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「ハコクの剣」神谷浩史が声優の矜持にかけて臨む、“唯一無二”のリーディングライブ

2022年03月25日 18:51  コミックナタリー

コミックナタリー

「Kiramune Presents READING LIVE 10周年記念公演『ハコクの剣』」Blu-ray先行上映会にて。左からた神谷浩史、上村祐翔、福井晴敏。
「Kiramune Presents READING LIVE 10周年記念公演『ハコクの剣』」のBlu-ray先行上映会が、去る3月19日に東京・イイノホールで開催された。上映後のトークショーには主人公・佐吉をWキャストで演じた神谷浩史と上村祐翔、脚本を手がけた福井晴敏が登壇した。

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神谷・上村ら多数の男性声優が所属し、音楽活動をはじめとするさまざまな表現に取り組むレーベル・Kiramune。2012年より開催しているリーディングライブ、通称“リーライ”は、Kiramuneの所属声優を中心にゲストも交えて繰り広げる舞台作品だ。このリーディングライブに初回から参加する神谷は、回を重ねる中で関わりを深くしていき、今回の脚本も自ら福井へアプローチ。「機動戦士ガンダムUC」「宇宙戦艦ヤマト2202」などで知られる福井が、新たな日本へ向かわんとする幕末を舞台に、時を操る力を秘めた“ハコクの剣”を巡って争う人々の重厚な物語を書き下ろした。声優陣は台本を持って舞台に立ちながらも全身を使って芝居をし、それが“シャドウ”と呼ばれる役者のアクションとステージ上でシンクロするという、一般的な演劇とも朗読劇とも異なる独自の表現を作り上げている。

上村出演のAチーム、神谷出演のBチームと、すべてのキャストが入れ替わる形で演じられた「ハコクの剣」。トークショーはBlu-rayに収録される両チームの公演、約4時間にわたる上映のあとに行われ、福井は「地獄の2本立て、本当にお疲れ様でした(笑)」と観客をねぎらった。司会は「ハコクの剣」に声で出演した声優の元吉有希子が担当。まずは神谷から、福井へのオファーの理由が語られた。神谷は福井の脚本について「先がどうなるか想像もつかないのに、『そうそう、これが見たかったんだよ』って展開が来る。気持ちよく裏切られる」と、エンタメへの理解度の深さを魅力の1つに挙げる。「ヤマト2202」でキーマン役を務めた際に、シリアスからギャグまで幅広く手がける福井の力量を目の当たりにしたという神谷。ダメ元での依頼だったというが、対する福井は「やっぱりその当時も『うまいな』『笑いのツボを完璧に心得てるな』って。この人が言うことなら間違いないと思い、二つ返事で引き受けました」と、神谷の演技に信頼を置いていたことを語った。

シナリオ執筆にあたり、福井は「当代切っての人気声優を使うわけでしょ。これは勝ちにいかなければいけない、と強く思いました」と軽い語り口ながらも、プレッシャーがあったことをにじませる。アニメと異なり“短期決戦”だという舞台の脚本に、「多少ベタでも、みんなが好きなものをぎゅぎゅっとつめこんだものを作ろうというのが第一でした」と意識した点を語った。上村はシナリオを読んだ際の感想を「壮大なスケールで着地点までのプロセスもなめらか。佐吉を演じる身としては、『これを演じきらなきゃいけないのか』というプレッシャーと責任をまず感じました」と振り返る。主人公の佐吉は福井曰く「トラディショナルな主人公」。しかし同じ内容・セリフでもまったく違ったという2人の佐吉について、福井は「“神谷・佐吉”の魅力は、誰も寄せ付けないような態度を取るけれども、周りの人のことをよく見ていて、でも情には流されないという、ある種ツンデレっぽい振る舞い。一方“上村・佐吉”は本当に一生懸命で余裕がなくて、周りの言うことも耳に入っていない。その必死さが逆にまっすぐな純粋さにつながっていく。どっちも正解だと感じました」と評した。

