ウクライナ侵攻でロシアへの忌避感が強まる中、ロシア語を学ぼうとする人たちにも困惑が広がっているようだ。東京大学でロシア語を教える渡邊日日教授が公開した、学生向けのメッセージが話題を呼んだ。
渡邊教授は「ロシア語を大学で学ぼうと決めていた人,迷っている人=皆さんはいま極めて複雑な気持ちにいると思います。無理もありません」と前置きしつつ、この情勢を理解するためにもロシア語を学ぶことの必要性を訴えた。
ところで、たまたま筆者の知人で、地方のある街で電車の運転手として働く男性(29歳)も「春からロシア語を学ぼうと思っていたら、戦争が始まってしまった」という。なぜこのタイミングでロシア語を……と話を聞いてみた。(文:昼間たかし)
「就職先を見つけたかった」
「今なら、マイナー言語を習得すればなにか就職先を見つけることができるんじゃいかと決心した矢先に、こんなことになるとは思いませんした」
電車の運転手というと、子供の頃から憧れてなる人が多い職業だと思うが、この男性の場合はまったくそうではなかった。
「大学卒業後、バックパッカーをやろうと思って新卒で入った就職先で費用を貯めて退職。準備のために一度実家に帰ったんですが、無職では体裁が悪いからと形だけでも公務員試験を受験するようにいわれたんです。電車の運転手は倍率が高いから合格しないと思ってたんですが、まさか採用されてしまい。シベリア鉄道の切符まで手配してたんですが、全部パアになりました」
仕事は無事、3年目を迎えたが、将来への不安は日に日に募っているという。
「将来への希望はまったくありません。何年か勤務すると役所の一般職に異動できる試験を受験できるシステムなので、それを目指し得頑張っている同僚もいます。でも、そんなのは一握り。地方の公営バスや電車はいつ民営化されてもおかしくないのが実情で、いつ給料がもっと悪くなるのかと考えながら運転していますよ」
そんな中で男性が考えたのがマイナー言語を習得して、それを生かして転職すること。
「卒業した大学も地方私立大ですから、履歴書に大卒と書ける以外は役には立ちません。ただ、勉強すること自体は嫌いではないので、国内に少数の話者しかいないであろう言語を習得すれば、将来の道も選択できるのではないかと思い、勤務の合間にロシア語を学ぶことにしたんです」
「今回の戦争を契機にロシア語ができる人材はかえって必要になるとは思っています。でも、いまの状況だとよっぽど親しい友人にしか話せないですよね。一人暮らしなので、いまは家族にも内緒です」
今回の事態で、男性の学習意欲はかえって高まったようで、男性は「コロナや戦争が終結したあと、現地で日本企業の駐在員としての就職を目指しています」と意気込みを語る。
ただ、この男性、いま暮らしている街でロシア人やロシア語話者には出会ったことがないという。男性は「当面は、現時点では放送大学及びNHKのテレビ、ラジオ学習。教本による独学から初めていこうと思っています」と話していた。
人生はふとしたきっかけで変わることもある。道のりは険しそうだが、いまはzoomなどで会話ができる時代になった。うまく勉強を続ければ、いつかはロシア語を自在に操れる日が来るかもしれないと私は期待している。