2022年03月06日 09:51 弁護士ドットコム
コロナが流行してから様々なところでマスクの着用を求められるようになりました。多くの人が集まる場所ではマスクの着用を求められることが多いですが、中には理由もなく「応じない」という強い姿勢を示す人もいるようです。
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弁護士ドットコムに相談を寄せたスポーツクラブの従業員の場合、利用客にマスク着用を要求したら「死ね、うるさい黙れ」と暴言を吐かれました。
「スポーツクラブではマスク着用の上での活動をルールとして記載しており、未着用の利用者には着用するようにお願いしています」といいます。
この会員が暴言を吐くのは今回が初めてではありません。そこで「強制的に退会させたい」と考えています。このような迷惑客に対して、どのような対応ができるのでしょうか。近藤暁弁護士に聞きました。
ーー着用義務を命じる権利が店側にはあるのでしょうか。強制退会させることはできるのでしょうか
相談者のスポーツクラブの会則は「定型約款」(民法第548条の2)に該当すると考えられます。そのため、定型約款に関する民法上の定め(民法第548条の2から第548条の4まで)と会則の双方を見据えながら対応する必要があります。
利用者は、スポーツクラブがあらかじめ定めた会則を遵守することに同意した上でスポーツクラブに入会しているはずです。これにより会則は契約の内容となり、利用者は会則に拘束されることになります(民法第548条の2第1項)。
本件では、会則にルールの遵守が記載され、具体的なルールの内容としてマスクを着用した上で活動をすることが記載されているとのことです。したがって、スポーツクラブには利用者に対して会則に基づきマスクの着用を求める権利があり、利用者にはこれに従う義務があります。
スポーツクラブの求めに応じない利用者に対しては、債務不履行があったものとして契約を解除する、すなわち強制退会させることも可能となります。
ーーコロナ下の前に定められた会則には、マスク着用を定めていないものもありそうです。そのようなクラブはどう対応できるのでしょうか
スポーツクラブが行うべき準備や対策として、マスクの着用などの遵守事項を会則に新設することが考えられます。
この場合、会則を変更してマスクの着用といった新たな義務を利用者に課すことができるかという問題が生じます。
定型約款の変更については、それが利用者にとって不利な変更であっても、契約をした目的に反せず、かつ合理的であるときには、スポーツクラブがいわば一方的にこれを行うことができます(民法第548条の4第1項第2号)。
マスクの着用義務の新設は、スポーツクラブの目的に合致し、かつコロナ感染拡大防止のため必要かつ相当なものとして、合理的であると認められるでしょう。
そして、このような会則の変更は、施設内での掲示やウェブサイトへの掲載などにより周知することで効力を生じます(民法第548条の4第2項、第3項)。
【取材協力弁護士】
近藤 暁(こんどう・あき)弁護士
2007年弁護士登録(東京弁護士会、インターネット法律研究部)。IT・インターネット、スポーツやエンターテインメントに関する法務を取り扱うほか、近時はスタートアップやベンチャー企業の顧問業務にも力を入れている。
事務所名:近藤暁法律事務所
事務所URL:http://kondo-law.com/