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4月1日からホテルの歯ブラシがなくなるってホント?

2022年04月01日 10:31  弁護士ドットコム

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使い捨てプラスチック製品の削減などを提供企業に求める「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」(プラ新法)が、4月1日から施行された。


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対象となる「特定プラスチック使用製品」(特定プラ製品)は、同法施行令で定められた12品目。コンビニや飲食店などで提供されるフォークやスプーン、ホテルで利用される歯ブラシやヘアブラシ、クリーニング店で提供される衣類用ハンガーなどが含まれる。



12品目の提供削減を事業者に求める方針については、2021年8月時点で環境省と経済産業省が明らかにしていたが、2022年3月には、<全国のホテルは客室に歯ブラシ等のアメニティを置くことが出来なくなります(リサイクル製品以外)。各宿泊業者はその準備に現在大騒動になっています>とのツイートが3万9000件以上リツイートされるなど大きな話題になった。



新法施行の直前に注目を集めたのは、国民生活への影響が広いことの裏返しともいえる。もっとも、有名ホテルの関係者は「特定プラスチック使用製品を切り替える動きはわりと鈍い」と話す。



●「特定プラ製品」がホテルに置けなくなるわけではない

特定プラ製品を提供する事業者は、特定プラ製品使用の合理化の取り組みとして、具体的には以下の対応を求められる。どの対応を選ぶのか、どう組み合わせるのかは事業者に委ねられており、すべてに対応しなければいけないわけではない。



【提供方法の工夫】
・消費者に特定プラ製品を有償で提供する
・消費者が特定プラ製品を使用しないように誘引するためのポイント還元等をする
・特定プラ製品が必要か否かを消費者に確認する
・特定プラ製品を繰り返し使用するよう消費者を促す



【提供する特定プラスチック使用製品の工夫】
・製品設計や原材料の種類(再生可能資源等)について工夫された特定プラ製品を提供する
・サービスに応じて適切な寸法の特定プラ製品を提供する
・繰り返し使用可能な製品を提供する



これらの対応は努力義務とされており、前年度における特定プラ製品の提供量が5トン以上の事業者(特定プラスチック使用製品多量提供事業者)を除き、義務違反となっても罰則はない。



大手ホテルなどの特定プラ製品多量提供事業者については、取り組みが著しく不十分な場合、勧告・公表・命令・罰則を受ける可能性がある。



もっとも、特定プラ製品を必ず有償化しなければいけないわけではなく、特定プラ製品の提供が全面的に禁じられているわけでもない。



●「アメニティの不備はクレームに直結しやすい」

実際のところ、ホテル客室のアメニティを2022年4月から全面的に有料化あるいは廃止するという動きは目立っていない。



帝国ホテルグループ(東京都千代田区)は、特定プラ製品年間使用量の約70%削減(対2019年度比)を目指し、ヘアコームは提供廃止の方向だが、歯ブラシとカミソリは竹製、ヘアブラシは木製、シャワーキャップはバイオマス素材に順次切り替えていくことを明らかにしている。



「阪急ホテル」や「第一ホテル」などを運営する阪急阪神ホテルズ(大阪府大阪市)は、提供するアメニティを「歯ブラシ・ヘアブラシ・カミソリ」に絞り込み、必要に応じてフロントロビーで提供する方式に変更するとしている(一部グループホテルでは「綿棒・コットン」も提供)。



「リーガロイヤルホテル」を運営するリーガロイヤルホテルグループ(大阪府大阪市)は、客室内にこれまで用意していたシャワーキャップとくしの設置を取りやめ、客の求めに応じて必要分のみを提供するとしている。



全面的な有料化・廃止とはならないことについて、大手ホテルの関係者は、「ホテルの客室にはアメニティが当然揃っているという意識が、ホテル側にも宿泊客側にも根強くある」ことを理由の1つに挙げる。



「『アメニティはあって当たり前』と思われていることが多く、アメニティに関する不備は、宿泊客からのコンプレ(クレーム)に直結しやすい。ホテルの評判やイメージが悪化するおそれもあり、いきなり全面的な有料化・廃止に踏み切ることにはどこも躊躇してしまうのでは」(ホテル関係者)



●プラ製品からの代替品にも一抹の懸念

アメニティに関する不備という点では、特定プラ製品からの代替品について、「ホテルとして安心して提供できるところまで成熟しているかどうか」との懸念もあるという。



「近年、ほとんどのホテルが『SDGs』を前面に掲げており、その一環として早くからプラ製品を竹製品などに代替しているところもあるが、在庫として一定期間保管していた竹製品にカビが生えていたという話を耳にしたことがある。そうなると、製品そのものについてもう少し様子を見たいという方向に意識が向く」(ホテル関係者)



また、これまで使用していた特定プラ製品の「在庫」を抱えたままにするわけにもいかないようだ。



「アメニティについては少し前から追加発注などはストップしているところがほとんどだろうとは思う。もっとも、全国展開するような大規模なホテルであれば、購入額も大きく、途中で製品変更することも難しい。



そのため事前に相当量を発注することになり、その発注分の『在庫』が残っているはず。会社として、『2022年4月になったので、在庫の特性プラ製品はすべて廃棄します』というわけにはいかないのではないか」(ホテル関係者)



プラスチック使用量の削減は社会全体の課題だ。プラ新法は、事業者だけでなく消費者に対しても、プラ製品の過剰な使用を控えるなどの努力義務を課している。




第四条
2 消費者は、プラスチック使用製品廃棄物を分別して排出するよう努めなければならない。
3 事業者及び消費者は、プラスチック使用製品をなるべく長期間使用すること、プラスチック使用製品の過剰な使用を抑制すること等のプラスチック使用製品の使用の合理化により、プラスチック使用製品廃棄物の排出を抑制するとともに、使用済プラスチック使用製品等の再資源化等により得られた物又はこれを使用した物を使用するよう努めなければならない。




ホテル側がアメニティでの不備による評判やイメージの悪化におびえずに済むよう、客側の意識も変わっていく必要があるだろう。