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キャンピングカーの黒船? フィアット「デュカト」導入の的確な戦略

2022年03月08日 17:02  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
フィアットプロフェッショナルの商用車「デュカト」(DUCATO)が日本にやってくる。イタリア製の商用車がなぜ日本に? と思われる向きもあるかもしれないが、このクルマ、欧州ではキャンピングカー御用達の1台。デザインの国から来た大型新人を実車でチェックしてきた。


○欧州小型商用車のベストセラー



「ジャパンキャンピングカーショー2022」(千葉県の幕張メッセ、2月10~2月13日)で個人的に注目したのは、FCAジャパンによる「デュカト」正規輸入の発表だった。会場では報道関係者向けプレゼンテーションを行うなど、かなり気合いの入った1台に感じられた。フィアットプロフェッショナルはFCA(フィアット・クライスラー・オートモビル)グループの小型商用車専門ブランドで、正規輸入は今回が初めてのことになる。



海外ブランドの商用車が日本で販売されるのは、数は少ないものの珍しくはなく、大型トラックではスウェーデンのボルボ・トラックおよびスカニアが導入されている。しかし小型商用車については、ルノー「カングー」のように乗用車版としての販売が一般的で、現時点で正規輸入車はない。



デュカト導入の背景についてFCAジャパンは、今年でデビュー42年という歴史を持ち、2020~2021年の2年連続で欧州小型商用車のベストセラーになり、2020年の世界販売台数は約15万台という実績を持つクルマであることを挙げた。


たしかに筆者も、新型コロナウイルス感染症が流行する前、欧州に足を運んでいた頃は、イタリアだけでなくドイツやスペインでも当たり前のようにデュカトを目にしたことを覚えている。フランスが入っていないのは、基本設計を共有し同じ工場で作られるプジョー「ボクサー」、シトロエン「ジャンパー」が存在していることが大きい。



フィアットプロフェッショナルが属するFCAと、プジョーおよびシトロエンがあるPSAが合併してステランティスを結成したのは2021年だが、この3車種はそれ以前から共同開発を続けていたのである。

○サイズもメカニズムも日本勢と大違い



さすがに欧州生まれということもあり、デュカトは日本のキャンピングカーのベース車両と比べると、いろいろな違いがある。



まずはボディサイズ。日本には3種類のボディが導入されるが、会場に展示されていたもっとも小柄な「L2H2」は全長5,413mm、全幅2,050mm、全高2,524mmで、ホイールベースは3,450mm(数値は欧州仕様)となる。「L3H2」では全長が5,998mm、ホイールベースが4,035mmに伸び、「L3H3」は全高も2,764mmにアップする。


キャンピングカーのベース車両として定番のトヨタ自動車「ハイエース」は標準ボディが4ナンバー、つまり乗用車の5ナンバーと同じ枠に収まっているので、それに比べればデュカトはかなり大柄だ。


ただし、ハイエースの幅広いバリエーションの中には「スーパーロングバン・ワイドボディ・ハイルーフ」という車種もある。こちらは全長5,380mm、全幅1,880mm、全高2,285mmと、デュカトL2H2との差はさほどでもない。



サイズ以上に注目なのは駆動方式だ。日本の小型商用車は多くが後輪駆動なのに対し、デュカトは当初から横置きエンジン前輪駆動を採用し続けてきた。日本車では多くのミニバンが採用する方式であり、エンジンや前輪が運転席より前にあるので遮音性や乗り心地で有利、かつ床を低くできるメリットがある。

前輪駆動は積み荷が重くなると駆動輪に荷重が掛かりにくく、空転の恐れがあるので、商用車には不利といわれる。しかしデュカトの最大積載量はL2H2が1,525kg、L3H2が1,475kg、L3H3が1,450kgと十分な数字を達成している。



一方の室内スペースはL2H2でも11.5m3、L3H3では15m3と広大。とりわけ、低い床をいかした室内高はL2H2およびL3H2でも1,932mmで、平均的な体格の人なら立って歩き回れる。ハイルーフでも室内高が1,635mmにとどまるハイエースとは明確な違いだ。


この空間は本来の用途である配送業務、さらには送迎用でもメリットを発揮するだろう。プレゼンテーションでは、フォークリフトで直接パレットを積み込めることや、8・9・16人乗りレイアウトが選べることを説明していた。

○ボディカラーのセンスにも脱帽



こうした内容を持つデュカトは、スタイリングも日本車とはかなり違う。日本のミニバンよりボディははるかに大柄なのに、ノーズは逆に短い。これは運転席が高い位置にあることが関係している。



シートが高いので、エンジンは斜め下にある。しかも足を下に伸ばした運転姿勢になり、運転席の前後長を詰めることができる。なのでノーズを短くできる。ドア前端がタイヤハウスに切り欠かれているのがその証明だ。もちろんこのパッケージングは、荷室を広く取るため。合理的な設計を思い知らされる。


グリルとヘッドランプのデザインのつながりにも感心した。両者のラインを連続させるとともに、線の角度やカーブの曲率などを統一してあるおかげで一体感がある。さすがイタリアンデザインだ。



サイドに回っても、ドアミラーは上下2枚の鏡を内蔵しつつ、ウインカーを組み込み、ステーまでしっかりデザインが行き届いているし、運転席のドアと荷室のスライドドアのハンドルは同じ縦長でそろえているので、いかにも扱いやすそうだ。



ボディカラーも目を引いた。展示されていたのは標準色のソリッドな白だが、これ以外に5色ある。うち1色は黒だが、残りは微妙な色調のグレーを4タイプそろえている。日本人では到達できないセンスに脱帽した。



インテリアはフロアやシートこそ高いものの、インパネまわりは乗用車風。メーターにはデジタルディスプレイを装備し、センターには10.1インチのタッチスクリーンが備わり、Apple CarPlayやAndroid Autoにも対応している。装備もオートエアコン、電動パーキングブレーキ、スマートフォンのワイヤレス充電などが標準だ。


ベージュを基調とした運転席と助手席は、キャンピングユースを考慮して180度回転させることが可能。後ろ向きでも前後にスライドさせることができる。エンジンがシート下にないパッケージングだからこそできる技だろう。



日本仕様は右ハンドルで、2.3リッター直列4気筒ディーゼルターボエンジンに9速ATを組み合わせている。大きさに慣れれば多くの人が運転できる環境だ。



2022年下半期にデリバリー開始を予定しているデュカトは、販売方法も乗用車のフィアットとは違い、正規ディーラーから架装業者などへのBtoBを想定している。既存のディーラーだけでなく、全国のキャンピングカービルダー各社などと提携し、ネットワークを構築するつもりだという。



未架装状態での価格は469万円から。このボディサイズで500万円以下は安いと思った人もいるだろう。発表の場をジャパンキャンピングカーショー2022としたことを含め、欧州での豊富な経験をいかした的確な戦略を感じた。



森口将之 1962年東京都出身。早稲田大学教育学部を卒業後、出版社編集部を経て、1993年にフリーランス・ジャーナリストとして独立。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。グッドデザイン賞審査委員を務める。著書に『これから始まる自動運転 社会はどうなる!?』『MaaS入門 まちづくりのためのスマートモビリティ戦略』など。 この著者の記事一覧はこちら(森口将之)