2022年04月06日 10:11 弁護士ドットコム
「弁護士よりも労働組合の方が法律上も憲法上も強い力を持っているという点を知らない人は意外と多い。弁護士の通知を会社が無視しても何ともならないですが、労働組合からの交渉申入れを会社が拒否したら違法です」。労働組合に関するこんなツイートが話題となった。
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ツイートしたのは、労働問題にくわしい今泉義竜弁護士。「労働組合に入ることや作ることがもっと選択肢になって欲しい」とも呼びかけている。
労働組合はいったいどのようなことができるのか。労働組合の権利について、今泉弁護士に詳しく話を聞いた。
憲法28条が保障する(1)団結権(2)団体交渉権(3)団体行動権という労働三権は、みなさん中学や高校あたりで習ったかと思います。でも、言葉だけはうっすら覚えていても、実際どういうことなのかを知らない人は意外と多いようです。
一般的に、何か紛争が生じた場合に、相手方に対して交渉を求めたとして、その交渉に応じるか応じないかは相手方次第です。労働者個人が経営者に何か言いたいことがあって話し合いを求めても、経営者は拒否できます。弁護士が代理人となって会社に交渉を申し入れても、無視されたり交渉を拒否されたりすることもまれにあります。
もちろん、その場合には労働審判や裁判などの法的措置をとることにはなるわけですが、会社が労働者やその代理人からの交渉申し入れを拒否すること自体は違法でも何でもありません。
一方、労働組合が交渉を申し入れた場合に、正当な理由なくして使用者は拒否できません。拒否すれば違法となります(「不当労働行為」労働組合法7条2号)。経営者に対して話し合いを法的に強制できるという強い権限が労働組合にはあります。
組合が求めた資料を正当な理由なく開示しないといったような不誠実な対応を会社がした場合も、「不誠実団交」として違法となります。
また、弁護士の場合、その交渉の基本は法律上の根拠があるものに限られてきますが、労働組合の場合は、法的根拠に縛られずに、賃上げなど労働者の権利向上のための自由な要求をしていくことができます。
さらに、この交渉に力を与えるのが、団体行動権です。団体行動権の中でもっとも強力なのがストライキですが、それに限らず、街頭での宣伝やビラ配布、インターネットでの発信などの宣伝行動も団体行動の一つです。
労働者個人が会社前で経営者を批判するチラシを配ったりインターネットで会社の批判をしたりすれば、会社の信用を毀損したとして損害賠償を請求されたり、威力業務妨害(刑法234条)や強要罪(刑法223条)に該当するとして処罰されたりするリスクがあります。
しかし、労働組合が実施する正当な宣伝行動に対しては、経営者は損害賠償を請求することはできませんし(労働組合法8条)、刑事上の処罰を課すこともできません(労働組合法1条2項、刑法35条)。こうした団体行動による圧力を背景にして、交渉により労働者の要求を勝ち取っていくというのが労働組合であり、そのような労働組合の活動を応援するために存在するのが憲法28条であり労働組合法なのです。
労働組合に縁のない方が多数とは思いますし、現場ではなかなか声を上げるのも大変なのが実際のところだろうとは思いますが、まずは働く上での基礎知識として、労働組合や労働者にどんな権利が認められているのかという基本的なところを押さえてほしいと思います。
個人でも入れるユニオンが各地にありますので、そうしたところにもアンテナを張っていただくことをお勧めします。
【取材協力弁護士】
今泉 義竜(いまいずみ・よしたつ)弁護士
2008年、弁護士登録。労働者側の労働事件、交通事故、離婚・相続、証券取引被害などの一般民事事件のほか、刑事事件、生活保護申請援助などに取り組む。首都圏青年ユニオン顧問弁護団、ブラック企業被害対策弁護団、B型肝炎訴訟の弁護団のメンバー。日本労働弁護団、青年法律家協会、自由法曹団所属。
事務所名:東京法律事務所
事務所URL:http://www.tokyolaw.gr.jp/