トップへ

【漫画】不完全なまま“大人”になっていく苦痛……「全知全能の先生と僕の話」がグロテスクで美しい

2022年03月04日 07:41  リアルサウンド

リアルサウンド

『question』(全知全能の先生と僕の話)

 美しいがグロテスク、いやむしろ、グロテスクだからこそ美しいと感じる、上質なファンタジー漫画『question』(全知全能の先生と僕の話)が、Twitter上で公開されている。


(参考:『question』(全知全能の先生と僕の話)を読む


 舞台は子どもたちと先生しか登場しない、不思議な世界。子どもたちは月に数回配布される本を読み、その本の中から一つだけ質問を選び、先生に答えてもらう。そんな無機質でありながら混沌とした空間の中、主人公の“僕”は学びを続けるうちにこの世界の本質を知ることに――。


 作者のたたみさん(@ripblossom)は、子ども時代の漠然とした後ろ暗い感情を作品に落とし込んだという。セリフに頼らず、物語に読者を引き込むこの物語は、どのようにして生まれたのか。制作における今後の構想についても話を聞いた。


大人になることの不快感


――『question』を制作しようと思った経緯をお聞かせください。


たたみさん(以下、たたみ):最初は漠然と「”不思議な先生”である男の子とその生徒の話が描きたいな」と思い、お話の内容ではなく外側から進めた作品です。外側だけ完成した中身が空っぽの状態でしたが、「何を主軸にしてこのストーリーを描いていくのか」と考えた際、「私が子どもの頃に感じていた不安、焦燥、大人への不信感をやんわりとこの漫画に落とし込みたい」と思い、このような作品になりました。


――子どもの頃に感じていたネガティブな感情とは?


たたみ:子どもの頃って、大人が全知全能の神様のように思えたり、一種の憧れのようなものを感じていたりしていました。ただ、自分が成長する中、「実は大人って大したことないんだな」「結構汚いんだな」など、色々なことに気付いて結構打ちのめされた経験があります。


 「いつか自分もそんな大人になっていくんだ」「全知全能なんかにはなれないんだ」「不完全なまま、今度は誰かの“大人”にならなくてはいけないのか」といった不安や苦痛でいっぱいでした。ですので、同作内では“僕(=子ども)”が知らず知らずのうちに成長し、いつの間にか“先生(=大人)”になっていく姿を描いています。


――完成に有した期間を教えてください。


たたみ:学生の頃に考えたお話なので、構成やオチなどはすでに完成していました。そこからコマ割りやペン入れなど、執筆自体は2ヵ月程度だったと思います。展開についてはすんなりとお話が浮かんでプロットに起こせた記憶があり、あまり苦戦しなかったです。ただ、漫画としてコマ割りや作画を徹底するのは、今作が初だったため、作画にはかなり手こずりました。何度も何度も描き直しながら、なんとか描き切ることができました。


セリフを少なくした狙い


――ファンタジー要素の強い世界観でありながら、セリフ自体は少ない印象を受けました。セリフ量はどのように意識されていますか?


たたみ:設定的にも、「先生との質問以外の会話は一つもない」となっているため、基本的に不要なセリフは一切書かないように意識していました。“先生”が初めて自ら“僕”に声を掛けた時、普段は表に出さない“先生”の内面的な部分をより深みのあるものにしたかったため、今回の作品は意図的にセリフを少なくしています。


 また、セリフ以外の“僕”視点での解説や心の声のようなものは、セリフに対して多いです。これはプロットを作る際、短い文章作品のような形で作成したため、漫画にするにあたり、「“絵”として表現するよりも、元となったプロットの“言葉”で紙面に残したい」という思いが強くなり、セリフ以外の文章は比較的多くなりました。


――ファンタジー系の作品を主に制作されていますが、他ジャンルの制作も今後は検討していますか?


たたみ:私個人としてはもう少し現代にもフォーカスした作品を描きたいのですが、今手元にある昔の作品が今作のようなファンタジー色が濃いものが多いです。自分の考えたお話を形にするのが夢でしたので、今後しばらくは学生の頃の作品のリメイクを中心に作品作りをしていきたいなと考えています。ただ、色々なジャンルで作品を描いていきたい気持ちはありますので、積極的にチャレンジしていきたいです。


(望月悠木)