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『東京ラブストーリー』『ロンバケ』から『花男』シリーズ、『恋つづ』まで 平成~令和の恋愛ドラマ主題歌の共通点

2022年03月12日 12:01  リアルサウンド

リアルサウンド

写真=林直幸

 ラブストーリーを思い起こす時、必ず頭の中ではそれを盛り上げたラブソングが流れるはずだ。恋愛ドラマにラブソングは欠かせない。そこで今回は平成から令和にかけて放送された恋愛ドラマの主題歌の中から、特に代表的なものを10曲選んでみた。


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■『東京ラブストーリー』(1991年)「ラブ・ストーリーは突然に」小田和正


 何と言ってもこの曲は欠かせない。恋愛ドラマのみならずドラマ主題歌の概念を変えた曲だと言っても過言ではない。いまでは「トレンディードラマ」の代表作のように言われることも少なくない『東京ラブストーリー』だが、実際には「脱・トレンディードラマ」としてフジテレビ「月9」枠が「純愛」路線に舵を切った記念碑的なドラマだ。それを〈あの日 あの時 あの場所で〉と圧倒的にキャッチーなフレーズで盛り上げた。実は最初に小田が書いてきた曲はこれとは全く違う「シャッフル系のノリのいい曲」だったという。しかし、プロデューサーの大多亮はたとえ相手が大物ミュージシャンでも臆せず、それが流れる場面で視聴者みんなが号泣するイメージのものに作り直すことを要求した(※1)。そしてできたのが「ラブ・ストーリーは突然に」だった。劇中、印象的な場面で繰り返し流す手法は当時としては革新的で「主題歌」=オープニングorエンディング曲という概念を超え、ドラマの盛り上がりとともに空前の大ヒットとなった。


■『101回目のプロポーズ』(1991年)「SAY YES」CHAGE and ASKA


 改めて『101回目のプロポーズ』が『東京ラブストーリー』と同じ年の「月9」で放送されていたことに驚く。本作でも『東京ラブストーリー』同様の手法が採られ、主題歌であるCHAGE&ASKA(現CHAGE and ASKA)の「SAY YES」は劇中繰り返し使用され、「ラブストーリーは突然に」と合わせてドラマ主題歌=ヒット曲を生むという流れを完全に作った曲だといえるだろう。このときも大多はゆっくりしたテンポに難色を示したという。けれど何度か聴くうちに鈴木保奈美と織田裕二が走り回るシーンに「ラブ・ストーリーは突然に」のテンポは合っていたが、武田鉄矢と浅野温子のテンポには「SAY YES」が合うと考え直した(※2)。いかにドラマ本編とその曲のテンポやムードが合致しているかが重要かを示している曲だといえるだろう。


■『高校教師』(1993年)「ぼくたちの失敗」森田童子


 フジテレビ(特に「月9」)が比較的明るい恋愛ドラマを作っていたのに対し、TBSでは恋愛ドラマでも社会派やシリアス系のものが多かった。その代表的なものが野島伸司脚本の『高校教師』だろう。高校教師と女子高生という“禁断の愛”を描いた本作は主題歌も独特。1970年代にアングラで活躍しすでに引退していた森田童子の楽曲「ぼくたちの失敗」を起用したのだ。その切なく儚い歌声がドラマの内容とリンクし、リバイバルヒットを果たした。野島作品ではこうした過去の名曲を使用することが多く、ドラマがその曲に新たな魅力を加えることができることを証明している。


■『ロングバケーション』(1996年)「LA・LA・LA LOVE SONG」久保田利伸 with ナオミ・キャンベル


 木村拓哉が満を持して連ドラの恋愛ドラマ主演を果たした『ロングバケーション』で主題歌に起用されたのは久保田利伸の「LA・LA・LA LOVE SONG」。思えば久保田利伸は「月9」のトレンディードラマ路線のスタートである『君の瞳をタイホする!』の主題歌(「You were mine」)も歌っており、その「月9」の「金字塔」ともいえる本作でも主題歌に選ばれたのは必然といえるのかもしれない。また、主人公である瀬名がピアニストという設定のため劇中では数多くの曲も使われる音楽ドラマで、サウンドトラックも大ヒットした。


