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海賊版サイトの現在地 Vol.2 ネタバレサイトの問題点は“ネタバレ”ではない…著作権侵害のポイントを整理する

2022年03月31日 12:06  コミックナタリー

コミックナタリー

「海賊版サイトの現在地」第2回ヘッダー
2022年2月3日、「漫画ル ~無料漫画感想ネタバレビュー」を運営していた法人および人物が、著作権法違反の容疑で福岡県南警察署により書類送検された。「漫画ル」はマンガのセリフやストーリーをほぼそのまま抜き出して無断掲載する、いわゆる“ネタバレサイト”のひとつ。小学館ではサンドロビッチ・ヤバ子原作・だろめおん作画の「ケンガンオメガ」のストーリーが詳細にわかるよう掲載されていたことから訴訟を行ったが、「漫画ル」は「ケンガンオメガ」のみならず、各出版社が発行する多数のマンガ作品について、ストーリー内容を著者に無断で公開していた。

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マンガのネタバレサイトは、マンガ業界においてここ数年で対策が進み始めた問題のひとつである。2017年には「ジャンプ感想ネタバレあらすじまとめ速報」「ワンワンピースまとめ速報」の運営者計5人が逮捕。今回書類送検された「漫画ル」も、小学館が「ケンガンオメガ」の著作権侵害として動き出し、昨年には裁判所からサーバ管理会社に対する発信者情報の開示命令が出されていた。

こうした「ネタバレ」を問題視する動きはマンガの世界だけで起こっているものではない。映画では「ファスト映画」と呼ばれる要約動画が問題となり、2021年6月には国内初の逮捕者が出た。映画の業界団体であるコンテンツ海外流通促進機構(CODA)は、ファスト映画の被害総額を年間約956億円と推定している。

だが、コンテンツそのものを違法に公開する海賊版サイトに比べると、ネタバレサイトの問題は直感的に理解しづらい部分がある。

「ケンガンオメガ」を争点にネタバレサイト訴訟に関わった小学館・マンガワン編集部の和田裕樹編集長と中島博之弁護士に話を聞きながら、ネタバレサイトの問題点を整理していく。

取材・文 / 小林聖

■ ネタバレサイトを読むのは誰なのか?
ネタバレサイトはここ数年で問題が顕在化してきた存在だ。中島弁護士はこう指摘する。

「昔から5ちゃんねる(旧・2ちゃんねる)などの掲示板サイトでも『今週のこのマンガはこうなってるよ』みたいな投稿はあったわけですが、ここ数年でそうしたものを本格的に、組織的に行って広告収入を得るサイトが目に付くようになってきました。今回摘発されたサイトも作品名と『ネタバレ』で検索するとすぐ出てきてしまうようなもので、そこを見ると最新話まで詳細に内容が読めてしまう。大きな問題です」(中島弁護士)

では、ネタバレサイトが商業的に成立するほどの需要はどこにあるのだろうか? 海賊版サイトは「マンガを読みたいけどお金を払わずにすむならそのほうがいい」というわかりやすい利用者像があった。前回のコラムでも触れているが、気軽に利用できてしまうサイトのフォーマットも相まって、いわゆるライトなマンガ好きを多く巻き込んで成長していった。

一方、ネタバレサイトはマンガそのものを掲載しているわけではない。どういう人たちがサイトを見ているのだろうか。和田編集長はこう分析する。

「あくまでイメージですが、けっこうマンガを読んでいる人だと思います。例えば、話題作なんかはひととおり押さえておきたいけど、全部読む時間はない、あるいは買うお金がない。マンガってけっこう読むのにも時間がかかりますけど、文字ならさっと流し読みできるわけです。とりあえずさっと流れを読んで内容を把握して、みんなとの会話についていけるようにする。そのうえで、本当に好きな作品にはお金を使っているというタイプがいるのかな、と」(和田編集長)

こうしたニーズはファスト映画と同様の部分があるだろう。時間とお金をなるべくかけずに話題についていくために使う人たちだ。

また、買うかどうかを決めるためにいったんネタバレサイトを読むという人たちもいる。

「話題になっている作品があって、気になってはいるけど、いきなり全巻買うのはためらう人も多い。そういうときにひとまずネタバレサイトでどういう話かを見て考えようというわけです」(和田編集長)

Twitterで検索をかけてみると、確かにそうしたユーザーが見つかる。購入するか検討するためにまずネタバレサイトで確認しようという、いわば試し読み感覚で利用する人だ。また、悲しい展開や自分が苦手な展開がないか事前に確認するためにチェックするユーザー、アプリなどの無料掲載分を読んで先の展開が気になって読むユーザーなどもいた。

