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『カムカムエヴリバディ』新川優愛の声色に伏線はあった? 裏で進行していた小夜子の恋

2022年03月13日 06:01  リアルサウンド

リアルサウンド

『カムカムエヴリバディ』写真提供=NHK

 NHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』で、ひなた(川栄李奈)の友達・小夜子(新川優愛)が吉之丞(徳永ゆうき)と結婚することになった。そのことを知ったひなたの弟・桃太郎(青木柚)は意気消沈する。桃太郎は子どもの頃から、小夜子に恋心を抱いていたからだ。


【写真】小夜子(新川優愛)にときめく桃太郎(青木柚)


 しかしこれまでの回を振り返ってみると、小夜子にとって桃太郎はいつまで経っても“桃ちゃん”でしかないと分かる。新川の演技は、小夜子に桃太郎がどう見えているのかを教えてくれる。


 桃太郎と接する小夜子はいつだって優しい。高校生になった小夜子が初めて登場した第71話では、「勉強を教えてほしい」とやってきた桃太郎(野崎春)を優しく受け入れる。新川は上品で柔和な雰囲気をまとっており、溌剌としたひなたとは異なる“お姉さん像”を体現している。ちょっとおませな桃太郎が惹かれるのも納得だ。


 桃太郎が高校生になり、小夜子と桃太郎は教師と生徒の関係になる。商店街では「小夜ちゃん」「桃ちゃん」と呼び合う仲であっても学校では別。第87話で桃太郎が「小夜ちゃん」と呼ぶと、新川は少しだけ眉をひそめて、黙って首を横に振った。言葉を発して言い直させるのではなく、何も言わずに諭す姿に桃太郎への信頼が感じられる。ただしそれは、教師として、なのだが。


 そんな中、第88話の新川の演技で気づいたことがある。大月家にやってきた小夜子は、大月家のテレビを修理していた吉之丞と会う。「あれ? 赤螺くん」の声の響きは明るく、同級生との再会を喜んでいることがうかがえる。藤井家のクーラーの調子が悪いと聞き、吉之丞が「見に行ったろか?」と言うと、小夜子は明るい声で「ホンマ? お母さん喜ぶわ」と嬉しそうに言った。この頃はまだ、お互いの関係は久しぶりに再会した同級生だったと思う。けれど、「ホンマ?」と喜ぶ声は普段よりも心が弾んでいるように聞こえ、少なくとも「桃ちゃん、どないしたん?」と野球観戦に熱中している桃太郎にかけた優しい声の響きとは違うものだった。


 小夜子と吉之丞が結婚することを知ってから改めて第91話を見返すと、2人の関係が深まっていることが分かる。テレビを設置するため、吉之丞が大月家へやってくる。続いて、小夜子も新年の挨拶にやってきた。小夜子の第一声は大月家に向けた「あけましておめでとうございます」なのだが、次に小夜子は「おめでとう」と笑顔を向ける。カメラが引くと、目線の先には吉之丞がいた。この際、新川が見せた笑顔は、これまでの笑顔とは異なる。桃太郎やひなたの前では、優しげな微笑みを浮かべている小夜子だが、この時の新川は、目尻がグッと下がり、少し無邪気さも感じられるような満面の笑みを浮かべていた。小夜子らしい笑顔であることには変わりないが、視聴者に「おや?」と思わせるような違いがその笑顔にはあった。


 そして第92話。ひなたと一恵(三浦透子)に結婚を報告したとき、小夜子は桃太郎が自分に思いを寄せていたことについて「そんなん本気なわけあらへんやん」と答える。小夜子にとって桃太郎が“桃ちゃん”でしかないことがはっきりと証明されてしまった。


 成長した桃太郎は小夜子にふさわしい男になるために勉強も野球も頑張ってきたが、考えてみると、新川の桃太郎に向けての演技は、野崎演じる桃太郎から青木演じる桃太郎になっても変わっていない。一方で吉之丞に対する演技では新川は心を弾ませる。吉之丞に「映画館の近くでお茶飲んでいこか」と言われたとき、新川は可愛らしい笑顔でうなづき、桃太郎と別れ、荒物屋「あかにし」に向かうその足取りは軽い。


 ほろ苦い結末を迎えた桃太郎の恋は、新川があくまでも桃太郎をひなたの弟の“桃ちゃん”として、そして12歳年下の生徒の1人として接し続けたおかげで、その切なさや苦しみがより際立ったように思う。小夜子らしい品のある佇まいを崩さず、桃太郎と吉之丞に見せる表情のちょっとした違いで小夜子の思いを演じ分けた新川の、今後の役者活動に期待が高まる。


※野崎春の「崎」は「たつさき」が正式表記。


(片山香帆)