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中傷ツイートに「いいね」不法行為認めず 裁判所が示した「いいね」が違法となるケース

2022年03月25日 16:41  弁護士ドットコム

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ジャーナリストの伊藤詩織さんを誹謗中傷するツイートに「いいね」を押したことが伊藤さんの名誉感情を侵害したとして、自民党の杉田水脈衆院議員に慰謝料など220万円の支払いを求めた訴訟の判決が3月25日、東京地裁であり、武藤貴明裁判長は「いいね」を押した行為の不法行為は認めず、伊藤さんの請求を棄却した。


【関連記事:杉田水脈議員が中傷ツイートに「いいね」、不法行為認めず 伊藤詩織さんの訴え棄却 】



リツイートに続き、ツイッターの機能が論点となった今回の裁判。ネットの誹謗中傷問題にくわしい中澤佑一弁護士は「妥当な判断だと思われる」と評価する。



●「いいね」が違法は「特段の事情がある場合」

判決は、「いいね」を押す行為は、原則として、社会通念上許される限度を超える違法な行為と評価することはできないとした上で、「いいね」が違法と評価される余地が生じる場合について、以下のような特段の事情がある場合に限られると示した。



・いいねを押す行為によって示される好意的・肯定的な感情の対象及び程度を特定でき、その行為それ自体が特定の者に対する侮辱行為と評価できる



・いいねを押す行為それ自体が、特定の者に対する加害の意図を持って執拗に繰り返される



「特段の事情」とあるが、具体的にはどのような場合が想定されるのか。中澤弁護士は以下のように話す。



「加害の意図+執拗な反復ということになっていますが、加害の意図の認定は非常に難しいと思われます。今回は相手も分かっており主観面が推し量りやすい事案だったと思いますがそれでも否定しています。



プロフィール欄などの記載から『いいね』を用いて攻撃する旨の宣言がなされているような想定しがたいケースくらいしか違法にはならないのではないでしょうか」



●リツイートとの違いは?

これまでリツイートについては、「元ツイートの内容に賛同する意思を示して行う表現行為」との判断が示されたこともある。「いいね」は、リツイートとどのような違いがあるのか。



中澤弁護士は「いいねのほうが意図が多義的であり、賛同と言ってもそのアカウント者との個人的関係もあり、ツイートそのものやツイートのどの部分への賛同かが不明であること、いいねをしても必ずフォロワーに拡散されるとは限らないことなどが結論を分けたのだろうと思われます」と話す。



「なお、そもそも法律構成として今回は名誉感情侵害のみが主張されており、名誉毀損が問題になっていません。



名誉感情侵害は社会通念上相当な範囲を超えてという実質的なハードルがありますので、難しいのだろうと思われます。名誉毀損の枠組みで主張がされた場合には程度は低いにしても拡散は認められることから今回の判決とは別の判断枠組みとなり、もしかすると違法性が認められる余地も広くなるかもしれません」




【取材協力弁護士】
中澤 佑一(なかざわ・ゆういち)弁護士
発信者情報開示請求や削除請求などインターネット上で発生する権利侵害への対処を多く取り扱う。2013年に『インターネットにおける誹謗中傷法的対策マニュアル(中央経済社)』を出版。弁護士業務の傍らGoogleなどの資格証明書の取得代行を行う「海外法人登記取得代行センター Online」<https://touki.world/web-shop/>も運営。
事務所名:弁護士法人戸田総合法律事務所
事務所URL:http://todasogo.jp