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ライバルはアルファード? メルセデスのVクラスは最高峰ミニバンなのか

2022年03月29日 11:31  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
日本車が圧倒的に優位な我が国のミニバンマーケットで、20年以上も販売を続けている輸入車のロングセラーがある。メルセデス・ベンツの「Vクラス」だ。サイズや価格から、トヨタ自動車「アルファード」の上を行く最高級ミニバンと考える人もいるだろうが、実は両車はジャンルが少し違う。では、実際のライバル車は何なのか。そのあたりを解説していくことにしよう。


○激戦のミニバン市場でロングセラーに



トヨタの「ノア」「ヴォクシー」がモデルチェンジし、ホンダ「ステップワゴン」の新型が発売を控えるなど、今年に入ってからもミニバンのニュースが豊富な日本。しかし世界的に見れば、このカテゴリーはそこまで人気というわけではない。


日本車でいえば、この数年でトヨタ「エスティマ」、日産自動車「ラフェスタ」、ホンダ「エリシオン」などが販売終了になっているし、ミニバンの母国であるアメリカからの正規輸入車はなく、本国でもラインアップは数えるほどだ。



ヨーロッパ車で正規輸入されているのは現状、フォルクスワーゲン「ゴルフ トゥーラン」「シャラン」、BMW「2シリーズ グランツアラー」、シトロエン「C4 スペースツアラー」、メルセデス・ベンツ「Vクラス」のみとなる。


こうした状況になった理由として、3列シートSUVの台頭は外せない。



我が国ではマツダがブランドイメージを重視して、ミニバン「プレマシー」の販売を終了し、3列シートSUVの「CX-8」を入れ替わりに発売した。プジョーは「5008」のモデルチェンジに際し、ミニバンから3列シートSUVに転換。いずれもヒットに結びつけた。


そんな中でも、1998年の輸入開始以来、継続して販売が続いている正規輸入ミニバンのロングセラーがある。それがメルセデスのVクラスだ。


初代Vクラスは、当時のメルセデスとしては珍しく横置きエンジン前輪駆動方式のパワートレインを使用していたが、2003年に発売となった2代目は車名を「ビアノ」に変更し、パワートレインを後輪駆動に切り替えた。「ロングボディ」が登場したのもビアノからだ。初代では直列4気筒もあったエンジンをV型6気筒のみとし、上級感を強調していたことも特徴だ。車名は2006年のマイナーチェンジで再びVクラスに戻った。



通算3代目となる現行型Vクラスが日本に上陸したのは2015年のこと。後輪駆動である点は先代と同様だが、ボディタイプにはロングボディに加え、さらに長い「エクストラロング」が追加となった。


それ以上のトピックは、エンジンが2.2リッター直列4気筒ディーゼルターボになったことだ。初代が4速、2代目が5速だったオートマチックトランスミッションは7速になった。



2018年には、ポップアップルーフをつけたキャンピングカー仕様「マルコポーロ・ホライゾン」が登場。運転席と助手席を後ろ向きに回転させることが可能で、3列目をフラットに格納すれば車内に3人、ポップアップルーフに2人の車中泊が可能になっている。



翌年にはエンジンが新世代の2リッターディーゼルターボに載せ替えられ、2022年2月には最新の改良を実施。エンジンの環境性能が高まり、オートマチックは9速に進化した。

○ライバルはアルファード?

では、このVクラスのライバルは何か。トヨタの最上級ミニバン「アルファード」を思い浮かべる人がいるかもしれないが、実際は同じトヨタの「グランエース」になる。


ボディサイズを見てもそれはわかる。標準ボディは全長4,905mm、全幅1,930mm、全高1,930mmでアルファードと同等だが、Vクラスにはロングおよびエクストラロングがあり、全長は5,150/5,380mmに伸びるのだ。ちなみにグランエースは5,300mm×1,970mm×1,990mmなので、エクストラロングに近い。



開発の目的も違う。アルファードは個人が快適に移動するために生まれたクルマであるのに対し、Vクラスやグランエースは法人が顧客を送迎するために生まれた。



さらにいえば、グランエースは海外向け「ハイエース」と基本設計を共有しており、海外向けハイエースにはもちろん商用バンの仕様もある。Vクラスも同じで、海外では初代の時代から、「ヴィト」と呼ばれる商用バンと基本設計が共通だ。



筆者は現行Vクラスのデビュー時に国際試乗会に参加したことがある。そのときの説明では、メルセデスの開発部門は乗用車と商用車で分かれていて、Vクラスは後者が担当しているとのことだった。



ただ、商用車部門で生まれた車種では唯一、乗用車の販売店でも売られる存在でもあり、同じメルセデスの乗用車がラグジュアリー性を高めているので、Vクラスもそういう方向にシフトしたと説明していた。

○送迎用という目的に沿ったデザイン



Vクラスのスタイリングを見ると、中央にスリーポインテッドスターを据えたグリルがメルセデスであることを主張している一方で、キャビンは箱型に近く、サイドウインドーの形も実直だ。この点もアルファードよりグランエースに近い。


顔以外でグランエースと明確に違うのは、リアウインドーがゲートとは独立して開くガラスハッチであること。送迎用としてラゲッジスペースに荷物を置くことが多いためだろう。経験がなせる技だ。


インテリアは先代までは事務的な印象が強かったが、現行型はインパネがゆったりしたカーブを描く造形になるなど乗用車的になった。国際試乗会での説明に納得するところだ。


ただし、メーターやセンターディスプレイは、たとえば「Cクラス」でいえばひと世代前のそれに近い。プロの仕事場であることを考えれば、メーターはアナログのほうが好ましいのかもしれないが、オーナードライバーとしてはアップデートを望みたい部分だ。


2列目シートは2人掛けで、左右が独立したキャプテンシート。3列目はベンチタイプの3人掛けだ。このうち2列目は、取り外しや逆向き固定もできるが、シートが重いので多くの日本人には辛いはず。このあたりはドイツ生まれであることを実感する。


前述のようにエンジンは2リッター直列4気筒ディーゼルターボで、最高出力は120kWにすぎない。しかし最大トルクは380Nmで、これを1,600~2,400rpmという低い回転域で発生するうえに、7速でも不満はなかったATが9速になったので、最新型はこれまで以上に余裕を感じるだろう。



そうはいっても4気筒ディーゼルの後輪駆動であることを考えれば、デザインを含めても、これはアルファードではなくグランエースのライバルと考えたほうがよさそうだ。



森口将之 1962年東京都出身。早稲田大学教育学部を卒業後、出版社編集部を経て、1993年にフリーランス・ジャーナリストとして独立。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。グッドデザイン賞審査委員を務める。著書に『これから始まる自動運転 社会はどうなる!?』『MaaS入門 まちづくりのためのスマートモビリティ戦略』など。 この著者の記事一覧はこちら(森口将之)