2022年03月09日 10:21 弁護士ドットコム
離婚に至る経緯は人それぞれですが、きちんと話し合って円満に成立、とはなかなかいかないもの。配偶者の浮気や不倫が原因なら慰謝料が発生し、子どもがいるなら親権の問題、また養育費についての取り決めなども避けられません。
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話し合いで離婚できなければ、家庭裁判所での調停や裁判まで進むことも。実際に離婚訴訟を起こすことになった女性の体験をお伝えします。(ライター/内田聡子)
保険外交員の女性との不貞疑惑から夫との離婚を決意した私。別居、そして調停へと進みました。しかし話し合いは一向に進まず、平行線に。そこで弁護士の助言に基づき、調停を取り下げることにしたのです。
調停を取り下げてから1カ月後、裁判所から手紙が届きました。
夫が申立人となり新たに離婚調停を起こした書類が入っており、私の名前が相手方として記入されていました。
「調停を取り下げれば夫が動く可能性がある」と弁護士に言われていたので、この展開は予想していましたが、またあの不毛なやり取りをするのかと思うとやっぱり気が滅入ります。 それでも、夫が申立人となったのだから少しでも事態が進むだろうと期待を持ち、ふたたび裁判所に向かいました。
私が相手方となった1回目の調停は、前回と同じ男性と新しく紹介された50代くらいの女性が調停委員でした。自己紹介の後はまず前回の調停を私が取り下げた理由と、現在の生活の状況について質問されました。
申立人となった夫は、「自分が抱える銀行のローンを全額妻が払え」という要求を変えておらず、前回は夫が主張する金額がおかしいこと、借り入れの期日がわかる書類を提出してほしいと言われたが叶わなかったことなどを説明し、埒が明かないため取り下げたことを話しました。
現在の生活については、婚姻費用が毎月払われており、私の収入もあること、息子は私との生活に慣れ精神的に安定していることを伝えました。
前回と同じ調停委員がいたおかげか、夫の後ろには夫の兄がいて毎回指示を仰ぐため進行が遅く、私に譲歩を迫る一方通行の状態であることを、一から話さずとも理解してもらえてスムーズに進行しました。
改めて「生活費の借金であるのに妻に全部払わせるのは無理」であること、夫が支払いの根拠として挙げている私の浪費について、事実無根であること、夫側は証拠をまったく提出していないため受け入れられないことなどを、夫に伝えてもらいます。
2度目の調停でも、夫の主張には驚かされ続けました。
「借金について、借り入れた日と金額がわかる書類を提出してほしい」という私の要求を、相変わらず夫は「通帳を見ればわかる」と拒否し、「いくらなら払えるのか」と支払いを求める姿勢を変えませんでした。
さらには「面会交流でかかるお金について、息子の食費を妻が負担するべきだ」という主張を夫は繰り広げたのです。
このことを教えてくれたのは男性の調停委員でした。あまりの言い草に文字通り絶句しましたが、「自分の息子なのだから、食費は自分で払うのが当たり前でしょうと言っておきましたよ」と聞き、常識のある調停委員でよかったと心から思いました。
2度目の調停もなかなか進まず、調停委員のふたりも「新しい証拠の提出がないのなら話し合いが進まないですよ」と夫に伝える一方になっていました。2度目の調停は、気がつけば4回目の期日を迎え、この時、私と夫に確認されたのが「離婚の意思について」です。
夫はこの調停について円満ではなく離婚で申し立てており、私も離婚を求めていたので、「この点については争いがないのですね」と言った調停委員から、「先に離婚を成立させて、財産分与については引き続き調整を続けてはどうか」という提案が出されました。
親権については私が息子を育てることを夫は認めており、裁判所が公表する算定表に基づく養育費3万円という金額も、お互いに了承している状態でした。
調停委員のふたりからは「一年以上別居状態が続いており、相手方(私)は母子家庭と変わらない状態であるにも関わらず、子どもの就学支援や児童クラブ費の減免などの制度をまったく使えていない」と現在の状況について説明がありました。