話題はゲストとして参加した声優陣についても及んだ。佐吉の前に立ちふさがる太閤こと幕府老中・橘吉政を演じたのは、ベテラン・銀河万丈と高木渉。銀河は当初4公演にわたる舞台ということもあり、体調面での不安や役への責任感から出演に消極的だったという。そんな銀河に直接出演を依頼する中で、神谷は「僕はベテランの方たちを勝手に万能で無敵だと思い込んでいたけれど、僕にも悩むことがあるし、先輩方にも先輩方の悩みがある。今僕がいるところの延長線上なんだ、その先に銀河万丈って人はいるんだ、と思ったら、感動してしまって」と先輩の姿からの学びを語る。とは言え「ステージに上がったら僕が想像する以上のものをやるに決まっているので。そこに立ち向かっていく役としては、本当に気が抜けなかったです」とステージ上では恐れを感じたそうで、福井も「万丈さんは舞台を支配する力がすごい」と、ほかの役者も思わずつられてしまうという銀河の芝居の凄みを伝えた。

一方、上村は高木について「おおらかで明るくて、Aチームの空気を作ってくださった方。太閤(橘吉政)はすごく難しいキャラですが、コミカルな部分も残しつつ冷徹なところもあって、4公演毎回違った」と賛辞を贈る。神谷が「銀河さんの太閤は、死ぬ場面で切ない気持ちにもなるんですよ。彼はこの先の日本が見られないんだって。でも渉さんは好き勝手芝居して、全然死なないじゃん(笑)。見せ場だからってたっぷり時間使うから、やっと死んだ!と思って(笑)」と冗談交じりに話すと、福井も「高木さんは法定速度を守らない」と的確な比喩で表現し、観客の笑いを誘った。

佐吉について回る謎の女・ユキノ役は、Aチームでは諸星すみれ、Bチームでは桑島法子が担当。感想を聞かれた神谷と上村は、「すみれちゃん、かわいかったね」「かわいかったですね」「すごい好きなんですよ」「僕もです」と意気投合。というのも神谷は、アニメ「シュガー・ラッシュ」で諸星が演じるヴァネロペの大ファンだという。「スマホケースをヴァネロペにしてて、それを見られるのが恥ずかしくて、全然話しかけられなかった……」と打ち明ける神谷に、上村は「なんのエピソードですか!(笑)」と容赦なくツッコミを入れる。「一方こっちのチームの桑島法子ぴょんは」と話題を切り替えた神谷は、「自分の世界観をちゃんと持っていて、自分の役割をバッと果たして去っていく。妖精的な部分がある」と、我が道を行くユキノと桑島の共通点に触れる。福井がユキノは桑島に当て書きして作ったキャラだと明かし、「法子さん、自分が天然なことにまったく気付いていないタイプの天然じゃないですか。その感じをユキノに持たせられればいいなと。本当にああいう人ですからね」と続けると、神谷も横で深く頷いていた。

今回初めてKiramuneのリーディングライブに参加した福井。その感想を聞かれると「楽しませてもらったというのが一番大きいです」と演出の伊藤マサミに感謝を述べつつ、「制約がある中でベストな仕事ができたと思います。これはとうてい舞台ではできないだろうと思いながら書いていた場面も『やれちゃうんだ』っていう、プラスアルファ以上の驚きがあった」と感動を振り返る。そしてリーディングライブの独自の形式について、「ときどき『なんでみんな台本持ってるんだろう』『普通にしゃべっちゃっていいじゃん』と思う瞬間もあったりするんです。でも神谷さんから、“声優”というスタンスを維持したまま観てもらうには台本を持ったまま臨む、それを崩しちゃうと自分たちがやる意味がなくなっちゃうんだというお話を聞いて。そういう意味では唯一無二ですよね。こんなことやろうとした人は今まで誰もいないだろうし、ちゃんと形になってこうして皆さんが観てくださっているんだから、すごいなと思います」と称賛した。

