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『片想い』『さまよう刃』など サスペンス好きにおすすめの東野圭吾原作ドラマ6選

2022年03月19日 08:01  リアルサウンド

リアルサウンド

(左上から)『連続ドラマW 東野圭吾「幻夜」』『連続ドラマW 東野圭吾「分身」』『連続ドラマW 東野圭吾「カッコウの卵は誰のもの」』(左下から)『連続ドラマW 東野圭吾「片想い」』『連続ドラマW 東野圭吾「ダイイング・アイ」』『連続ドラマW 東野圭吾「さまよう刃」』

 かれこれ20年近くもの間、ほぼ毎年のように著作が映画化され、かつては他のミステリ作家同様いわゆる2時間ドラマが中心だったテレビドラマ化も、『白夜行』(TBS系)や『ガリレオ』(フジテレビ系)などの成功を契機に、頻繁に連続ドラマとして制作されるようになる。もはや東野圭吾は21世紀の映画界・ドラマ界において極めて重要なストーリーテラーであることは何の疑いようもなく、しかもそれは日本だけに留まらずアジア圏などに確かな拡がりをみせている。


 もっとも、それだけ数多く映像化されているとあれば、基本的なプロットを活かしたのみで大きな脚色が施されている作品も珍しくない。それは2時間程度の映画や3カ月1クールの連続ドラマにはよくあることで、とりわけ東野作品のように長すぎず短すぎず、それでいて登場人物も情報量もそれなりに多い小説とあれば尚更だ。そういった意味では他の作家の作品でも証明されているように、比較的自由な放映話数で適切な長さを作り出せる、WOWOWの「連続ドラマW」枠との親和性は殊更に高い。


 現に、2004年に単発で放送された『ドラマW 宿命』を除いても、2010年に放送された深田恭子主演の『連続ドラマW 東野圭吾「幻夜」』、2012年に放送された長澤まさみ主演の『連続ドラマW 東野圭吾「分身」』、2016年に放送された土屋太鳳主演の『連続ドラマW 東野圭吾「カッコウの卵は誰のもの」』など、現時点まで7作の連続ドラマが同枠で制作されているのである。興味深いことに、そのどれもがタイトルに作家名が付けられており、まるで“東野圭吾”という名前はブランドとして、ひいてはある種のジャンルとして成立するのかとさえ思えてしまう。仮に後者であるとすれば、それはミステリーないしはサスペンスをベースに、登場人物たちの悲劇的なドラマが背景に潜んでいるというコンストラクションが特徴といったところか。


 さながら海外ドラマにおける“リミテッドシリーズ”にも近いカラーを持ち合わせた「連続ドラマW」。連続ドラマとして総じた放送時間の長さも適していれば、ある程度の情緒を持たせたミステリーというジャンル性も非常に適しているといえよう。例えばこれが『ガリレオ』や『新参者』(TBS系)のようにいくつもの事件を切り取っていくシリーズ作品であればあまり向かないが、ひとつの事件から枝葉のように複数の登場人物のドラマが拡がっていく上では過不足なく、また決して蛇足にもならないわけだ。東野作品が持ち合わせているドラマ性の高さを裏付ける“群像性”が、原作小説に限りなく近いかたちで残すことができてはじめて、理想的な映像化が可能になるわけだ。


 昨年5月に放送された竹野内豊主演『連続ドラマW 東野圭吾「さまよう刃」』の原作は、2009年に日本で映画化され、その後韓国でも映画化されているサスペンスだ。東野作品で日本と海外の両方で映画化され、かつ連続ドラマ化もされている作品は『秘密』と『白夜行』と本作だけで、それだけこのストーリーがいかなるシチュエーションにもフィットする普遍性を持ち合わせているかを証明している。主人公は妻を失い、娘を男手ひとつで育ててきた長峰という男。ある日、娘が少年グループに拉致され輪姦された末に殺害されてしまう。ある密告によって少年たちの情報を得た長峰は、復讐に燃えながら逃亡した主犯格の少年を追い詰めていくのである。


 長峰役を演じた竹野内は、2009年の映画版では寺尾聰が演じた同役を追う若い刑事役で出演していた(今回のドラマ版ではその役柄を三浦貴大が演じている)。ここ数年、90年代頃の二枚目俳優としてとはまた違う、どこかオフビートで味のある演技を掌握した竹野内が見せる鬼気迫る演技は、彼の俳優としての円熟味をとことん感じさせてくれる。この作品の秀でたところは警察や協力者の存在を通してストーリーに深みを与えつつも、作品本来が持つテーマを過剰に拡げすぎずに、あくまでもパーソナルな領域に留め続けていることに他ならない。


 そのため、娘を持つ父親として長峰に対して共感を抱く三浦演じる刑事の織部をはじめ、石田ゆり子が演じる長峰に手を貸す木島和佳子。さらにはHiHi Jets/ジャニーズJr.の井上瑞稀ら少年たちに至るまで、登場人物たちの感情の流れが非常に明確かつ丁寧に描写されていく。もちろんそこに長峰の復讐心と良心の狭間で揺れる葛藤や迷いが置かれることで、東野作品らしい情緒は守られ続ける。これはいかにも、脚本を手掛けた吉田紀子が完全に東野作品の描くべきポイントを押さえているからではないだろうか。


 吉田はこれまで、2010年に連続ドラマ化された『秘密』(テレビ朝日系)や2012年にドラマ化された『浪花少年探偵団』(TBS系)を手掛け、WOWOWでも『連続ドラマW 東野圭吾』シリーズの『変身』から『片想い』『ダイイング・アイ』と立て続けに東野作品の映像化に携わってきたスペシャリストである。とはいえ、『さまよう刃』が比較的王道の、登場人物のドラマ性に特化した作品だったのに対し、『片想い』と『ダイイング・アイ』はテーマ性に重きを置いた、東野作品としては異色な作品であった印象だ。


 『片想い』で描かれたのは、中谷美紀演じる性同一性障害の主人公と、その主人公が犯したと告白する殺人事件をめぐる大学時代の友人たちの群像ミステリーで、テーマの強さが際立つとはいえストーリーの流れ自体は東野作品“らしさ”が強い。一方『ダイイング・アイ』は三浦春馬さん演じる記憶を失った主人公がある女の登場によって心の迷宮にさまよいこむ姿が、交通事故というシンプルなテーマの上で非常に複雑なかたちで描写されていく。こちらは“らしさ”は薄いがその巧妙な語り口には舌を巻くものがあり、そうした東野作品への挑戦を経てたどり着いた『さまよう刃』がより完成度の高いものになったのも納得できる。


 秀逸なストーリーテラーの作品を際立たせるためには、秀逸なシナリオライター/スクリーンライターが必要なのだと改めて感じずにはいられない。「連続ドラマW」で観られる東野作品の映像化は、単行本を初めて開いた時のようなスリルであふれている。


【動画】【東野圭吾特集】カッコウの卵は誰のもの / 片想い /ダイイング・アイ / さまよう刃 プロモーション映像


(久保田和馬)