2022年03月07日 10:31 弁護士ドットコム
離婚に至る経緯は人それぞれですが、きちんと話し合って円満に成立、とはなかなかいかないもの。配偶者の浮気や不倫が原因なら慰謝料が発生し、子どもがいるなら親権の問題、また養育費についての取り決めなども避けられません。
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話し合いで離婚できなければ、家庭裁判所での調停や裁判まで進むことも。実際に離婚訴訟を起こすことになった女性の体験をお伝えします。(ライター/内田聡子)
【前回まで】夫がLINEで生命保険の外交員の女性との親密なやりとりをしているのを発見。子ども(6歳)とともに別居し、離婚することを決意しますが、さまざまな壁に直面します。
夫の不貞疑惑から離婚を決意し、まずは別居することになりました。
私が息子(6歳)とふたりで暮らすために契約した部屋は、ペットの飼育が可能な2LDKのアパートです。
3人で住んでいた部屋を出る際、持ち出した家電は私が自室で使っていたテレビと小さな空気清浄機だけでした。買ったばかりの50型のテレビや大きな冷蔵庫など高額な商品は、後から所有権で揉めると思ったので、いっさい触れずに置いていきました。
小さな炊飯器と冷蔵庫は新品を買いましたが、電子レンジやトースター、食器棚などは近所のリサイクルショップで安く購入し、できるだけ出費は抑えるなど。
引越しの日は、3人で住んでいた部屋から荷物を運び出す様子を息子が見るのはつらいだろうと考え、夫に外に連れていってもらうように頼んでいました。
新しい部屋での荷解きが済んだ夕方に息子を迎えに行きましたが、これから父親とは別々に暮らすことを実感したのか、クルマの中で泣き出すのを見ると私も思わず涙が出ました。
私が何より気がかりだったのは、息子でした。なぜ離れて暮らすのか説明しなくてはいけませんが、「父親が浮気したからだ」と言っても6歳の子どもに理解できるはずがなく、また父親の悪口を聞かされるのはつらいはず。「お父さんの仕事が忙しくなったから」でずっと通しました。
子どもは保育園の卒業を控えており、行事や小学校進学の準備などで、ただでさえ落ち着きません。離婚に向けて動く際には、息子の精神状態を最優先して行動することを意識しました。
元のアパートに暮らす夫とは「毎週末に会わせる」ことをLINEでやり取りしており、今も面会交流は週末ごとに行っています。
私は在宅で仕事ができるため、息子の生活リズムに合わせてなるべく一緒に過ごすようにし、園の行事もたくさん参加できたため、息子の気持ちも少しずつ落ち着いてきたように思います。
夫との別れを決意した時、経済面に不安がなかったと言えば、嘘になります。
個人事業主の私は生活費を稼ぐために、それまで以上に仕事をしなければいけません。が、夫へのストレスがなくなったことでやる気が戻り、また「大人ひとりの世話をしなくていい」生活は以前より執筆に集中できるため、幸いにも暮らしに困らない程度の収入を得ることができています。
私の事情を聞いた友人たちが、子連れでのお出かけに誘ってくれたり家での食事に招いてくれたり、あたたかい手を差し伸べてくれることも、本当にありがたかったです。
離婚調停は、翌月に第1回目が決まりました。当日は、ジーンズなどカジュアルすぎる服装は避け、黒のスラックスにシャツ、アクセサリー類は身に着けず、筆記用具を持って向かいました。
待機する部屋は、相手方と顔を合わせないようフロアを分けるなどの配慮が毎回あり、相手と顔をあわさずにすむ個室で待てるのは助かりました。
調停の流れは、まず申立人が先に調停委員と30分程度話をし、相手方と交代します。
調停が行われる部屋では50代くらいの女性と男性がふたり調停委員として座っており、裁判官は基本的にこの場には来ないこと、財産分与や婚姻費用、養育費の額の決定では最終的な判断を裁判官に仰ぐことがあるなど、説明を受けました。
裁判所の部屋に入るのも初めてですごく緊張しましたが、「自分のためだ」と思えば前を向いて臨むしかなく、申し立てのときに用意した陳述書をもとに調停を起こすに至った経緯を話しました。
調停委員のおふたりはしっかり耳を傾けてくれて、まず「今のお子さんとの生活はどうですか? 大丈夫ですか?」と尋ねてくれました。
婚姻費用の請求調停も起こしていることから、「まずこちらから決めていきましょう」と算定表の話をしてくれて、表の通りの金額でいいかの確認があり、私のケースでは6万円だったことから「私は大丈夫ですが夫が高すぎると言うかもしれません」と伝えました。
