2022年03月30日 15:51 弁護士ドットコム
50代の男性課長(当時)からわいせつな写真を送りつけられるセクハラが原因で退職に追い込まれたとして、印刷会社(東京都港区)で働いていた30代女性が3月30日、同社と営業課長に440万円の損害賠償を求めて東京地裁に提訴した。
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女性は課長から3回にわたって約150枚ものわいせつ写真などを会社に送りつけられた。会社側に恐怖心や嫌悪感を訴えたが、何も対応してもらえなかったという。
提訴後に会見を開いた女性は、「今回心当たりのないわいせつ物を送りつけられ、怖い思いをしました。生々しく気持ち悪くて、忘れたくても忘れられません」と訴えた。
訴状によると、女性は2015年5月に正社員として雇用され、広報物のデザインなどを担当していた。男性は当時営業課長で、デザインについて日常的に女性と仕事をする機会があった。
2020年1月~4月までの間3回にわたって、会社住所の女性宛に封書が届いた。1回目は16枚のわいせつ写真、2回目は30枚のわいせつ写真、3回目は100枚のわいせつ写真とわいせつな器具が同封されていた。
差出人は実在する出版社名が記載されており、同封された書面には「新春アンケートのお礼の発送物に作業上の不備がありました。再度お詫びの気持ちを込めまして、一律に同封物(写真・グッズ)をプレゼント(無料)送付させて頂きます」などとアンケートのお礼をうたうものだった。
女性は3月に警察署に相談。筆跡鑑定の結果、6月に送り主が営業課長であることが判明した。8月には家宅捜索が行われ、会社の聞き取りに対しても送付したことを認めた。
それから女性は、課長と社内で出くわすのではないかという恐怖心で、不眠や業務に集中できないなどの症状が現れるようになった。
送り主が判明したあと、女性は会社側に「課長と物理的に離してほしい」と要望したが、担当者は「警察からの指示があるまでは処分はできない」「こっちが早く処分して、課長から厳しすぎると訴えられたりするのも困るし」などと対応しなかった。
さらに、「彼は良かれと思ってやってたみたいだよ」「逆にいうと、ばれないようにやるとかさ、誘拐犯みたいに新聞の文字を切りとってやるとかさ」など、あたかもやり方を変えれば問題なかったかのように課長を擁護し、女性を侮辱するような発言をしたという。
その後も、女性が謝罪を受け入れさえすれば問題が解決するようなことを言われ、課長が懲戒処分すらされないことから、女性は安心して仕事を続けることができないと判断。2021年3月に退職した。
女性は「会社の対応にも納得することはできません」と憤った。
「顔と顔を合わせたくないと訴えたが、会社は加害者の言い分ばかりを聞いて正当化までして、『当事者間の問題だ』とまるで会社に責任はないというような返答で放置しました」
加害者は、懲戒処分もなくそのまま働いていたという。
「精一杯交渉したが届かず最終的に退職せざるを得なかった。加害者本人と謝罪がないことにもとても傷ついています。悲しさと悔しさでいっぱいです。メンタル面でも相当なダメージを受けました。家族ともども不安で過ごしています。元の日常を返してほしい」
課長はストーカー規制法違反の疑いで書類送検されたが、2021年11月に不起訴処分となった。「特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情またはそれが満たされなかったことに 対する怨恨の感情を充足する目的」という要件を満たさなかったためだという。
代理人の岸松江弁護士は「法律の抜け穴」を指摘する。
「刑法のわいせつ物頒布等罪(175条)は、『頒布』する行為や『公然と陳列』する行為が規制の対象になっているが、個別に送りつけている場合は要件を満たさない。さらに、東京都の迷惑行為防止条例では、『特定の者に対するねたみ、恨みその他の悪意の感情を充足する目的で』という要件があり、今回は悪意の感情とは認められなかった。これは法の不備もあるのではないか」
会社側は「訴状を受領していませんので、回答ができかねます。訴状を確認の上、適切に対応いたします」とコメントした。
追記:会社側のコメントを追記しました(3月31日9時40分)