2022年04月05日 10:11 弁護士ドットコム
兵庫県姫路市の清元秀泰市長が、3月16日に開かれた姫路独協大学の卒業式で、「自分を三流大学出身と思っていたら、四流や五流になるかもしれない」などと述べたと報じられた。
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神戸新聞(3月29日)によると、清元市長は同大の卒業生ら約300人の前で、自身が卒業した香川医科大学(現・香川大学)を「(市長の進学当時は)新設大学で偏差値も低く、三流医大と呼ばれた」と説明。「三流大学でも母校を誇りに思い、恥じない生き方をしてきた。皆さんも一流の生き方をしてほしい」などと祝辞で話したという。
清元市長は同紙の取材に対し、「激励したつもりが、品格のない発言になった。不快な思いを与えたなら謝罪したい」と釈明したようだ。悪意はなさそうだが、大学や卒業生を「三流」と表現した発言と受け取られかねない。
仮に、大学や卒業生のことを「三流大学」「三流大学出身」と表現した場合、名誉毀損にはならないのだろうか。本間久雄弁護士に聞いた。
——大学や卒業生に対して「三流」と表現した場合、名誉毀損に当たるのでしょうか。
名誉毀損とは、人の品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価のことをいいます(最高裁昭和61年6月11日判決、最高裁平成9年5月27日判決)。
名誉毀損が成立する場合、名誉を毀損された人は、名誉を毀損した人に対して、民事上の法的救済として、損害賠償や、名誉を回復するのに適当な処分(謝罪広告・訂正広告・謝罪文の交付等)を請求することができます。
刑事上の法的救済としては、捜査機関に告訴することができます。名誉毀損の法定刑は、3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金です。
ただ、刑法上の名誉毀損が成立するためには、民事上の名誉毀損と異なり、「事実の摘示」が必要となりますので、単なる意見や論評の表明では、刑事上の名誉毀損を問うことは難しいです。
また、裁判実務上、名誉毀損は特定人に対してされる必要があり、単に漠然と集団を対象として名誉毀損的な発言をしたとしても、名誉毀損は成立しないとされています。
有名な裁判例として、石原慎太郎元都知事の「文明がもたらしたもっとも悪しき有害なものはババァなんだそうだ」という発言について、多数の女性が原告となって石原元都知事を訴えた事件があります(東京地裁平成17年2月24日判決)。
この事件の判決は「『生殖能力を失った女性』ないし『女性』という一般的、抽象的な存在についての被告の個人的な見解ないし意見の表明であって、特に原告ら個々人を対象として言及したものとは認められない」として原告らの請求を棄却しました。
今回のケースについても、「姫路獨協大学に通う学生」という一般的、抽象的な存在についての個人的な見解や意見の表明であれば、名誉毀損が成立することはないでしょう。
ただし、法律的には名誉毀損が成立しなくとも、市長が卒業式において物議をかもすような発言をしたという事実は、次の選挙の際に有権者が投票する際の判断材料となることは間違いないでしょう。
——侮辱罪についてはどうでしょうか。
刑法231条は、「事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する」と規定しています。
拘留とは、1日以上30日未満の期間、刑事施設において身柄を拘束して自由を奪う刑罰のことをいいます。科料とは、1000円以上1万円未満の金銭の納付を命じる刑罰のことをいいます。
事実を摘示しなくとも(刑法上の名誉毀損罪が成立しなくとも)、公然と人を侮辱した場合には、量刑は軽いですが、刑事罰が科せられることになります。
平成18年には、飲食店で居合わせた女性に対して「デブ」と侮辱した市議会議員に29日間の拘留が科せられたことがニュースになりました。
刑法231条の「人」とは、前述の名誉毀損の場合と同様、特定人のことを指しますので、一般的、抽象的な存在についての個人的な見解や意見の表明であれば、侮辱罪が成立することはないです。
ただ、たとえ法律上違法とされなくとも、公の場で人を傷つける可能性のある発言を控えた方が良いことは言うまでもありません。
【取材協力弁護士】
本間 久雄(ほんま・ひさお)弁護士
平成20年弁護士登録。東京大学法学部卒業・慶應義塾大学法科大学院卒業。宗教法人及び僧侶・寺族関係者に関する事件を多数取り扱う。著書に「弁護士実務に効く 判例にみる宗教法人の法律問題」(第一法規)などがある。
事務所名:横浜関内法律事務所
事務所URL:http://jiinhoumu.com/