すると、「反対しても、最終的には裁判官が決めることになり、算定表通りの額になるのがほとんどですよ」と言ってもらえて、ホッとしました。
インターネットの記事で「調停委員が話を聞いてくれない」「相手の味方ばかりする」と読んだことがあり、自分の場合もそうだったらどうしようと不安でしたが、子どもを抱えてひとりで生活する私の状態を優先する雰囲気で、話しやすかったです。
1回目は婚姻費用の決定を急ぐ印象で、離婚については触れませんでした。
相手方である夫は予想通り、夫の兄と一緒に裁判所に来て、受付で「俺が弟の代わりに話す。部屋に入れろ」と言って断られたそうです。
調停委員が話す夫の様子は、ひたすら自分が抱える銀行への借金を「妻が全部払うべき」に終始していたそうです。借金の多くは生活費でした。そのため「夫も払う義務があるのでは」と調停委員は助言したのですが、まったく耳を貸さないようでした。
私は「夫の抱える借金については半分支払う」と最初から答えていましたが、それでも「全部払え」から夫は動こうとせず、話し合いは進みません。
一方で、婚姻費用請求調停については2回目で月6万円の支払いが決定しました。案の定、夫からは減額の希望がありましたが、以前話があったように「それでは裁判官の意見を聞いてまいりますので」と断って調停委員が席を立ち、戻ってきた際に算定表通りで決めることがそれぞれに伝えられました。
夫は抵抗したようですが、最終的に承諾したそうです。
その日のうちに調書が作成されることとなり、振り込み先である口座の確認、支払う期日は毎月末日、振込手数料は夫が負担することなどの細かい取り決めをしました。
最後に、裁判官と調停委員の3人が調停室に揃い、私の前で調書を読み上げて内容を確認します。読み上げる際も、「夫との同室は避けたい」と伝えたので別々にしてもらえて助かりました。
こうして、婚姻費用請求調停についてはすぐに決まり、生活費の不安が少なくなったのは本当にうれしく、ホッとしました。
婚姻期間中、家計を管理していたのは私です。
夫の抱える負債額がいくらなのか、いつ頃にいくら借りたかも記憶にありますが、おかしいと思ったのは夫の主張する金額が予想より100万以上多いことで、「それぞれ借り入れた期日と金額のわかる書面を出してほしい」とお願いしていました。
調停委員からも「払ってほしいのならそうするのが筋」と説明があったそうですが、夫は「通帳を見ればわかる」の一辺倒で通帳を出すばかり、借金には結婚する前に夫が個人的に借りていたものもあることを私は知っていたので、それを伝えてもらっても夫は「借金を全部妻が払え」から一歩も譲りません。
調停での話し合いが進まない点はもうひとつあり、「どうも夫さんは兄の判断に従っているようですね」と調停委員から言われていました。
私の説明や調停委員からの説明を聞くと、夫は「兄と相談してきます」とその場では何も答えず、次に自分が話すときになって「やっぱりお金のことをちゃんとしたい」と同じ言葉を繰り返すので、合わせて3時間程度しかない1回の調停では何も決まりません。
私には夫の様子が「こうやってお金の話をゴリ押ししていれば、早く離婚したい私が折れて全部払うと言い出すと思っているのだろうな」と感じられ、何を言っても「金を払え」から話が進まない調停にどんどん落ち込んでいきました。
「このままではいけない」と思った私は、以前、無料の法律相談でアドバイスをくださった弁護士に相談することを思いつきました。夫の様子を聞いた弁護士は、「調停を取り下げてはどうですか」と提案してくれました。
自分が申し立てた調停を取り下げるなど考えてもいなかった私は驚きましたが、「これ以上話してもらちが明かないし、話し合う場がなくなれば向こうが動く可能性もありますよ」と言われ、客観的な状態を改めて考えることができたのです。
取り下げはすぐにできること、お金もかからないことなどを教えてもらい、次の日に家庭裁判所に行き、手続きをしました。
私が申立人となった調停は、4回で取り下げる形となって終わります。弁護士からは「様子を見ましょう」と言われていたので、夫には調停を取り下げた理由などは何も言わないまま過ごしました。
(次号へ続きます)
【筆者プロフィール】内田 聡子(うちだ さとこ):フリーランスのライター。ひとり息子と猫をこよなく愛する1977年生まれ。離婚の大変さはみんな同じ。どう進めるのが正解で、何を一番に考えるのが良いのか、を常に考えています。