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「退職届は無効」訴えた大手警備会社の男性が勝訴  退職しなければ「警察行きと誤信した」

2022年04月01日 16:11  弁護士ドットコム

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大手警備会社テイケイで警備員として勤務していた男性(50代)が、退職は無効だとして、会社側に地位確認などを求めた訴訟で、東京地裁(戸室壮太郎裁判官)は退職の意思表示は無効だとして男性の請求を認めた。判決は3月25日付。


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判決では、男性が遅刻の事実について勤怠システム上で誤った入力をしたことをめぐり、会社側は「執行猶予が付かない重大な犯罪であるとの虚偽の説明」をしたと認定。



「退職すれば警察には連れて行かない」旨を告げられた男性は、「犯罪者として警察に突き出されることを避けるためには退職するしかないと誤信した」として、退職の意思表示は錯誤によるものだとして無効とし、地位確認のほか、退職扱いとなって以降の賃金約1000万円の支払いも認めた。



4月1日に都内で開かれた会見で、原告代理人の髙橋寛弁護士は、「退職しなければ警察に突き出されることになると誤信したことで、錯誤が認められたのは珍しいのでは」と話した。



●裁判までの経緯

判決によると、男性は2019年2月、列車見張り業務をおこなっていたところ、昼休憩中に寝過ごしてしまったため、休憩明けの業務に約1時間ほど遅刻した。



現場監督者から注意を受けたものの、休憩時間を2時間と申告する旨の指示はなく、男性は通常の遅刻と同様に給料が減額になるとは思い至らなかった。その後、勤怠システム上では、遅刻がなく現場に戻ったものとして勤怠入力をし、勤務実績報告書にも休憩時間1時間と記載した。



顧客から苦情があった会社側は2019年4月、遅刻があったという男性を含む3名を業務時間後にホテルへ連れていき、当初は「決意表明」として反省文を書くよう指示していた。



ところが、会社側は、決意表明を書き終えた頃に「話が変わってきた」として、勤怠システム上に虚偽の勤怠入力をしており、遅刻時間についても給料を受け取っていることを指摘。「電子機器等詐欺罪という執行猶予のつかない犯罪である」などと告げた。



会社の法務部が警察署に通報する旨述べたように装うなどしたうえ、会社側が「ただ、去る者追わずっていうのはありますよね」などと述べたため、男性は「退職すれば警察に突き出されないが、会社に残れば警察に突き出す」と理解し、警察に突き出される不安もあり、その場で退職届を書いて、会社側に提出した。



男性はその後、2019年5月に退職届を撤回する旨の通知を会社に送付。同年8月に東京地裁に対し、労働審判を申し立て、同地裁は同年12月に男性の退職を双方が確認し、会社側から男性に対する解決金90万円を支払う内容の審判をしたが、会社側が意義を申し立て、今回の訴訟に移行した。



●退職の意思表示は「動機の錯誤」で無効

もっとも、電子計算機使用詐欺罪は執行猶予が付くこともある犯罪で、判決も「虚偽の説明」と指摘。さらに、男性は故意に給与をだましとろうとしたものではないので、同罪に当たるとの説明も虚偽だと認定した。



判決は、会社側の虚偽の説明などにより、男性は犯罪者として警察に突き出されることを避けるためには退職するしかないと誤信したため退職の意思表示をしたものであり、「警察に行くのは困る」と述べた上で退職届を作成しているから、動機に錯誤があったとして、退職の意思表示は無効であると結論づけた。



原告代理人の佐々木亮弁護士は、反省文を書かせるところから、最後に退職届を書かせた会社側の一連の対応について、「うまい流れを作った」と皮肉まじりに批判。「裁判所はしっかり事実認定してくれた」と判決を評価した。



テイケイは、弁護士ドットコムニュースの取材に対し、「現在、判決内容を精査しており、適切な対応を検討する」と回答した。