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激戦のミニバン市場でトヨタ「ノア/ヴォクシー」が盤石な理由

2022年03月11日 11:31  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
トヨタ自動車のミニバン「ノア」「ヴォクシー」がフルモデルチェンジして4世代目となった。プラットフォームから刷新された新型ノア/ヴォクシーは最新の機能も盛りだくさん。ミニバン市場は各社が力を入れる激戦区だが、トヨタの優位性は盤石なように思える。新型に試乗して商品性を確かめてきた。


○ハイブリッドの4WDが抜群の快適性



ノア/ヴォクシーは5ナンバーミニバンとして、競合するホンダ「ステップワゴン」や日産自動車「セレナ」などと共に多くの人々に愛用されてきたクルマだが、新型は車体寸法を3ナンバーに統一した。といっても、これまでのノア/ヴォクシーにも車幅の広い3ナンバー車種はあり、近年の販売比率は8割に達していたそうなので、5ナンバー車がなくなった影響は限定的だろう。



試乗したのは前輪駆動(FWD)のガソリンエンジン車、同ハイブリッド車(HV)、後輪をモーター駆動するHVの4輪駆動車(4WD、トヨタでは「E-Four」と呼ぶ)の3台。ちなみに、ガソリンエンジン車にも4WDの選択肢はある。


もっとも印象深かったのは、HVの4WDだった。3ナンバー化にともなう上級志向が強く感じられる、上質なミニバンである。その感触をもたらした要素のひとつが、ノア/ヴォクシーとしては初採用となる「TNGA」(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)であることは間違いない。



トヨタは現行「プリウス」からTNGAの採用を開始し、その後は「C-HR」「カローラ」「カローラクロス」などのクルマを生み出してきた。TNGAを採用したトヨタ車は、走行性能はもちろんのこと、快適性も含めた総合性能が飛躍的に向上している。新型ノア/ヴォクシーも同様だ。



ことに、HVのE-Fourは快適性が抜群だった。路面の影響で車体がゆすられる場面でも、タイヤ震動がしなやかに収束されていく。不快な振動が減衰されていく様子は乗っていて快いほどだ。HVなので静粛性も高い。


トヨタのハイブリッドシステムは1997年の初代プリウス以来、基本的な構成は変わらない。エンジンとモーターの長所をいかしたシリーズ・パラレル方式である。それでも改良は進んでおり、現行の2代目「アクア」からはシリーズ方式の利点をより引き出し、モーター走行領域を40km/h付近まで高め、電気自動車(EV)的な走りが味わえるようになった。



新型ノア/ヴォクシーはアクアに比べ車両重量が重いし、バッテリーの種類も異なるのでモーター走行領域は20km/hくらいまでとはなるが、モーター走行領域が以前に比べ増えたことにより静粛性が高まった。なおかつ、ガソリンエンジンが始動したあとも唸るような騒音が少なく、モーター走行からHV走行に切り替わってもそれほど違和感がない。



トヨタはHVのさらなる燃費向上を目指し、ガソリンエンジンの最大熱効率40%の実現を目指してきた。だが、それにより現行「カムリ」などでは、かえって燃焼騒音が大きくなる弱点を見せた。



新型ノア/ヴォクシーのガソリンエンジンでも最大熱効率40%を実現する効率の追求は行われたが、カムリなどが搭載するエンジンとは異なり、出力を高めるための「急速燃焼」を採用していない。これにより、振動騒音を低減することができたそうだ。



E-Fourは後輪モーターでも回生を行うため、バッテリーへの充電量が前輪駆動(FWD)よりも多くなり、モーター利用の機会を増やすことができる。これも静粛性の高さに一役買っているらしい。


ガソリンエンジン車は10速の疑似的変速を体感できるCVT(ベルト式無段変速機)との組み合わせにより、HVと比べてもそれほど遜色のない滑らかな加速が実現できている。全体的な静粛性も向上した。もちろんモーター走行のあるHVとは差があるが、エンジン騒音はうるさいと思うほどではない。



全体的によく仕上がった3車種だったが、選ぶならHVの4WD車にしたい。車両価格は高くなるが、それでもできるだけ値段を抑えたとのことで、HVのFWDに対して20万円ほどの追加で済む。



