ウクライナ戦争をきっかけに、現実味を増した核戦争の恐怖。21世紀になってまで「核戦争」についてリアルに考えなくてはならないのは残念としか言いようがないが、この際、ぜひ観て欲しい冷戦時代の映画がある。(文:昼間たかし)
生き残った人類の地獄とは
その映画は、現在アマゾンプライムで配信されている『SF核戦争後の未来・スレッズ』だ。
原水爆を投下された日本では、核兵器の恐ろしさが広く知られている。中沢啓治の『はだしのゲン』など、その悲惨さを描いた作品もある。しかし77年前の話は、現代に置き換えてイメージするのが難しい部分もある。
一方、『SF核戦争後の未来・スレッズ』は1984年にイギリスのBBCで放送されたテレビ映画で、時代設定もずっと今と近い冷戦時代だ。のちにケビン・コスナーとホイットニー・ヒューストンが共演した映画『ボディガード』で名を知られたミック・ジャクソンが描いたのは、当時想定されていた全面核戦争を、専門家などへの取材したデータをもとに劇映画として描いたものだ。
物語の舞台はイギリスの地方都市・シェフィールド。劇中の世界では中東での紛争をきっかけに東西両陣営の対立が激化するニュースを挟みながら、市民目線の日常が描かれていく。
核戦争の現実味が次第に高まり、人々が混乱を極めていく中、ついに核戦争が起きてしまう。東西で合計3000メガトン、イギリス全土で210メガトンもの核爆弾が投下され都市は完全に壊滅する。
だが、「核戦争後の世界」というタイトルどおり、映画の主題が始まるのはここからだ。食糧不足、秩序の崩壊、放射能や伝染病で亡くなっていく人たち……。地獄のような状況の中、人々はどう生きていくのか。映画の描く結末は、ぜひご自身でご覧いただきたい。
この映画の特筆すべき点は核戦争後に起こりえることを細かに描写していること。おそらく、一度にすべての人類が死滅したり国が滅びたりすることはないだろう。政府は生き残った人々と共に社会の再建に着手する。しかし、半ば崩壊した社会が元通りになることはない。むしろ、もがくほどに悪化していく。
小規模の戦争でも破壊された地域に、当たり前だった日常が戻ってくることはない。ましてや核戦争となれば、世界規模で破壊が起き、未来の可能性すらも根こそぎ奪ってしまうのだと、この映画は語っている。
核兵器が「かつての話」と言い切れる時代は、いったい、いつ来るのだろうか……。