2022年03月27日 07:41 弁護士ドットコム
成人年齢の引き下げによって、スマートフォンを利用したネットワークゲーム、いわゆる「ソシャゲ」の課金にも影響が出てきている。
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国内190のゲーム会社が加盟する一般社団法人「コンピュータエンターテインメント協会(CESA)」は4月1日、未成年保護ガイドラインを改訂する。
大手ゲーム会社の中にはすでに18~19歳の「課金上限」をなくす動きがある。トラブルは想定されていないのだろうか。同協会の事務局シニアマネージャーの横戸健介さんに聞いた。(編集部・塚田賢慎)
〈【注意】紹介する新ガイドラインは4月1日に改定される内容であり、3月中は旧ガイドラインが効力を持っている〉
4月から成人年齢が引き下げられるが、健康被害への懸念、ギャンブル依存症対策などの観点から飲酒・喫煙・公営競技(ギャンブル)の年齢制限は従前通り、20歳が維持される。
未成年者は親(法定代理人)の同意なく契約した場合、原則として契約を取り消すことができた(「未成年者取消権」)が、新たに4月から成人となる18歳・19歳は基本的に成人として扱われる。
本記事で取り上げるソシャゲ課金も例外ではなく、18歳からが成人である以上、法的には未成年者取消権の対象外となる。
また、ソシャゲの多くはゲーム会社によって、年齢区分をもうけ、課金の幅が設定されてきた。そのような中、成人年齢引き下げを受けて、18~19歳の課金上限を4月から「上限なし」にするゲーム会社もある。
たとえば、スクウェア・エニックスは「ドラゴンクエストタクト」では、18~19歳の毎月の課金上限を、従来の「30000円まで」から「上限なし」への変更をリリースした。
一方、高額課金トラブルに巻き込まれる18~19歳の存在を懸念する声もあがっている。はたして、ゲーム業界ではどのような対応をとるのだろうか。
協会では、加盟各社合意のもと、「未成年の保護についてのガイドライン」がつくられる。ガイドラインは未成年を「20歳未満」としていたが、4月改訂版では「18歳未満」とされる。
ガイドラインの「未成年の課金に関する事項」では、ゲーム会社に対して、ユーザーへの年齢確認、未成年への課金上限額の設定の実施等が記載されている。
4月からの主な改訂内容を紹介する。
協会では、未成年のユーザーがゲームを安心して利用できる環境整備を目的とするガイドラインの「未成年」が20歳未満から18歳未満に変更されることで、どのような影響が生じるかを検討し、改訂に向けた議論を重ねてきたという。
「まず、加盟各社の18歳・19歳の未成年者取消権の適用申請の問い合わせ状況を調べました。実際のところ、問い合わせや取り消しの適用事例はほぼありませんでした。
あるとすれば、『自分のお小遣いでゲームをダウンロード購入したが、誤って違うゲームをダウンロードしてしまった。取り消してほしい』というものです。ガイドラインが18~19歳を保護対象から外したとしても、課金上限の影響に及ぼすような対象者がほぼいなかったことになります」
なお、ゲーム会社に届く相談の中心を占めたのは、小学生が親のクレジットカードや親のスマホの中に残っていたユーザーIDをそのまま利用して、親の端末で課金してしまったケースだったという。
続いて協会は、法改正に伴ってガイドラインの対象から18歳・19歳を外したとき、異常な高額課金が発生するかどうかを検討した。
「スマホゲームタイトルの主な課金方法は3つあり、クレジットカード決済、キャリア決済、決済式のプリペイドカードの利用です。
各キャリアは、20歳未満のキャリア決済の金額を2万円程度に設定していると聞きます。プリペイドはクレジットカードで買えません。
各信販会社、クレカ会社は、クレカ作成に関しては18~19歳のカード限度額を少額に設定するなどの対応をとるということであるようです。CESAとしては、18~19歳がただちにクレカを作成して、自分のゲームアカウントに紐づけることで高額課金の発生も想定しましたが、その可能性は生じにくいと考えられます。
ここまでの検討によって、成人年齢引き下げによる18~19歳のソシャゲ高額課金の相談事例が増えることはないというのがひとつの結論でした」
ただし、成人年齢引き下げや、それに伴う商慣習の変化が各ユーザーやその親に広がるまでには時間がかかる。4月1日から加盟各社が揃って、18~19歳の課金上限を外すわけではないという。
横戸さんは「ユーザーに認知をすすめて、各社個別に対応するかたちになる」と話す。
「ガイドラインでは、4月1日以降に新たにリリースするゲームについては、改正法に準じた対応とし、6カ月以内を目処にガイドラインに沿った対応としてもらいます。
すでにリリースされているゲームについては、各社が周知徹底をはかったうえで個別の判断に任せています。民法改正前にユーザーが利用規約に同意したうえで契約を締結したゲームは、周知がはかれないのであれば、20歳を維持してもらいます。
また、小さなお子さまの利用が多いゲームでは、20歳を維持することも少なくありません」
年齢幅による課金可能な金額についても、独占禁止法に抵触する可能性もあり、各社の判断に任せている。
「成人年齢が2歳引き下げられたからといって、10歳から課金可能だったものが8歳から可能になるとか、8歳と16歳の課金上限額が同じ5000円であるとかであれば、多くの方の納得をえられないと思います。何歳の子どもでもゲームをする権利、課金をする権利はありますが、正しい道しるべを示す責任がゲーム会社にはあると考えています」
なお、結局のところ、返金対応に関しては、20歳まではこれまで同様、柔軟に対応することになるそうだ。
「未成年保護のガイドラインが改訂にあたっては、このたびの取材テーマのように、高額課金と絡めて注視されがちです。しかし、我々として対策を強化すべきもののひとつがゲーム界隈での誹謗中傷です。
個人に対する侮辱・名誉毀損のトラブルがゲームならずSNSを中心に起こっています。今までであれば、ゲームのトラブルも未成年であれば、民事上は裁判所の判断が分かれますが、刑事上は未成年として保護されていました」
「人権がない」という言葉を使ったeスポーツの選手が批判されたことは記憶に新しい。詳細は不明だが、所属チームから契約解除されるに至っている。
「ゲームやeスポーツのコミュニティ間での俗語も、ゲームに係る裾野の拡大により、コミュニティ外の方々の目に触れる機会が増加すると思います。実際にそのようなトラブルがあるのも事実です。
プレー中に冗談で『死ね』と言っている感覚のまま、18~19歳になって『死ね』といえば逮捕されることもありえます。子どもたちの使う『お前の強さ、チートだよ』というスラングにおける『チート行為』と、警察の認識する『チート行為』は違いますよね。
本来、18歳以上になれば、そのあたりの規範意識も備わっているとして民法改正されているわけですが、ゲーム界隈においては、ユーザーの感覚を整えていく必要があるかと思っています。そもそも自分たちのコミュニティだから『スラング』を使っていいという感覚を整えていかなければと思っています」