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ここまでやるか、トヨタ! 新型「ノア/ヴォクシー」はミニバン市場独走の予感

2022年03月04日 11:31  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
街中でも高速道路でも、スーパーでも観光地でも、とにかくよく見かける人気のミニバンといえばトヨタ自動車の「ノア/ヴォクシー」だ。モデルチェンジで4代目となった新型に乗ってみると、走りも利便性も妥協なく進化させた「全部盛り」的なクルマに仕上がっていた。ドル箱の商品だけにトヨタも手抜かりなく、商品性向上に全力を注いだ様子。これならミニバン市場で盤石の地位を守り続けるのも難しくはないだろう。


○個性が増した3つの「顔」



「タウンエースノア/ライトエースノア」(後輪駆動)の後継モデルとして、21世紀を迎えたばかりの2001年11月に発売となった「ノア/ヴォクシー」。2代目は2007年、3代目は2014年と順調にモデルチェンジを繰り返し、4代目となった今回の新型は8年ぶりの登場ということになる。



新型のボディサイズは全長4,695mm、全幅1,730mm、全高1,895mm、ホイールベース2,850mm。長さとホイールベースは先代と変わらないが、幅は35mm広くなり、ルーフは70mm高くなっている。「トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー」(TNGA)の思想に基づいた軽量・高剛性の「GA-C」プラットフォームを採用したことにより、5ナンバーサイズのモデルがなくなり、全車3ナンバーサイズになったのが特徴だ。


ノアの通常版は「堂々・モダン・上質」、ノアのエアロモデル(フロントのデザインが少し違う)は「王道・アグレッシブ」、ヴォクシーは「先鋭・独創」がキーワード。ミニバンのように四角い箱型のクルマで他社と差別化するのはフロントデザインしかない、との観点に立ち、先代から始まったアグレッシブな表情をさらに個性的に進化させた。3つの顔を用意し、ユーザーに好みで選んでもらおうというわけだ。ホンダのミニバン「ステップワゴン」(新型は2022年初発売予定)がシンプルでナチュラルなルックスを採用しているのに比べると方向性は大きく異なるが、トヨタとしては先代で高い評価を受けた「ギラギラ」路線で押していくことにしたのだろう。


○ハイブリッドは静けさEVレベル?



今回は3台のクルマに乗ることができた。まずは「ヴォクシー」の「HV S-Z」(7人乗り、前輪駆動)だ。新型ノア/ヴォクシーの発売直後の段階では、ヴォクシーがオーダーの7割を占めていたとのこと。ノアに比べ、よりアグレッシブな顔つきが特徴だ。


ヴォクシーのS-Zが搭載するパワートレインは第5世代の「シリーズパラレルハイブリッド」システムだ。最高出力72kW(98PS)/5,200rpm、最大トルク142Nm/3,600rpmの1.8L直列4気筒ガソリンエンジンに70kW(95PS)/185Nmのフロントモーターを組み合わせる。システム構成は旧「THS Ⅱ」と同じだが、さまざまなポイントで改良を施した新型からは名称を一般的な呼び方に変更したのだという。



ハイブリッドトランスアクスルには専用の電動車用超低粘度オイルを使用。モーターを高出力化(72PS→95PS)し、全体で15%の軽量化を図り、パワーコントロールユニット(PU)では29%の損失低減を実現している。新開発のパワー半導体を使用することで静粛性も向上した。バッテリーはリチウムイオン(容量4.08Ah)を使用し、体積を30%小型化。これらの努力で燃費は従来型から23%も向上し、23.0km/L(WLTCモード)に達したというからなかなかすごい。


実際に都内の一般道を走ってみると、パワーアップのおかげか加速力に不満はない。電気自動車(EV)的な静かでトルク感のある走りが楽しめる。従来型で低速走行中によく聞こえていた「キーン」というPUのノイズは、人間の耳に聞こえにくい周波数(15~20kHz)に引き上げるような制御を施した。先代に比べ、車内がより静かになっている。静かだから、走行中にエンジンが始動すると、その音が目立ってしまうという弊害もある。



運転支援面では、レクサス「NX」などが採用している「プロアクティブドライビングアシスト」を組み込んだことがニュース。NXに試乗したときに感心したシステムで、前方にきついカーブがあったり、遅い先行車がいたりすると自然に減速し、ドライバーのペダルの踏み換え操作を減らしてくれる。NXの試乗ではビーナスライン(長野県)の長い下り坂で遅いトラックに追いついた際、クルマが車速を合わせて勝手に付いて行ってくれたので、「ああ、便利だな」と思った次第だ。