■『僕の生きる道』(2003年)「世界に一つだけの花」SMAP


 SMAPの楽曲は、SMAPのメンバーが主演するドラマ主題歌に使われることが意外と少ない。そんな中でなぜか草彅剛主演ドラマにはSMAPの曲が起用されることが多い。中でも印象的なのが『僕の生きる道』の「世界に一つだけの花」だろう。恋愛要素だけではなく「死」という重いテーマを扱った本作を、アルバム収録曲で「隠れた名曲」だったこの曲が寄り添い、SMAPのみならず日本を代表する曲となった。


■『花より男子』シリーズ(2005年/2007年) 「WISH」/「Love so sweet」嵐


 急遽“穴埋め”的な企画として制作されたといわれる『花より男子』は、奇跡的なキャスティングと相まって大ヒットとなった。その主題歌は嵐の楽曲。特に満を持して制作された続編『花より男子2(リターンズ)』の「Love so sweet」は嵐を国民的アイドルグループに引き上げたヒット作といえるだろう。このドラマは挿入歌(イメージソング)の大塚愛「プラネタリウム」(第1期)、宇多田ヒカル「Flavor Of Life」(リターンズ)も効果的に使われ、特に『リターンズ』の2曲は、オリコンシングルチャート1位2位を独占した。


■『JIN-仁-』(2009年)「逢いたくていま」MISIA


 『JIN-仁-』を恋愛ドラマとカテゴライズしていいのかはわからないが、MISIAが歌い上げるこの主題歌「逢いたくていま」の印象でそう記憶されているインパクトがあった。その荘厳な楽曲と歌声は感動的なシーンをさらに盛り上げた。MISIAは言わずと知れた『やまとなでしこ』(2000年)「Everything」のほか、近年では『義母と娘のブルース』(2018年)でも「アイノカタチ」を提供。彼女の歌声は、壮大な物語がよく似合う。


■『モテキ』(2010年)「夜明けのBEAT」フジファブリック


 「テレ東深夜ドラマ」をブランドに引き上げた大根仁監督による『モテキ』は主題歌の「夜明けのBEAT」のみならず、サブタイトルにJ-POPの曲名がつけられ、その楽曲が「モテ曲」として使われていた。その中には『結婚したい男たち』の主題歌だった大江千里「格好悪いふられ方」など過去の恋愛ドラマの主題歌も少なくない。恋愛ドラマとラブソングの関係性をメタ的に描いた作品ともいえるだろう。


■『逃げるは恥だが役に立つ』(2016年)「恋」星野源


 新しい夫婦の形を描いたドラマ『逃げ恥』のテーマに重なるように、「恋」の多様性を示したのが本作の主題歌・星野源の「恋」だ。エンディングで出演者たちが踊る、いわゆる「恋ダンス」は大きな話題となり、ドラマ自体のヒットの起爆剤になった。星野源はこの曲と本作の主演で国民的ポップスターとしての地位を確立した。他にも星野は『心がポキッとね』(2015年)の「SUN」、『過保護のカホコ』(2017年)の「Family Song」、『半分、青い。』(2018年)の「アイデア」、『着飾る恋には理由があって』(2021年)の「不思議」などドラマの主題に反映させつつも、彼独自のやりたいことも融合させる名手だ。


■『恋はつづくよどこまでも』(2020年)恋はつづ「I LOVE… 」Official髭男dism


 まっすぐな恋心が描かれた本作の主題歌は、やはり力強くまっすぐなOfficial髭男dismの楽曲「I LOVE… 」。主演の上白石萌音もこの曲が「七瀬を演じるための道しるべ」だとコメントしているように、七瀬と佐藤健演じる天堂の不器用で真っ直ぐなラブストーリーを見事に象徴していた。


 これらの楽曲に共通するのは、単に楽曲のクオリティが高いだけでなく、「主題歌」の名のとおり、ドラマの「主題」を浮かび上がらせているという点だ。それをよくあらわすように、『101回目のプロポーズ』、『高校教師』、『恋はつづくよどこまでも』のように最終回や終盤の盛り上がり回のサブタイトルに曲名が使われていることも少なくない(『逃げ恥』では「恋」の歌詞から「夫婦を超えてゆけ」が引用されている)。だからこそ相乗効果でドラマも楽曲もヒットする。そして登場人物たちの感情を楽曲がすくい取りシンクロしているから、強く記憶に刻み込まれるのだ。


※1、2:中川右介著『月9  101のラブストーリー』(幻冬舎新書)(戸部田 誠)