2022年03月30日 15:01 弁護士ドットコム
俳優・石川優実さんの書籍に掲載されたツイートをめぐる裁判の控訴審判決が3月29日、知財高裁であった。書籍によって著作権と名誉感情を侵害されたとして、ツイッターの匿名ユーザーが、石川さんと出版社に損害賠償などをもとめたが、知財高裁は、請求を棄却した1審判決を支持して、原告側の控訴を棄却した。(ライター・玖保樹鈴)
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石川さんは2019年1月、当時アルバイトをしていた葬儀会社のパンプス着用規定について、<私はいつか女性が仕事でヒールやパンプスを履かなきゃいけない風習をなくしたいと思ってるの>とツイッター上でつぶやいた。
その後、「靴」に「苦痛」をかけあわせた「#KuToo」運動を展開するようになり、メディア出演や署名活動などを始めた。すると、石川さんの言動や、「#KuToo」運動に対するバッシングのほか、過去のグラビア写真をわざわざ本人に見せつけるなどの嫌がらせがあいついだ。
そんな中、ツイッターを利用する原告は2019年6月、「男だけど#Kutooに賛同します」とつぶやいたアカウントとやりとりをする中で、次のようなリプライをした。
<逆に言いますが男性が海パンで出勤しても#kutooの賛同者はそれを容認するということでよろしいですか?>
この投稿に対して、石川さんは<そんな話はしてないですね。もしも#KuTooが「女性に職場に水着で出勤する権利を!」ならば容認するかもしれないですが、#KuTooは「男性の履いている革靴も選択肢にいれて」なので>と引用リツイートした。
その後、石川さんは自身のつぶやきに対する「クソリプ」(クソみたいなリプライ)と、それへの反論をまとめて、2019年11月に『#KuToo: 靴から考える本気のフェミニズム』(現代書館)として発売した。
この書籍には、原告の投稿も掲載されて、「対面でこんなへんてこりんな人に会ったことないしな」「Twitterになると急にバグるとか?」という解説文を添えていた。
原告は2020年8月、石川さんに宛てたリプライではないのに「クソリプ」と歪められて書籍に収められたのは著作権・名誉感情の侵害だと主張。さらに「#kutoo」としていたのに「#KuToo」と改変されたことで同一性保持権も侵害されたとして、石川さんと出版社に計約220万円の損害賠償や出版差し止めを求めて、東京地裁に提訴した。
東京地裁は2021年5月、「ツイートの掲載は、著作権法の「引用」に該当する」「『#KuToo』は『#kutoo』の誤記に過ぎず、同一性保持権を侵害したとはいえない」「(本の解説文は)社会通念上許される限度を超える侮辱行為に該当するということはできない」として、原告の請求を退けた。
控訴審で、原告側はツイートを書籍に掲載する際は実際のツイッター上の表示をそのまま掲載することが求められているのに、書籍内では返信先のアカウントを削除したページデザインになっていることは公正な慣行に合致しないと主張した。
さらにこのデザインは、原告が女性の靴問題に対して、男性が海水パンツで職場に出勤するという的外れな例を持ち出し、女性に海水パンツでの出勤を問う性的嫌がらせをする人物であるかの印象を与えるなどとして、110万円の追加請求をおこなっていた。
この追加請求も、知財高裁は「理由がない」として棄却した。
「2019年11月から今日まで、ネット上や、アマゾンレビューで、捏造や著作権侵害という言葉を目にしてきた。本を書いた自分ですら洗脳されそうになるぐらい、何回も何回も長期にわたって目にしてきた。何も知らない人は一体この本と私にどんな印象を持ったのか」
判決後のオンライン会見で、石川さんはこう口にしたうえで、次のように言葉を継いだ。
「法律や性差別についての知識がない人、ときには法律の専門家までも自分の思い込みによって、好き放題につぶやいた言葉が拡散され、まるで事実かのように印象が作られてしまう」
「私はツイッター上でのデマや嫌がらせ、セカンドレイプに対してはツイッター上で反論してきたが、そのたびに『もっと共感を得られるやり方でした方がいい』とか『見なければいい』『気にしなければいい』と言われ続けてきた。
その人たちの言う通りの選択をしていたら、きっと今頃この本は著作権侵害をしていて、私は違法行為をした人間だということに、世間一般の人たちの印象ではなっていたかもしれない」
「実際、私のもとに事実に基づかない思い込みによる批判や悪口が多数寄せられてきた。そうやって女性差別に抗議をする人間の発言を無効化することこそ、目的ではないか」
「誰かを批判したいときには、それが事実に基づいているかをまず確認してほしい。また、自分の中にある印象は、誰がどのように作ろうとしているか、ぜひ考えてみてほしい。自分の目で目にして、耳にしてからその人の評価をしてほしいと思う」
石川さんの代理人をつとめた太田啓子弁護士は「本来問題ではなかったことに対して、複数の法律家が『著作権法違反だ』と語ったことで、石川さんを快く思わない人たちや、攻撃したい人たちが嬉々として飛びついた。(石川さんが)訴えられたことが悪い印象を振りまく道具になっていたのは問題で、ミソジニー(女性嫌悪・蔑視)による事実を見る目の歪みは、本当に問題だと思う」と、背景に女性差別があったと主張した。
原告代理人は、女性差別を否定しているが、原告を支持して石川さんを攻撃する中には、女性差別的な書き込みをするツイッターユーザーも少なくない。
石川さんは、今回の判決については「こちらは訴えを退けたというだけであって、祝うような裁判ではない」としたうえで、「法的に私の主張が正しいとわかれば、フェミニストや女性の言っていることはおかしくないとわかってもらえるのではないか。発言している人ではなく、その内容で判断する癖をつけてほしい」と思いを述べた。
「#KuTooが女性差別の運動だと多くの人が理解できていたら、私が原告の発言に抗議する必要も、デマが広められることも、裁判が起こることもなかったと思う。本が発売されてから今日の裁判の結果が出るまで、根底にはミソジニー・女性蔑視がなかったのか、皆さんにはしっかり問題を認識してもらい、個人の問題と矮小化しないでもらいたい」(石川さん)