新型ノア/ヴォクシーでは2月中旬以降の生産分から、最新の運転支援システム「アドバンストドライブ」(渋滞時支援)を装着したモデルを選べるようになる。最新の機能としてはほかにも、ドアオープンを制御する「安心降車システム」やスマホによる車外からの遠隔駐車が可能な「アドバンストパーク機能」などを採用。アシスト面は充実している。これらの機能は別稿で紹介する。


○これでもか! 利便性にも工夫が満載



走りも大事だが、ミニバンに求められるのはなんといっても居住性や利便性だ。新型はここでも大きな進化を見せた。特にS-Zのセカンドシートは、左右アームレスト付きでクラス初のオットマンとシートヒーターを装備(オプション)したキャプテンシート。「アルファード」もびっくりの豪華さだ。手動式だがセッティングの操作自体は簡単。シートセンターの折りたたみ式大型サイドテーブルには、カップホルダーが4つも付いている。


先代のセカンドシートをスライドさせるには、いったん内側に動かしてから後方へ押し下げる必要があったが、新型はレバー操作ひとつで745mmものロングスライドが可能となった。前席との間に出現する広い空間にはサイドから背の高い荷物が積み込める。2列目をお子様用としてチャイルドシートを装着した際は、真正面からベルトの装着が行えるので特に便利だ。雨の日でも濡れる心配がない。


サードシートは下部にあるロック解除レバーを使用するワンアクションの左右跳ね上げ・下ろし式。力もあまり必要としない。従来はストッパーで上部を止める必要があったけれど、新型は自動ロックされるので、女性でも簡単に広大な空間を作り出すことができる。


助手席側のパワースライドドアには、開閉に連動して地上から200mmの位置で出入りするユニバーサルステップ(オプション)を取り付けることができる。ローラーを利用した「からくり機構」で、モーターを使わないシンプルなアイデア商品ともいえる。


大きなバックドアも機能満載だ。リア両サイドのクォーターパネルにパワーバックドアスイッチ(オプション)が設けてあり、任意の位置でドアを停止できる。後方に引きがないときはもちろん、スーパーの駐車場などで、ミニバン同士が後ろ向きに対面している時などにはとても便利だ。手動バックドア車にも好みの位置で止められるフリーストップドア機構が取り付けられている。


○HVの4WDは運転好きのユーザーに最適



次に乗ったのは新型「ノア」の「S-Z E-Four」(7人乗り)。2WDのハイブリッドシステムにリアモーターを搭載した4WDだ。現行「プリウス」のE-Fourに比べ、リアモーターは最高出力が約6倍の30kW(41PS)、最大トルクが84Nmに向上。パワーアップに応じて4WDの作動領域やリアトルク配分が拡大しているため、寒冷地のファミリーユースにはピッタリの1台だ。


乗ってみると、ドライ路面でもスタート時にはリアから押し出されるように感じられ、右左折時にはリア駆動的な旋回性能を見せてくれたりもするので、走りにこだわるパパドライバーにも刺さりそうな仕上がり。走行状況に応じて4WDとFFが切り替わるので、燃費も22.0km/L(WLTCモード)と納得の数字だ。



ちなみに、販売店で実車を見た顧客からの注文が増えたのか、ノアの受注台数も伸びてきているとのこと。ノア/ヴォクシーの比率は、今や半々といった状況だという。



最後に乗ったのはノアの「S-G」(8人乗り)。125kW(170PS)/202Nmを発生する2.0リッターダイナミックフォースエンジンにCVT(10速シーケンシャルシフトマチック)を組み合わせたガソリンモデル。試乗車は8人乗り仕様だったので、2列目はベンチシートだった。メーターは丸型2眼となり、シフトノブの形状もハイブリッドとは異なる。



走りは通常のガソリンエンジン車らしく乗りやすい。燃費は15.0km/L(WLTCモード)となる。ハイブリッドとガソリンの受注比率は6:4というから、こちらを選ぶユーザーも意外と多いのだ。


こうして3台に続けて乗ってみると、やっぱりミニバンにつぎ込まれた数々の工夫は、すごいと思わざるを得ない。例えてみると、ダシがしっかりと効いた、品数の多い立派な「仕出し弁当」とでもいうべきか。受注開始2カ月で7万台という数字もうなずける話だ。



原アキラ はらあきら 1983年、某通信社写真部に入社。カメラマン、デスクを経験後、デジタル部門で自動車を担当。週1本、年間50本の試乗記を約5年間執筆。現在フリーで各メディアに記事を発表中。試乗会、発表会に関わらず、自ら写真を撮影することを信条とする。 この著者の記事一覧はこちら(原アキラ)