内装の仕上がりも上質だ。カーナビゲーションを含め操作性に不自由はない。初めての運転でもすぐになじめる作りからは、5ナンバーミニバンとして多くの消費者に愛用されてきたノア/ヴォクシーの(トヨタの)経験値を実感した。

○新機能追加で使い勝手も向上



使い勝手のよさについては、新たな取り組みがある。



ひとつは、スライドドアの開閉に際し、自動的にステップがせり出す機構だ。これは、ダイハツ工業が軽自動車「タント」で採用している機構に似ていて、高齢者や子供などの乗り降りの助けとなる。あわせて、Bピラーと呼ばれる車体中央の支柱に長めの取っ手を設置。ステップに足を掛け、この取っ手を握れば乗り込みやすい。前型では乗降性向上のため低床化を図っていたが、新型は追加装備で乗降性がさらによくなった。


リアゲートが後ろへの跳ね上げ式であることに変わりはないが、跳ね上げ途中でゲートを軽く押すとその位置で跳ね上げが停止し、全開にせずに荷物の出し入れができるようになった。車両の後ろに壁が迫っていたり、別のクルマが停車しているときなど、空間的制約がある際に便利な機構だ。



どこに座っても座席は快適。前席は十分な寸法で体を支え、座り心地もよい。2列目は足を下へ降ろして座れるので、腿が安定して乗車中の姿勢が崩れにくい。3列目でも足元が窮屈ではなく、やや足を持ち上げる姿勢にはなるが、2列目の座席を少し前へ移動させれば足を伸ばして座れる。その座席位置でも、2列目には普通に座れる。TNGAを採用したこともあり、走行中も全ての座席で乗り心地のよさが実感できた。3列目シートを跳ね上げる操作も簡単で、腕力も大して必要ない。


乗員すべてが快適に移動できる室内の作り込みにも、長きにわたって人気の5ナンバーミニバンを作り続けてきたトヨタの知見がいきている。



気になるのは、3ナンバー化(車体の大型化)により、駐車や車庫入れなどで苦労するユーザーが出てくるのではないかという点だ。



これに対しては「X」という廉価グレードを除き、「アドバンストパーク」と呼ぶ自動駐車機能をオプション装備として設定している。縦列駐車と並列駐車を自動で行ってくれる機能で、駐車の際のクルマの向きは前後どちらにも対応可能だ。さらに、モーター走行ができるHVのみのオプションとして、スマートフォンを活用したリモート操作による並列駐車が使えるようになった。クルマのそばに立ち、スマホの画面を操作すれば無人のクルマが車庫に入る。出庫の際には、運転席のドアを開けられる程度まで前進させることもできる。



これらを活用すれば、駐車枠が車幅一杯に近い狭い場所でも、乗り降りに苦労せず止めることができるのではないか。


トヨタのミニバンは、圧倒的な人気の「アルファード/ヴェルファイア」に新型ノア/ヴォクシーという構成となった。その中間に位置していた「エスティマ」は生産終了となっている。上質で上級志向の新型ノア/ヴォクシーは、エスティマの穴を埋める存在にもなるのだろうか。



トヨタによれば、新型ノア/ヴォクシーでは顧客のターゲットとして「ミレニアル世代」を意識したという。20代後半から40代手前までの、子育てをしている家族も多そうな世代だ。彼らは四角くてミニバンらしい姿をしたクルマを好み、エスティマのような丸い外観は「子供時代に乗った親のクルマ」という認識であるとトヨタは分析した。その意味で、トヨタは新型ノア/ヴォクシーが、直接的にエスティマの代替になるとは意識していないようだ。



それでも、これまでエスティマを愛用してきた消費者にとって、新型ノア/ヴォクシーは乗り味で見劣りせず、上質な商品価値にも納得がいくクルマに仕上がっていると感じられた。大幅な進化を実現させたTNGAの威力と奥深さに、改めて感心させられる新型ノア/ヴォクシーである。


御堀直嗣 みほりなおつぐ 1955年東京都出身。玉川大学工学部機械工学科を卒業後、「FL500」「FJ1600」などのレース参戦を経て、モータージャーナリストに。自動車の技術面から社会との関わりまで、幅広く執筆している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。電気自動車の普及を考える市民団体「日本EVクラブ」副代表を務める。著書に「スバル デザイン」「マツダスカイアクティブエンジンの開発」など。 この著者の記事一覧はこちら