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『カムカムエヴリバディ』の世界に馴染む平埜生成 “いい人”だけど優柔不断の榊原

2022年03月24日 06:01  リアルサウンド

リアルサウンド

『カムカムエヴリバディ』写真提供=NHK

 『カムカムエヴリバディ』(NHK総合)ではひなた(川栄李奈)が映画村で働き始めてから、10年以上が経過した。相変わらずひなたは明るく天真爛漫に仕事に向かっている。実はそれ以上に長く映画村のために働いてきた人がいる。榊原誠(平埜生成)だ。


【写真】『カムカム』第100話での榊原誠(平埜生成)


 榊原はひなたが「ミス条映コンテスト」に出場したことも覚えており、「僕が審査員やったら特別賞あげたんやけどなぁ」と声を掛ける。爽やかな笑顔から発せられるその言葉がおべっかでもなんでもなく、本心なのだと感じさせる。榊原はひなたの男性版のようなもので、一目見ただけで“いい人”なのが丸わかりなのだ。


 榊原は仕事もできる。まず、「ミス条映コンテスト」は榊原の発案だ。実際にミス条映に選ばれた女性がどれくらい活躍したのかはわからないが、時代劇を、映画村を守ろうという志を持ち、寡黙な伴虚無蔵(松重豊)に気に入られ、二代目モモケン(尾上菊之助)にも関わりがあったひなたを引き当てた功績は大きいだろう。本人は知らないのかもしれないが、榊原はひなたと五十嵐(本郷奏多)を引き合わせたキューピット役も担っている。


 さらに女優の美咲すみれ(安達祐実)に目をかけ、彼女を売れっ子にするために奔走する。女優として落ち目だったすみれをなんとか説得し、映画村のショーに出演させる。しかも、そのためにわざわざすみれが得意だという茶道がメインとなるショーを企画するし、メインにするからには恥ずかしくないように、と茶道を教える一恵(三浦透子)に頼み込んで稽古をつけてもらう。すみれの機嫌が悪くなるのは折り込み済みで、ひなたと一緒になってすみれのフォローまでしたのだった。榊原は全体がいい方向にいくよう、腰を低く、粘り強く、真摯に、真面目に仕事に取り組んでいる。


 これほどまでに“いい人”である榊原を演じているのは、平埜生成だ。昭和後半の時代を描いていた『カムカムエヴリバディ』にすっと馴染む渋めの好青年顔をしているが、平埜本人は平成生まれというのだから驚きだ。同世代には、浅香航大や磯村勇斗など、実力派の俳優が揃っており、平埜もそのひとりといえるだろう。


 朝ドラには本作が初出演となる平埜。元々は「劇団プレステージ」に所属し、舞台を中心に活躍。現在はKAAT神奈川芸術劇場プロデュースの『アーリントン』や、Bunkamura オーチャードホールで上演された『ウェンディ&ピーターパン』など本格的な舞台に出演しながら、ドラマ作品にも多く出演。『今日から俺は!!』(日本テレビ系)でヤンキーを演じたり、『直ちゃんは小学三年生』(テレビ東京系)でコメディを演じたり、その演じられる役幅は大きい。また、大物俳優を目の目にしても物怖じしない度胸と演技力は見事だ。『親バカ青春白書』(日本テレビ系)でムロツヨシと掛け合いをし、『おんな城主 直虎』(NHK総合)では、阿部サダヲと最終的には敵対してしまう親子を演じていた。


 “いい人”というのは、優柔不断な側面を持っているように感じる。榊原と一恵は、いつの間にかイベントの時には一緒に過ごす仲になっていたことが判明。それはひなたから見ても付き合っている仲なのに、一恵は榊原から直接「好きだ」と言われたことはなく、不安になっているし、ひなたからガツンと言われた榊原の態度もなんとかはぐらかしておきたい気持ちが伝わってくる。そんな榊原の態度が一恵との関係に一波乱を巻き起こす事態を呼び込んだといっても過言ではないだろう。万人にいい顔をするのではなく、榊原が自分の気持ちに素直になってはっきり伝えるなら、ここしかないと思うのだが、一体どう動くのだろう。


(久保田ひかる)