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プログラミング学習の始め方 第2回 小中学校で1人1台配られるPC、どのように活用されているの?

2022年03月09日 14:02  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
現在全国の小中学生は、学校で1人1台自分専用のモバイルPCを配布され授業などさまざまなシーンで利用しています。「コロナ禍の休校対策かな?」と思われがちなこのPC整備、実は以前から国が進めていた「GIGAスクール構想」という計画によるものです。



何を目指して進められ、どんなことに使っているのかをご紹介し、保護者としてはどう見守っていけば良いのかを考えます。


学校でもPCが"当たり前に使える"ことを目指して



学校でPCを使うときはPCルームに移動して、インターネットにつなぐだけでもひと苦労……つい数年前までこれが多くの学校では当たり前の風景でした。PCとプロジェクターで授業を進める先生は限られていて、あらゆる配布物は紙に印刷され、世の中のデジタル化からはかなり孤立した状態だったのです。



すでに多くの人がスマートフォンを持ち、タブレットやPCを仕事・趣味などに使うのが当たり前の時代です。子どもたちが学んだり、先生が教えたり校務をしたりするときにも、PCを当たり前に使えるようにしようというのが、「GIGAスクール構想」の基本的な姿勢です。



2019年12月に発表されてすでに動き始めていた計画ですが、コロナ禍で緊急性が高まり整備スケジュールが前倒しとなりました。国の計画と補助金をもとに予算を立てて実行するのは、小中学校を設置する市区町村等の自治体の役目。2021年7月末時点で、全自治体の96.1%が整備を完了しています。


例えばどんなことに使うの?



小中学生が貸与されるPCは、画面をタッチしても使えるタブレットPCで、一定の基準に沿ってWindows PC、Chromebook、iPad(キーボード付)のいずれかが選ばれています(この記事ではPCと呼びます)。例えばどんなことに使っているのかいくつか例をご紹介します。

○(1)意見共有や意見交換



授業でよくある自分の意見を書くシーン。さまざまなタイプの情報共有アプリがあり、子どもたちが自分の考えを書いて送信すれば、先生は全員の意見を瞬時に確認することができます。子ども同士がお互いの意見を見て感想を伝え合うことも。先生からは「普段あまり発言しない子がこんな意見を持っていたのかと気づかされた」という声をよく聞きます。

○(2)実技のチェックや記録



PCにはカメラとマイクがついているので動画や写真の撮影がどこでも簡単にできます。体育や音楽などの実技科目で自分の演技や演奏を動画でチェックしたり、理科の観察で写真を撮ってレポートをまとめたりするのに大活躍。『音楽の実技テストを動画で提出させることで採点時間を大幅に短縮できた』という事例もあります。

○(3)共同制作作業

プレゼンテーションアプリでグループの発表内容をまとめるときに便利なのが『共同編集機能』。各自のPCから同時に同じファイルに書き込み一緒に制作することができます。これまでならば模造紙を囲んでマジックを手に進めるしか方法がなかった作業です。PC上で共同編集する方が、子どもたちが上下関係なく分担して作業できるという感想を持っている先生も。

○(4)作文の下書きやノートとして



デジタルの良さは何度でも修正して簡単にやり直せること。文章を書くときにはPCの方が繰り返し内容を検討できるので、高学年くらいになると作文の下書きはPC上でOKとしている先生もいます。また、文字を書くのが困難な特性のある子どもたちの場合、PCでノートを取ると学習効果が上がる可能性があります。



他にもインターネットの情報検索、デジタルドリル教材やデジタル教科書の利用、学校内のコミュニケーションなど活用方法はさまざま。係活動やクラブ活動で使ったり、持ち帰って家庭学習やオンライン授業に使ったりすることもあります。



このように、特別な用途ではなく学習や活動の流れに馴染んだ使い方をして、子どもたちの学びの質を上げ表現力を豊かにしてくれるのがこれからの1人1台のPCの姿です。さらに多様な特性の子どもたちが誰でも学びやすくなるよう、手段や教材の選択肢を増やせる点も注目されています。

プログラミングは後回し?



1人1台のPCというのは学校にとって大変革なので、変化に十分対応できず、まだ積極的な活用ができているところばかりではないのも現実です。目の前のPCに慣れるのが先で、プログラミングに手がまわらないという声も聞こえてきますが、PCの活用とプログラミング教育はとても深い関係にあります。



PCを使いこなすこととプログラミングは、どちらも「情報活用能力」と呼ばれる力の一部で、小学校の教育で重視されています。プログラミングだけ単独でやるのではなく、コンピューター技術への理解や、情報を取捨選択する力、情報の発信者としての責任やセキュリティへの知識などと共に総合的な力をつけることが大切なのです。



まずはPC環境が整いましたから、今後はプログラミング教育を進めやすくなるでしょう。

保護者としてサポートできること



子どもたちがPCを使うことを歓迎する保護者がいる一方で、不安を感じる保護者の声もあります。日頃子どもの動画の見過ぎやゲームのしすぎで悩んでいると、学校が遊び道具を与えたかのように見えてしまうのかもしれません。教育委員会や学校が、トラブルを未然に防ごうとさまざまな制限をPCに設定してしまうケースも多く、大切な情報検索や便利な機能が極めて使いづらくなっている例もあります。



自制を促したり親子でルールを決めたりしてもなかなか長続きしないのが家庭の日常ですから、不安な気持ちはよくわかります。簡単に答えは見つかりませんが、PCは子どもたちの力を拡張してくれる大切な道具ですし、PCを楽しみのために使うのも決して悪いことではありません。ですから、やみくもに利用を制限するのではなく、創ったり、読んだり、書いたり、考えたり、調べたりすることに、どんどん積極的に使うようにすることが大切なのではないかと私は考えています。



小さいうちにタブレットなどの情報機器を遊びにしか使っていないと、遊びが止まらず親が使用制限するというループに陥りやすいもの。使用制限だけされて育ち中学生頃に急に自分専用のPCを渡されたら『これで自由に遊べる!』という気持ちになってしまうのは仕方ないかもしれません。



小学生の頃から、PCを自分の表現や学びの道具としてクリエイティブにたくさん使うことが、遊びとのバランスを取り、情報機器の責任ある使い手になる大切な経験になるでしょう。ぜひそうポジティブに捉えて、子どもたちのPC活用を見守ってほしいと思います。



狩野さやか かのうさやか 専門ライター、ウェブデザイナー/早稲田大学卒業後企業勤めを経てアメリカ・サンフランシスコでメディアデザインを学びキャリアチェンジ。帰国後ウェブデザイナーとして制作会社勤務・フリーランスののち株式会社Studio947を共同設立。ウェブ制作とともに、専門ライターとして教育のICT活用、プログラミング教育に関する記事を多数執筆している。自社サイト「知りたい!プログラミングツール図鑑」、「ICT toolbox」では最新情報を発信。著書に『超わかる入門マンガ ひらめき!プログラミングワールド』(小学館)『見た目にこだわるJimdo入門』(技術評論社)など。 この著者の記事一覧はこちら(狩野さやか)