2022年03月07日 22:51 弁護士ドットコム
「子どもの意見を尊重し、その最善の利益を優先する」行政組織として、2023年に創設が予定されている「こども家庭庁」。被虐待当事者らの意見を踏まえた上で「こども家庭庁」から「こども庁」へと呼称が変わったが、昨年末さらに一転して「こども家庭庁」へ戻された。
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しかし「こども」の中には、親から暴力を振るわれるなど「家庭」と利益が相反する人も少なくない。このため高校生や虐待サバイバー、子ども支援の専門家などから「子どもが助けを求めづらい」「子どもの政策を、子ども抜きで決めないで」と、反対意見が上がっている。(ライター・有馬知子)
被虐待当事者の風間暁さん、現役高校生の清水あきひとさんら「『こども庁』の名称を求める会」のメンバーは3月7日、都内で記者会見を開き、名称変更を改めて要望した。
風間さんは「虐待などを受けた子は、こども『家庭』庁に『家庭』での暴力を訴えても『どうせ親にチクられる』『家に戻される』と思うのでは。家に居場所のない子どもたちが信頼できる、そして助けを求めやすい名称にすべきです」と強調した。
風間さんは、昨年3月に自民党の勉強会に招かれた際、被虐待児らさまざまな子どもたちの声を伝えたという。勉強会後、政府・自民党は「こども庁」の名を使うようになったが、昨年末、一部議員の反対によって一転「こども家庭庁」の名称で閣議決定された。
風間さんは名称変更をめぐる一連の動きについて「脅かされた子どもの声を、強い力を持つ親が『あんたの意見なんか、とるに足らない』と突き放す。虐待家庭の構造と全く同じです。こういう政治が、困っている子を救えるとは到底思えません」と批判した。
清水さんは「当事者である子どもの声を届けても、結局は政治家の考えで政策が決まってしまう。ショックだったが『やっぱり、政治家ってギリギリのところで、コロッと意見が変わるんだ。あーあ』という冷めた思いもあった」と政治への失望を語った。
一方で清水さんは「18歳未満の人に選挙権はなく、政策決定には参加できません。だからこそ大人には、子どもの声に耳を傾け権利を守る責任があるのではないでしょうか。子どもに関わる問題を、子ども抜きで決めないでほしい」と強く要望した。
また虐待を受けた子どもやその親と関わってきた弁護士・社会福祉士の安井飛鳥さんも会見に出席し「子どもは、守られるべきか弱い存在なだけでなく、一人の人間として権利を有している。こどもと家庭を名称に併記することは、子どもが主体であるというチャイルドファーストの理念後退につながりかねません」と懸念を表明した。
「家庭」という単語を名称から外しても、家庭支援の重要性を否定するわけではないとも説明。むしろ家庭の名を冠することで「子どもは家庭が育てるべき」という概念を社会に固定化させ、「自分が頑張って育てなくては」という親のプレッシャーを高めてしまうと指摘した。
「虐待した親の中には『私がこの子の将来に責任を持たなければいけない。子どものために頑張り尽くして手を挙げてしまった』と話す人も多い。(名称も)家庭を強調せず、子育てに困難を抱えた親は社会が支援するという姿勢を打ち出すべきではないでしょうか」と訴えた。
同会に対して、子ども支援の関係者の中には「言葉刈りだ」「大事なのは中身、たかが名前じゃないか」といった意見もあるという。
しかし風間さんによると、名称決定の過程で当事者の声が顧みられなかったことで、子どもの心の専門家からは「困難を抱えた当事者が、自分は社会の中で透明な、居場所のない存在だと感じ、心の傷を悪化させかねない」との懸念も示されているという。風間さんは以下のように訴えた。
「被虐待児ら困難を抱えた人とそうでない人では、見えている景色が違うことを分かってほしい。誰も取りこぼさない社会を目指すというなら、私たちの声もなかったことにしないでください」
同会は3月2日、野田聖子・こども政策担当大臣と面会し「こども庁」へ名称を戻すよう求める緊急要望書を提出。「Change.org」では名称変更に賛同する署名が3万筆を超えた。
また風間さんらの活動に対して、子ども支援のNPOなどのほか、東大名誉教授の上野千鶴子氏、臨床心理士の信田さよ子氏ら60人以上の専門家が賛同の意を示している。
風間さんらとともに会見に出席した虐待サバイバーのAyamiさんは「被虐待当事者のほか、ひきこもりやいじめなどさまざまな環境にいる子どもたち、そしてそれらを経験した大人たちにぜひ、名称変更に対する声を寄せてほしい」と話した。意見は「日本児童虐待当事者Voice」で募集している。