「まずネタバレサイトで読んでみるという人たちは、もちろん買ってまで読まなくていいと思っている場合もあるでしょうが、それなりに作品が気になってはいたのは間違いない。結果的に作品を買わなかった人の中には、本来なら私たちのお客さんになってくれていた人がいたかもしれないわけです。特にマンガワンの場合は基本無料ですが、最新話を早く読みたい人や一気に読みたい人はチケットを購入していただくというシステムです。チケットを使って最新話を読む人はやっぱり続きが気になる、いち早く読みたいと思うからお金を払ってくれているわけですね。ネタバレサイトは最新話のあらすじをまるごと掲載しているので、とりあえず続きの展開を知って、マンガは無料で読めるようになるのを待つといった行動も生んでしまう。マンガワンはそういう直接的な被害が見えやすいので、小学館の中でもネタバレサイト問題の最前線に立ちやすい編集部だと思います」(和田編集長)

ちなみに、興味深かったのは正規にコンテンツを読んだ(見た)であろうユーザーもネタバレサイトを利用しているという旨のツイートが見つかることだ。読んだり見たりしたが内容を忘れてしまったのでネタバレサイトで確認したり、内容が複雑で理解しきれなかったために文字でおさらいしながら整理しようとするユーザーだ。

いずれにせよ、やはりマンガ(などのコンテンツ)そのものではなく、文字ベースのものなので、海賊版サイトに比べるとあまり抵抗や後ろめたさを感じずに話題に挙げているユーザーも多い印象だった。

■ ネタバレサイトという名の「劣化コピー」
では、ネタバレサイトの問題点とはなんなのだろうか? 中島弁護士は“ネタバレ”サイトという名称が誤解を与えている部分があると指摘する。

「この名前で世の中に広まったことで誤解をしている方もいるんですが、ネタバレそのものは違法ではないんです。今回の『ケンガンオメガ』関連の話でも、問題にしているのはマンガの中のセリフなどをそのまま抜き出して、内容を丸ごと掲載していることです。これは著作権侵害ですよね、と。そういう意味で、私は『文字抜き出しサイト』という呼び方をしています」(中島弁護士)

2021年のサーバ管理会社への発信者情報開示請求の際も、小学館側は「ケンガンオメガ」の作中のセリフなどがサイト上でほぼそのまま使われていることを著作権侵害のポイントとして挙げている。

和田編集長はこう話す。

「つまり、ネタバレサイトと呼ばれるものがやっているのは劣化コピーなんです。マンガの絵そのものをそのまま載せているわけではないけれど、その内容、作家さんが生み出したものを形を変えた模倣品にして公開することで収益を得ているわけです。ネタバレサイトの運営者は『海賊版サイトと違って文字で内容を載せているだけだから捕まったりはしないでしょ』と考えていたわけですが、2月に書類送検されたことで『その理屈は通りませんよ』というのがハッキリした」(和田編集長)

もちろん、公開直後の映画などの結末を悪意から公開する、いわゆるネタバレ行為も迷惑ではある。だが、そうした行為は著作権の問題ではない。よほど悪質なケースでなければ訴訟に踏み切る可能性は低いだろうが、「もし対応するのであれば著作権侵害ではなく業務妨害などが考えられる」と中島弁護士は言う。

問題は「ネタバレ」でなく「コピー」すること。「ケンガンオメガ」関連の裁判では特に作中のセリフや文字と、掲載内容のテキストの一致をポイントにしているが、仮に作中のセリフなどをそのまま使わずに多少変更を加えて内容掲載したとしても、実質的にオリジナルのコピーであると判断できれば著作権侵害として認定されるだろうと中島弁護士は話す。言い訳的に作中のそのままの文言を避けても、裁判例では「多少の修正増減があっても著作物の同一性を損なうことのない、すなわち実質的に同一である場合」は法的に問題になるということだ。

模倣品をつくっているという意味では、いわゆるネタバレサイトも海賊版サイトの一種なのだ。

■ 「コピー」と「感想」は別のもの
問題は「コピー」。だからこそ、普通のファンは心配しないでほしいと和田編集長は言う。

「今回のサイトだってどう見ても作品内容をそのまま公開するのが目的で、感想とかレビューといったものとはまったく違う。少なくとも我々の編集部は感想などで内容に触れたり、ちょっとした画像が使われることは問題にしていないし、むしろ感想はどんどん書いてほしいと思っています。その中で内容に触れることだって当然あるし、それは問題だとまったく思っていません」(和田編集長)

和田編集長は有害なネタバレサイトと判断するうえで、個人的な基準を3つ挙げる。

「ひとつは書いている内容の主従関係。感想という“主”のためにあらすじや内容を載せているのでなく、あらすじが“主”になってしまっているとすればそれはコピーですよね。今回のサイトもまさにそうです。もうひとつは金銭の発生。今回のサイトも法人が商売のためにサイトを運営していた。作家さんが生み出したもののコピーをつくって利益を上げていたわけです。そして、公開範囲も大事だと思っています。例えば、一般の人が友達同士で『このマンガのこのページ、面白かったよ』とかメールなどで送っていても、それは大きな問題ではないと思うんですね。でも、誰でも見られるように世界中に公開したら、作家さんのものを勝手に公開したのと同じことになってしまう。この3つが重なったものが、特に悪質なものだと考えています」(和田編集長)

