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『ミステリと言う勿れ』人生の重みが凝縮された1時間 佐々木蔵之介が涙で見せた脆さ

2022年03月08日 06:01  リアルサウンド

リアルサウンド

『ミステリと言う勿れ』(c)田村由美/小学館 (c)フジテレビジョン

 美吉喜和(水川あさみ)の死の真相が明かされた『ミステリと言う勿れ』(フジテレビ系)の第9話では、ミステリー会が開かれた意図も明らかになる。そこには橘高勝(佐々木蔵之介)の自責の念と苦悩の人生があった。


【写真】マフラーでぐるぐる巻きの菅田将暉ほか


 アイビーハウスで行われた謎解きイベント「ミステリー会」に参加した整(菅田将暉)と風呂光(伊藤沙莉)。不穏な夜から一夜明け、一同は雪かきをするが、風呂光は庭のキョウチクトウが折られていることに気付く。さらに雪の影響でアイビーハウスは停電。復旧まで、整がカレーを作ってみんなで食事をすることに。そこで整はアイビーハウス内での2つの事象に気付づくのだった。整は謎を次々に解き明かし、喜和の死が引き起こされた真相から橘高が関与したとある事件までを説明。さらにはアイビーハウスで進行中の犯行計画の全てを言い当てる。


 天達(鈴木浩介)の友人である橘高は、自身の間違いから喜和の死を引き起こしてしまったことに苦しんでいた。そのことを誰にも言えないばかりか、自分すら自分のミスを受け入れられず、はては自分の人生さえ受け入れられず人知れずもがく。そしていつしかその苦しみはストーカーの手助けをすることで発散されていった。天達に向けて言い放った負け惜しみのような言葉には、恵まれたパートナー、恵まれた仕事や環境に対する嫉妬が混じる。もはや喜和を死なせてしまった自分のミスを正当化するかのように橘高は罪の上塗りを続けていた。


 本来は彼が真面目で優秀な男であろうことは細部から見てとれる。潔癖症という理由の元、手袋や帽子、マイボトルを持ち込んでも旧知の友人らから怪しまれなかったのは、実際にこれまでも神経質な彼が独自のルールの中で生きてきたきらいがあったからだろう。加えて自分のミスに強くこだわり、それが他人に知れることを強く拒絶する姿からも完璧主義な一面が窺える。汚れのない真っ白な雪の上にこぼれた墨のような欠点が受け入れられなかった橘高は、その一点の汚れを消すため白の世界を黒で塗りつぶすかのごとく、ストーカーの手助けや集団殺人を計画するなど次々に重い罪へと手を染めてしまったのだろう。佐々木蔵之介の淡々とした芝居には、潔癖と完璧主義を突き詰めた冷淡さが滲む。その一方で涙ながらに苦しみを吐露するシーンでは、その重圧にいつか押し潰されてしまうと恐れる脆さも垣間見えた。ひとりの人間が抱える人生の重みが凝縮された1時間であった。


 『ミステリと言う勿れ』もいよいよ終盤戦に突入。そこで気になるのが、連続ドラマとしての着地点だ。1~2話ごとに事件が起きては解決する流れの中、散りばめられたライカ(門脇麦)と我路(永山瑛太)の物語が途中であることに加え、本作の原作である同名コミックはまだ継続中である。ドラマの方が一足先に最終話を迎える形となることから、どう締めくくるのかは非常に気になるところだ。原作に最大限寄せてくるのか、完全オリジナルで勝負するか。過去には同じ月9ドラマである『ラジエーションハウス』第1シリーズ(フジテレビ系)で、コミック原作者の横幕智裕が自ら最終話の脚本を担当するというサプライズもあった。『ミステリと言う勿れ』の最終話がどんな“答え”を見せてくれるのか。


(Nana Numoto)