2022年03月30日 10:21 弁護士ドットコム
同人作品のダウンロード販売大手「DLsite」で、ユーザー資格を不当に取り消されたとして、同人作家の男性が運営会社を相手取り、慰謝料など約150万円の支払いを求める裁判を東京地裁に起こした。
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3月11日に第1回弁論が開かれて、運営会社「エイシス」(東京都千代田区)は請求の棄却を求めた。これから反論の準備を進めていくとしている。
弁護士ドットコムニュースが、訴状など裁判記録を閲覧したところ、男性がサイト上で販売しようとした成人向け作品のモザイク等が不十分だったことをめぐり、トラブルがあったとみられることがわかった(情報は閲覧した3月15日時点のもの)。(編集部・塚田賢慎)
事件の舞台となるのは、国内大手の同人作品ダウンロードサイト「DLsite」だ。
訴状によると、原告は個人事業主として、遅くとも2008年6月から、同サイトの販売者(サークル)となり、これまで150作以上の同人誌を一般ユーザーに販売してきたという。
ところが、2021年12月8日、「DLsite利用規約」の禁止行為が確認できたとして、同社からユーザー資格を取り消された。
DLsiteから同日送られてきたというメールの内容の一部を紹介する。
以下の「DLsite利用規約」禁止行為が確認できたため、規約に則りユーザー資格を取り消し致しましたのでお知らせします。 https://www.dlsite.com/home/user/regulations
第20条 禁止行為 DLsiteを利用する際、ユーザーは以下に定める行為(それらを誘発する行為や準備行為も含む)を行ってはならないものとします。
6.DLsiteの運営を妨害する行為またはDLsiteの信用を失墜、毀損させる行為
第21条 ユーザー資格の取消 ユーザーが、次の各号の一つにでも該当する場合は、DLsiteは当該ユーザーのユーザー資格をユーザーに何ら事前に通知及び催告することなく、一時停止または取り消すことができます。
4.DLsiteの運営を妨害した場合 9.本規約のいずれかに違反した場合 10.その他DLsiteがユーザーとして不適当と判断した場合
ユーザー資格の取り消し理由となる「運営妨害行為、または信用失墜・毀損行為」が何を指すのか、このメールでは具体的に示されていない。
原告側も、どのような行為が禁止行為に該当したかわからないとしているが、取り消し処分直前までの原告とDLsite担当者の間でのメール等のやりとりがヒントになりそうだ。
原告は『没落貴族の娘が触手姫に変わり果てるまで』という作品を販売するため、サイトへの登録を申請した。
しかし、作品全般にわたって、モザイク等による隠蔽が不十分で、性器や結合部が明瞭となってしまっている状態であるとして、サイト担当者から改めての修正を依頼された(2021年12月3日)。
その依頼を受けて、原告は作品を数回修正したが、そのたびに修正が不十分であるとの指摘を受けたとみられる。
12月3日から7日までの間に、メールしたり、問い合わせしたりして、担当者への不満などをDLsiteに送っている。
原告としてはモザイクを入れているという認識にもかかわらず、作品全体にわたって無修正の箇所が見受けられたとして、担当者が登録作業を進めないことや、修正した作品を提出しても、登録作業が進まないことへの不満が主な内容である。
さらに「こんな悪質極まりない連中なんかに、自分の作品を穢されてたまるか!」と修正を入れること自体への不満と思われる内容も伝えている。
また、担当者については「悪質行為を働いた二名をさっさとクビにしろ!」とまで書いている。サークル(作家)への精神的な負担を掛けることをもって、担当者あるいはDLsiteに向けては「本当にお前ら最悪だな! 地獄に堕ちろ!」という投げかけもあった。
原告側は、このようなメールの内容を事実だとしたが、「従前と異なる対応を受けたからであり、原告が販売のための申請した作品について、担当者によるモザイク処理の指示が曖昧であり、また、指示に従って修正した後の審査が遅れていること等を指摘したもの」として一定の正当性があると主張している。
また、担当者とのやりとりを、同社運営の掲示板に投稿したこともあったとするが、それは「事実を記載しており、被告の運営に対する問題提起の意味合いを含むもの」であり、これも一定の正当性があるとしている。
DLsite側がメールで通知し、原告の資格を取り消す根拠とした規約は、「DLsite利用規約」だ。2022年1月14日に「DLsiteユーザー利用規約」として改訂された。訴状の中で原告側はメールで示された規約の定めは存在しないとしているが、改訂前の規約には存在している。
ただ、原告側は、仮に規約が存在しても、メール等で不満を述べる行為や、掲示板への投稿には一定の正当性があり、規約違反には該当しないとしている。
さらに、契約の取消処分の有効性も認められないと主張している。
その理由のひとつとして、一度も事前に警告等を受けていないことを挙げている。
「正当な警告等が存在したにもかかわらず、違反行為を継続した場合には、『やむを得ない事由』等が認められてしかるべきであるが、本件では警告等が存在しない」
以上のことから、原告側は、処分は違法だとして、約150万円の損害賠償を求めている。
内訳は、収入のほとんどを断たれたことによる精神的苦痛を受けたとする慰謝料100万円と弁護士費用のほか、2021年11月以前の過去1年間の売上げから算出した月平均額(約40万円)から、同年12月に得られるはずの逸失利益だ。
なお、今後、賠償金は増額する可能性があるという。ユーザー資格の取り消し処分の無効は求めていなかった。
弁護士ドットコムニュースは3月17日、双方の代理人弁護士を通じて、作家とエイシス社にコメントを求めた(回答期限は24日)。
作家側は、現時点でコメントはしないとした。エイシス側から返事はなかった。
新しいユーザー利用規約の変更は12月22日に発表された。原告のユーザー資格取り消しから2週間ほどでの変更となる。前の規約で禁止されていた行為は9項目だったが、新規約では24項目と増加した。
エイシス社は公式サイト上で、「禁止事項に該当する行為を追加し、どのような行為が禁止されているのかについて明確になるように変更しました」「当社がユーザーのアカウント登録を抹消できる場合について明確化しました」と説明していた。
弁護士ドットコムニュース編集部からエイシス社におこなった質問には、この取り消し処分の影響が新規約にあるのかも含めていた。
「地獄に堕ちろ」などのメッセージの内容が正当性のあるものか、それとも理由のない「クレーム」とされるのかは裁判所の判断を待つばかりだが、作家が訴えた裁判から、DLsiteがどのようなプラットフォーム運営を目指しているのか注目したい。