小学館の知財・契約室の長江室長は「引用」というものへの誤解もあると指摘する。

「今回の件でもサイトを運営していた人物は『引用の範囲内だと思っていた』というようなコメントをしているんですね。もちろん本当に著作権法に定められた『引用』の要件を満たしているならば問題ありませんし、著作権者の許諾も必要ありません。書評などで正しく引用されているなら、我々にご連絡いただく必要はない。ですが、今回のようなサイトでは、明らかに本文と引用物の主従関係が成り立っていないので引用ではなく「無断転載」です。『引用』というものが都合よく解釈されているように思います」(知財・契約室 長江室長)

法律の定める「引用」はいくつかの要件がある。

引用部分が公開された著作物であること引用部分がはっきり区分されていること著作物と引用物の主従関係正当な範囲内の引用出典明記著作者人格権を侵害しないことなどが主要な要素だが、特に「誤解」のポイントになりやすいのは「著作物と引用物の主従関係」と「正当な範囲内の引用」という点だろう。

主従関係は今回の件でも問題になっているとおり、感想など引用を行う側の文章、著作物が“主”であり、引用物が“従”になっているかという問題だ。

この主従関係を前提として、「正当な範囲内の引用」が可能になる。この「正当な範囲」は「引用の必然性があるか」「引用の範囲や量が必要な範囲か」「引用方法が適切か」といった要素から判断される。

今回問題になったネタバレサイトの場合は、引用部分の区分など形式としても引用の形になっていないが、そもそも「主」となるような文章が存在せず、引用物自体が「主」となっている。「正当な範囲内の引用」に関しても、「主」となる独自の著作物がないので当然引用の必然性などもない。明らかに「引用」には当たらないケースだ。

■ ファンもまた作品との共存を模索する必要がある
繰り返しになるが、こうした厳密な法的線引きが一般的なファンの活動で訴訟問題にまで発展することはあまりない。筆者が取材なども含めて交流してきた感触としては現在の編集者(あるいは編集部)は、商業的なケースは別として、基本的には一般のファンの感想は歓迎している。厳密に言えば「引用」にあたるか微妙な、コマを用いた投稿なども、少なくとも感想に伴うようなものとは共存したいと思っている場合がほとんどだ。現状出版社が問題視するのは、法とコモンセンスの狭間のようなファン活動ではなく、作品を使って商売をするような露骨に悪質なものだ。

そういう意味で、読者が考えることがあるとすれば、どう作品と共存するかということだろう。

和田編集長の話もそうだが、現状多くの場合出版社などが問題視するのは作品を「利用して」何かを得ようとする行動だ。得るのは金銭かもしれないし、不特定多数の注目かもしれない。いずれにせよ、作品を「利用」する行動は問題視され、法律という判断基準が持ち出されることになりやすい。

逆にいえば、法律はおおむね作品を守る手段であり、出版社は法に触れる(と思われる)ものすべてを問題視しているわけではないというのが、出版社の人たちと話す中で筆者が感じる実感だ。

今回の取材をする中で印象的だったのは和田編集長の「安心して作品をつくれる場を守る」という言葉だ。

「海賊版、ネタバレサイト対策は防御的な行動で、お金も労力もかかるけれど、対策によって儲かるわけではない。だから、本来ならこんなことに時間を使うくらいなら面白いマンガをつくることに力を尽くさないといけないんです。でも、我々は作家さんの原稿を『お預かり』しているわけです。お預かりした作品が好き放題コピーされていたら、マンガ家さんたちだって安心して作品を描けませんよね。ネタバレサイトはまだまだ多いですし、これだけですべてが解決したわけではありませんが、マンガワンという場を選んでくれたマンガ家さんたちには安心して描いてもらいたいし、『我々はお預かりした作品を守ります』という姿をお見せすることが長期的に非常に大事なとこだと思っています」(和田編集長)

作品を守る。そのための手段のひとつとして著作権法は使われている。どういうものから守らなければならないかは、そのときどきによっても変わるだろうが、ファンの善意の感想や楽しむ声から守らなければならないということは基本的にはない。

法律という基準はもちろん重要なことだが、その以前の問題として私たちが考えるべきなのは、作品に対して自分たちが邪悪な行動をしていないかということだ。この前提がなければ、「法の抜け道を突けるならばよい」ということにもなってしまう。

出版社らが読者と共存したいと模索するように、読者も作品と共存しようという意思が必要で、どう共存すべきかは常に問い直す必要がある。それは当然、海賊版サイト運営者などが作品を「利用」しているのを、「知名度向上に貢献している」といった理屈で覆い隠すような共存理論であってはならない。

「マンガという文化がこれだけ成熟できたのは、マンガが『食べていける夢のある仕事』だったからだと思います。こういう取り締まりによって安心してマンガ家さんが作品を描けて、ファンが安心して続きを楽しめるようになる。せっかく日本ではマンガが非常に豊かな文化になれたわけですから、みんなでそういう環境を守っていければと思います」(和田編集長)

「みんなで環境を守る」という言葉の「みんな」には、出版社サイドの人たちだけでなく、私たち読者も含まれていると思うのだ。