2022年03月11日 11:51 弁護士ドットコム
東京・港区の車道で、酒を飲んだあとに電動キックボードを運転したとして、男子大学生が道路交通法違反(酒気帯び運転)の疑いで書類送検された。報道によると、大学生の呼気からは、基準値の3倍近いアルコールが検出されたという。
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飲酒後に電動キックボードを運転した場合、なぜ違法となるのか。平岡将人弁護士に聞いた。
ーー電動キックボードは、道路交通法上の「車両」にあたるのでしょうか。
道路交通法(道交法)は、酒気を帯びて「車両等」を運転してはならないと定めており、罰則もあります。酔って正常な運転ができなくなっている場合、5年以下の懲役または100万円以下の罰金となりますし、そこまでではないものの、一定値以上の酒気を帯びている場合は、3年以下の懲役または50万円以下の罰金となります。
ここにいう「車両等」は、道交法で「自動車、原動機付自転車、軽車両及びトロリーバス」が車両であると規定されているほか、自動車の定義が別途設けられています。電動キックボードは、「人の力」ではなく「原動機」で動くものですから、道交法上は「原動機付自転車」に該当します。
なお、道交法の一部改正案が3月4日に閣議決定されたことを受け、最高速度や車体の大きさが一定の基準に該当する電動キックボードは「特定小型原動機付自転車」となりそうです。「原動機付自転車」とは異なり、運転免許は必要なく、ヘルメット着用が努力義務であるなどの違いがありますが、交通反則通告制度や放置違反金制度が適用されます。
ちなみに、飲酒して車両を運転することは、法律上禁止されていますから、「原動機付自転車」でなくても運転してはならないことに変わりはありません。
ーー電動キックボードは、現状は「原動付自転車」にあたるとされていますが、今後、一定の基準に該当するものは「特定小型原動機付自転車」となります。
警視庁は、2021年4月から2022年7月まで、東京都内の一部区域で、電動キックボードの通行に関する安全性などの実証実験をおこなっています。
電動キックボードは、現在は「原動機付自転車」に該当することは先述のとおりです。運転免許はもとより、ヘルメット着用、速度計や方向指示器などの保安設備の装備、自賠責保険への加入も必要です。
しかし、電動キックボードが、本当に原動機付自転車と同様の規制が必要なのかは、議論のあったところでしょう。使いやすい乗り物とならなければ、産業競争力も伸びません。そのため、「特例措置」を設けて試験運用をしているのです。
特例措置は、ヘルメット着用を任意とし、自転車専用通行帯や自転車道の走行を認め、自転車を除く一方通行指定路については自転車と同じく双方走行を認めるなどの措置です。より軽車両に近い形での運用が実験されています。
もちろん、公道の安全は確保されなくてはならないため、この特例措置を受けられる電動キックボードは時速15キロメートルまでしか出せない構造になっています。そのほか、免許証の確認および登録、走行可能エリア限定などの安全確保措置がとられています。
この特例措置によって、電動キックボードの普及を図り、同時に実証実験をふまえて、道路交通法などの関係法令の改正をすることで、電動キックボードの法規制はより適切なものになっていくでしょう。それが、今回の「特定小型原動機付自転車」というものになりました。
ーー新しい乗り物が次々と出てきていますが、法律や制度の観点から、どのようなことが必要でしょうか。
新しい乗り物の発展によって、移動がより容易になり、楽しくなるでしょう。また、移動が困難な人が、気軽に移動できるようになっていくと思います。さらに、新たな技術の発展によって、産業競争力の向上につながり、わが国の経済発展の一助にもなるかもしれません。
そのようなメリットがある一方で、今までの道路、車両規制に新しい乗り物をどのように組み込み、許容していくのかというのは簡単に解決できるものではありません。利便性、娯楽性、経済発展などのメリットを認めたとしても、公道利用者の安全は十分に確保されなくてはならないからです。
新しい乗り物の実験は、今後もおこなわれていくことでしょうし、それが利便性や経済発展につながるのであれば、喜ばしいことだと考えます。
一方で、交通事故の被害者を出さないために、そして、万が一出したとしても適切な賠償がなされるように、たとえば、速度が出るような違法改造などを厳しく取り締まったり、損害保険や運転者の特定のための制度をつくったりするなど、安全確保、賠償確保のための制度は、しっかりとつくってほしいと考えています。
ーーどのような乗り物であったとしても、事故の危険はあると思われます。啓発のために、どのようなことが必要でしょうか。
公道を乗り物(遊具や車いすなどを除く)で移動した場合、それは「車両」による移動となります。気軽に乗る自転車であっても、軽車両として車両に分類されます。
車両を運転する以上は、子どもや大人も関係なく、歩行者や、ほかの利用者を守る責任が生じるということになります。ついつい、歩行の延長で、気軽に乗り物を運転してしまいがちなところですが、そこは忘れてはいけないことです。
たとえば、私は、子どもに自転車を買ってあげたときに、動画を作って子どもに見せました。また、私が自動車運転免許の教習を受けた自動車学校では、自動車事故の映像を何度も見させられました。これについては、賛否あるかもしれませんが、そのおかげで、自動車はこわい乗り物であると学びました。
移動の楽しみを否定するつもりはまったくありません。しかし、同時に、車両を運転することの責任とこわさというものを、折々に、機会あるごとに学んでもらうのがよいと考えています。
【取材協力弁護士】
平岡 将人(ひらおか・まさと)弁護士
中央大学法学部卒。全国で10事務所を展開する弁護士法人サリュの前代表弁護士。主な取り扱い分野は交通事故損害賠償請求事件、保険金請求事件など。著書に「交通事故案件対応のベストプラクティス」ほか。実務家向けDVDとして「後遺障害等級14級9号マスター講座」「後遺障害等級12級13号マスター講座」など。
事務所名:弁護士法人サリュ銀座事務所
事務所URL:http://legalpro.jp/