けたことは「非常に残念」と話した。



「社員の平均年齢が30歳前後の会社で、若い社員が現場を必死に支えています。しかし、その現場の社員は会社がこんなことをしているとは知る由もない状況でした。なぜこのようなことをするのか。優秀な会社なのに、一部の人間によって会社がおかしくなることに憤りを感じます」



●会社側のコメント

弁護士ドットコムニュースは、会社側にコメントを求めている。回答があれば、追って掲載する。