それを受けて神谷からも、リーディングライブへのこだわりが語られた。神谷は「声優のお仕事は今、声優であることにとらわれず、いろんなことをやるのが当たり前になっていますよね。でも僕が入ったばかりの頃は、そんなことなかったんです。僕の考え方が非常に古いというのは自覚しているんですが、アーティストではなくアルチザン・職人であるというほうが、僕には合っている。台本を持って表現することにこだわると、それが枷になったり言い訳になったりすることもある。でも台本を持ってるがゆえに声優なんだって言えるところがあるんです」と、自身の声優としての矜持に触れる。続けて「2.5次元の舞台を観たときに、『ここまで舞台でアニメーションを再現できるんだ』と思ったと同時に、決定的にアニメーションと違うのはセリフの力だと思ったんです。我々声優は、セリフというものにすごく特化した生き物。リーディングライブでは、シャドウの方たちの超一流のアクションを観ていただいたうえで、僕らが音で、声で、一番いいものを付加する。そして皆さんのイマジネーションでもって、目の前で展開している以上のビジョンが頭の中で結ばれていたら、それが一番いいものなんじゃないか。そういう思いで、毎回ステージに立たせていただいています」と、真摯な言葉で舞台に臨む胸中を明かした。

その語り口からもリーディングライブへの並々ならぬ情熱を感じさせる神谷だが、「10年が見えたときに、そこまでの助走と結実の仕方が見えたんです」と、今回の「ハコクの剣」で“やりきった感”があるとも口にする。「僕はリーディングライブがものすごく好きだし、一番のファンだと思うんです。僕が中心になって回していこうというつもりはないので、いろんな人から『こういうものがやりたい』というのが生まれて、それを持ち寄って作っていけたら、20年も見えるんじゃないか」と今後への期待を述べた。

一方「ハコクの剣」が3回目のリーディングライブだった上村。「1年おきに開催するんですが、その期間にみんながいろんな現場で吸収したものを、答え合わせのように持ち寄って作り上げていけるのが醍醐味です。アフレコのお仕事で演じるシーンやセリフって、基本的に2回目はない。でもリーディングライブは何回も稽古を重ねて、さらに本番を重ねるたびにどんどんブラッシュアップしていける、それを役者同士で共有し合える。そういう経験って本当に貴重だと思います」という上村の言葉からは、リーディングライブが出演者にとっても学びの場となっていることが感じられた。

最後に神谷が「この中で本公演を会場で観た方、どのくらいいらっしゃいます?」と呼びかけると、ほとんどの観客から手が上がる。その光景に感謝をしつつ、神谷は「どの公演でもいいので、リーディングライブを1回でも会場で観てくださったら、映っていないところがどうなっているかも頭の中で像が結ばれて、映像や配信でも非常に観やすくなると思うんです。生で観たことがない方は、一度でいいので会場に足を運んでいただけたら」と呼びかけた。そして「僕はリーディングライブに関してだったら、全然時間が足りないくらいしゃべることができるんです。定期的にこういう機会があったらいいなと思っているので、そういった意見も含め、こういう演目やってもらいたいとか、Kiramuneに対して送っていただけたら。皆さんの意見を広く取り入れて続けていけたらと思いますので、今後もリーディングライブをよろしくお願いします」と言葉を結んだ。

Kiramuneリーディングライブ初の映像化となる「ハコクの剣」Blu-rayは5月27日発売。A-on STORE、アニメイトでの限定販売となり、本編のほかにカーテンコール集、PV集、ブックレット、初回特典のシナリオ集などが用意されている。4月18日までに予約すると、早期予約特典として「キャストキービジュアル使用A5クリアファイル」が付属する。また神谷が初めてプロットを手がけた2017年のリーディングライブ「Be-Leave」の再演も決定。4月16日、17日に千葉・舞浜アンフィシアターで全4公演が行われ、現在イープラスとローソンチケットでチケットの2次先行受付を実施中だ。

(c)Kiramune Project