私としては、まず離婚が決まるのならそれ以上に助かることはないと思いました。
調停委員からの提案に難色を示したのは夫でした。「先にお金の問題を解決したい」というのが夫の主張だったそうです。
「離婚してもあなたが不利になることはない。財産分与の話は今と同じ状態で話し合いが続く」と調停委員が説明したそうですが、それでも首を縦に振ることはありませんでした。
このとき、「離婚を引き伸ばすことが夫たちの目的であり、私が折れてお金を払うのを待っているのだ」と改めて気がつきました。私の話を聞いた弁護士は、「不成立にして、こちらから離婚訴訟を起こすのはどうですか」とすぐに提案してくれました。
私自身、それしかないだろうと思っていたものの「訴訟」という言葉はやはり重く、弁護士費用の出費や離婚まで時間がかかることへの心配で、不安に押しつぶされそうでした。
私が申立人となった調停からずっと状態を聞いてくれていた弁護士は、代理人を受任することを快く引き受けてくれて、それだけが救いでした。
弁護士費用について、私の年収なら法テラスの援助が受けられることとその仕組み、代理人がつけば私は裁判に出廷しなくても構わないこと、書類の作成や裁判所からの連絡もすべて弁護士が引き受けてくれることなどを、改めて聞きました。
「夫が今のままであれば、離婚訴訟を起こすしかない」。その夜、調停のときに記した夫の不誠実な言葉を読み返しながら、改めて現実の厳しさを考え、不成立にすることを決めました。
次の調停のとき、「離婚を成立させないのであれば、この調停は不成立とし、離婚訴訟を起こす」ことを夫に伝えてもらいました。
調停委員からは再度、離婚で不利になることはないと夫に説明があり、その甲斐もあってか「先に離婚して、財産分与はこれからも話し合いを続けることで同意を得ましたよ」と笑顔で伝えられたときは、心の底から安堵しました。
ところが、調書が完成し裁判官が読み上げる最後のときになって、突然夫が「やはりお金の問題を解決したい」と言い出したのです。
暗い顔をした調停委員の女性が「困ったことになりました」と待合室にいる私を呼びに来て、調停室に入ると肩を落とす調停委員のおふたりと、真ん中には硬い表情の裁判官が座っていました。
「どうしても借金をあなたに全部払ってもらいたいと。申立人はお金への執着がひどいようですね」と言われました。
返す言葉もなく呆然とし、怒りと絶望で頭がいっぱいになりました。離婚を急ぐ私の足元を見てお金を払わせようとする夫側の態度に、離婚訴訟を起こす決意がはっきりと湧きました。
この調停を不成立にして構わないことを伝えると、調停委員から「弁護士費用にお金がかかるし、ここまで続けたのだから訴訟は待って。もう一度向こうにも考えてもらいましょう」と言われました。それを受けて次の調停まで「先に離婚を成立させる」という提案は持ち越しになります。
しかし、夫からの要求で2カ月後に開かれた調停で、夫はまったく同じことをしました。調書を作成し、裁判官が読み上げるときになって、また「先にお金の問題を解決したい」と言い出したのです。
夫たちの悪意をはっきり感じていた私は、予想していた流れだったので「今度こそ不成立で」とお願いしました。
ここまで夫を説得し続けてくれた調停委員のおふたりや裁判官に本当に申し訳ない気持ちでいっぱいで、「こんな結末になり、申し訳ありません」と何度も頭を下げました。調停委員も裁判官も、これ以上はどうすることもできないと判断し、調停は不成立が決定します。
その際、夫側からは「財産分与について、ここまで決まったことに署名しろ」と私が半分支払う旨など書いた書類を出されましたが、到底受け入れられるものではなく、拒否しました。
関わった人たちの気持ちを踏みにじり、私を馬鹿にするような振る舞いを通し、どこまでも自分たちの要求を満たすことしか考えない夫たちの姿は、本当に許せないと思いました。 こうして、夫が申立人となった調停は、不成立で幕を下ろします。
(次号へ続きます)
【筆者プロフィール】内田 聡子(うちだ さとこ):フリーランスのライター。ひとり息子と猫をこよなく愛する1977年生まれ。離婚の大変さはみんな同じ。どう進めるのが正解で、何を一番に考えるのが良いのか、を常に考えています。