2022年03月23日 10:11 弁護士ドットコム
職場でトラブルに遭遇しても、対処法がわからない人も多いでしょう。そこで、いざという時に備えて、ぜひ知って欲しい法律知識を笠置裕亮弁護士がお届けします。
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連載の第11回は「パワハラ防止法、中小企業も義務化」です。2019年5月に成立した、職場におけるいじめ・嫌がらせを防止するための、いわゆる「パワハラ防止法(改正「労働施策総合推進法)」ですが、中小企業にはいよいよ2022年4月1日から適用されることになります。
一体どのような対策が義務付けられるのか、詳しく解説してもらいました。
いわゆる「パワハラ防止法(改正「労働施策総合推進法)」は2019年5月に成立し、2020年6月に施行されました。大企業には2020年6月1日からすでに適用されているのですが、中小企業にはいよいよ2022年4月1日から適用されることになります。
この法律は、パワハラを防止するために、企業がとらなければならない措置を義務付けています。その措置とは、以下の3つです。内容は、いわゆるパワハラ指針にまとめられています。
(1)事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発、
(2)相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備、
(3)職場におけるパワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応
(1)は、職場におけるパワーハラスメントの内容や、職場におけるパワーハラスメントを行ってはならず、加害者は厳正に処分されるといったルールを就業規則などで明確にし、全社的に周知しなければならないことを意味します。
(2)は、社内のハラスメント相談窓口を定めておくことは当然のことながら、「相談窓口担当者が内容や状況に応じ適切に対応できるようにすること」が必要です。
また、「相談窓口においては、被害を受けた労働者が委縮するなどして相談を躊躇する例があること等も踏まえ、相談者の心身の状況や当該言動が行われた際の受け止め等その認識にも配慮しながら、パワハラが現実に生じている場合だけでなく、その発生のおそれがある場合や、職場におけるパワハラに該当するか否か微妙な場合であっても、広く相談に対応し、適切な対応を行うようにすること」までも求められていることが重要です。
(3)は、相談の申し出があった場合に、事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認すること、職場におけるパワーハラスメントが生じた事実が確認できた場合においては、速やかに被害者に対する配慮のための措置や加害者に対する措置、再発防止に向けた措置を適正にとらなければならないことを意味します。
以上に加え、このような措置が絵に描いた餅にならないよう、(4)相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講ずるとともに、その旨を労働者に対して周知することや、(5)相談したこと、事実関係の確認に協力したこと、労働局にパワハラの相談等を行ったこと等を理由として解雇その他不利益な取扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発することも、あわせて講じなければならないとされています。
このような措置を怠り、法に違反した企業は、刑事罰による罰則こそないものの、厚生労働省による助言・指導・勧告の対象となります。改善が認められない場合は、企業名の公表が行われる可能性もあります。
すでに大企業には法律の適用があるわけですが、最近のビジネスと人権に関する関心の高まりにより、パワハラの中でも特に性的少数者に対する差別的言動やアウティング等、性的少数者をめぐる権利擁護の意識は、上場企業を中心に急速に変化しているように感じられます。
とはいえ、パワハラが実際に発生した場合の対応は、上場企業を含めてまだまだおざなりであり、本当の意味でのパワハラ根絶にはまだまだ道半ばです。
2021年6月に連合が実施したアンケート調査でも、ハラスメントが起こった場合に職場が特に対応しないと回答した人数は、全体の4割にも上りました。実際にも、すでに相談窓口を設けているはずの有名企業や公務職場を含め、数多くのパワハラ事件が起きており、追い詰められてしまった末に自死にまで至ってしまっているような痛ましい事件が連日報道されています。
私の担当事件では、従業員が会社にパワハラ被害を申告したところ、会社が従業員を訴えてきたという信じがたい対応をとってきたものがあります。このような対応をするような職場では、あえて被害申告をしようなどという従業員はいなくなってしまい、被害は野放しになってしまいます。
中小企業の中には、パワハラに対する対策をとろうとしない会社が残念ながら散見されます。このような会社が野放しになってよいはずはなく、4月からの法律の適用はむしろ遅すぎるくらいです。各都道府県労働局は、積極的に法違反企業を摘発し、厳しい指導を行っていくべきです。
被害防止のため、行政任せにしてもいけません。パワハラ指針では、「労働者や労働組合等の参画を得つつ、アンケート調査や意見交換等を実施するなどにより、その運用状況の的確な把握や必要な見直しの検討等に努めることが重要」だと書かれていますが、労働組合がある職場では、組合が職場での被害実態を調査・把握し、被害根絶のために主体的に行動していくことが、まさに多くの組合員から求められているはずです。
法の適用を機に、経営者や従業員の方も、パワハラを行った場合には厳しい処分が下されることがあることをより一層肝に銘じつつ、万が一被害を受けたような場合には、社内の相談窓口や労働組合、専門家に相談することを強くお勧めします。
(笠置裕亮弁護士の連載コラム「知っておいて損はない!労働豆知識」では、笠置弁護士の元に寄せられる労働相談などから、働くすべての人に知っておいてもらいたい知識、いざというときに役立つ情報をお届けします。)
【取材協力弁護士】
笠置 裕亮(かさぎ・ゆうすけ)弁護士
開成高校、東京大学法学部、東京大学法科大学院卒。日本労働弁護団本部事務局次長、同常任幹事。民事・刑事・家事事件に加え、働く人の権利を守るための取り組みを行っている。共著に「新労働相談実践マニュアル」「働く人のための労働時間マニュアルVer.2」(日本労働弁護団)などの他、単著にて多数の論文を執筆。
事務所名:横浜法律事務所
事務所URL:https://yokohamalawoffice.com/