2022年03月22日 10:01 弁護士ドットコム
夫婦円満な生活を送るためにも、できれば事前にトラブルの芽は摘んでおきたいものです。そこで、年間100件以上離婚・男女問題の相談を受けている中村剛弁護士による「弁護士が教える!幸せな結婚&離婚」をお届けします。
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連載の第6回は「財産隠しの対処法」です。夫婦が共同生活を送る中で形成した財産は原則として、2分の1ずつ分けることになっていますが、実際調停では財産を全て開示してくれるとは限らず「財産隠し」が行われることがあるといいます。
中村弁護士は「別居前に資料を収集することが重要」と呼びかけます。詳しく解説してもらいました。
前回まで、本コラムにおいて、「結婚した夫婦が絶対にやってはいけないこと」を5回にわたってご紹介しました。ここからは、私が今まで扱ってきた離婚や男女問題を踏まえて、様々なことをご紹介したいと思います。
今回は、「財産隠し」に対する対処法について、ご紹介したいと思います。
離婚をする際、法律上は、「財産分与」として、婚姻期間中に築いた夫婦の財産を2分の1ずつ分けることとなっています(民法768条)。そして、法律上は、夫婦は独立した人格を持つ主体として、それぞれが取得した財産は原則としてそれぞれのものであるという夫婦別産制を取っているのですが(民法762条1項)、他方、夫婦いずれのものであるか明らかでない財産については夫婦共有の推定が働きます(同条2項)。
しかし、現実の離婚調停においては、どちらかというと民法762条2項が原則となっており、夫婦名義の財産は原則として共有であると扱われます。基準時点(原則として別居時が基準となります)における夫名義、妻名義の財産を全てかき集めて、そこから明らかに夫婦共有の財産ではないもの(特有財産)を除いて計算します。
具体的には、夫または妻名義(場合により子ども名義も含まれます)の不動産、預貯金、生命保険、退職金、株式などの有価証券などのプラスの財産から、ローンなどの負債をマイナスの財産として差し引きます。
そこから、親から相続した財産や婚姻前から有していた財産など、明らかに夫婦で協力して得たものではない特有財産を除いて、プラスとなった分を夫婦で2分の1ずつ分けることになります。
上記のとおり、財産分与においては、法律上は、夫婦お互いの名義の財産を全て明らかにした上で、2分の1ずつ分けることになっているのですが、現実の調停においては、相手方名義の財産を全て開示してくれるとは限らず、「財産隠し」が行われることがあります。
そうすると、「夫婦お互いの名義の財産」が明らかにならないまま、2分の1ずつ分けられることになり、相手方が隠していた財産は、事実上そのまま相手方のものになってしまうことがあります。そうすると、現実には2分の1ではなくなってしまいます。
それは、もちろん不当な行為なのですが、それが明らかになるとは限りません。裁判所も積極的に探してくれるわけではなく、当事者の主張を待って判断することになりますし、必ずしも裁判所が開示を強制できるわけでもないので、現実の調停において、「財産隠し」が行われることがあるのです。
上記のような「財産隠し」を防ぐためには、こちら側である程度「情報」を掴んでおくことが必要になります。
具体的には、例えば、相手方がどの銀行のどの支店に口座を有しているのか、どの生命保険会社の保険に加入しているのか、どの証券会社に口座を持っているのか、どこに不動産を持っているのか、などを事前に掴んでおくことが必要です(口座番号や証券番号までわかる必要はありません)。
これらがわかれば、仮に、調停において、相手方が資料を提出せず、別居時の残高がわからなくても、裁判所を通じて銀行や生命保険会社などに直接残高などを問い合わせることができます。
では、相手方が口座を持っている銀行の支店や生命保険の会社などの情報をどのように取得すればいいのでしょうか。重要なのは、「別居前に資料を収集すること」です。
例えば、家の中で通帳などがまとめて置いてある場所、保険関係の書類がまとめて置かれている場所などを確認してみます。最近では、自宅のパソコンに様々なデータが保存されているケースもあります。
また年末には通常、年末調整のために、生命保険料控除証明書が自宅に届きます。それで、どの生命保険会社に加入しているかがわかるケースがあります。さらに、証券口座を持っていれば、証券会社からダイレクトメール(DM)やレポートが届くこともあります。
銀行口座を持っていれば、その銀行からティッシュをもらってきたり、カレンダーをもらって家の中に飾られているケースもあります。知らない銀行のティッシュやカレンダーがあったら、注意してみてみましょう。
その他にもどこに財産があるかを知る手がかりが様々あります。ここで全てを書き切ることはできませんので、その他にもないか気になる方はご相談下さい。
ただ、上記のような手がかりは、自宅にあることが多く、自宅を出て別居してしまった場合、手がかりが得られる手段は限られてきてしまいます。そのため、情報収集は「別居前」に行うことがとても重要なのです。
したがって、可能な限り、別居前にこれらの情報を収集しておいて下さい。また、相手に別居されそうだと感じたら、相手がそれらの資料を持ち出して家を出る前に、それらの情報を押さえておく必要があります。押さえておくと言っても、表紙などをスマホで写真を撮る、といった形で構いません。
離婚または別居を決意したのであれば、別居するまでに入念な準備が必要です。上記のような情報収集もその一つです。別居後ではできないことも多々あるので、DVなどで身体に危険が及ぶような緊急的な場合でない限り、別居前に弁護士に一度相談し、どのようなことを準備すればいいのかを確認することをお勧めします。
(中村剛弁護士の連載コラム「弁護士が教える!幸せな結婚&離婚」。この連載では、結婚を控えている人や離婚を考えている人に、揉めないための対策や知っておいて損はない知識をお届けします。)
【取材協力弁護士】
中村 剛(なかむら・たけし)弁護士
立教大学卒、慶應義塾大学法科大学院修了。テレビ番組の選曲・効果の仕事を経て、弁護士へ。「クライアントに勇気を与える事務所」を事務所理念とする。依頼者にとことん向き合い、納得のいく解決を目指して日々奮闘中。
事務所名:中村総合法律事務所
事務所URL:https://rikon.naka-lo.com/