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『カムカムエヴリバディ』にアニメの影響? 描かれる戦後日本の典型的な“家族像”

2022年02月27日 06:01  リアルサウンド

リアルサウンド

『カムカムエヴリバディ』(写真提供=NHK)

 NHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』は15週の半ばから本格的にひなた編がスタート。成長したひなた(川栄李奈)は高校生活最後の年を過ごしていた。屈託なくすくすくと育ちつつも、ちょっぴり抜けている可愛らしさが共存するのが魅力のヒロインだろう。誰もが一度は「あるある」と頷きたくなるチャーミングな経験に、自分や家族の姿を重ねながら見ることのできるキャラクターなのだ。


【写真】ひなた(川栄李奈)とサンタ(濱田岳)


 一念発起し回転焼きを焼けば大量の失敗作を生み出し、夏休みの宿題は8月31日まで終わらない。しかし若さゆえの無鉄砲さと、失敗してもへこたれない力強さからは自然と勇気と元気をもらえる。我が子のように愛おしくさえ感じるひなたは、まさに令和に降り立つ「みんなの昭和娘」。愛情深いるい(深津絵里)と錠一郎(オダギリジョー)の元ですくすくと育ったひなたには、自然と応援したくなる愛嬌がある。


 そもそもひなたは生まれてこの方、初代ヒロインの安子(上白石萌音)や二代目ヒロインのるい(深津絵里)のように波乱万丈の人生を歩んできたわけではない。安子はコツコツとラジオ英会話で英語を習得した努力家であり、るいは岡山を出てすぐに身一つでクリーニング屋に飛び込んだ働き者だが、ひなたにはそういったバイタリティがあるわけでもなさそうだ。さらには、朝ドラ『スカーレット』(NHK総合)の喜美子(戸田恵梨香)や朝ドラ『エール』(NHK総合)の裕一(窪田正孝)のように才能のある分野に情熱を捧げているわけでもない。小さなころから大好きな“お侍さん”だけをまっすぐ見つめ、家族と楽しい時間を過ごすことを大切にして、笑顔溢れる日々を過ごしてきた。


 しかし、それはひなたがこれまでのヒロイン像と比べてインパクトに欠けるというわけではない。何も考えずに大好きなことに存分に打ち込むひなたは、るいと錠一郎の幸せの象徴であり、もっといえば戦争のない国に暮らすことの幸せを現している。演出の橋爪紳一朗はひなたのキャラクターについて「『ちびまる子ちゃん』の世界観が我々の共通認識になっています。他にも『サザエさん』(共にフジテレビ系)や『ドラえもん』(テレビ朝日系)などの昭和のアニメの家族の雰囲気は意識していましたね。るい編と比較するとキャラクターの年齢が一気に下がったので、身近な日本のアニメを意識しました」と語っている。これらのアニメに共通する、日常の中の些細な幸せや、団欒、ステレオタイプな「家族」像というのは確かにひなたを取り巻く環境と結びつく部分がある。このように、ひなた編は平和になった日本で家庭を持つことの「幸せ」がわかりやすく描かれているのではないだろうか。


 ひなたの親であるるいと錠一郎はどちらも戦争によって親を失い、厳しい環境の中で生きてきた。その2人が出会い、結婚をして、子供ができた時にはお腹をみつめ「僕、お父さんになれるかな」「なれるかな、お母さんに」という会話を交わすのだ。幼いころに親との別れを経験した2人にとってのこの言葉は、これまで安子編から描かれてきた「家族」のつながりというものを意識させる。さらにそんな2人にとって、家族4人がちゃぶだいを囲みご飯を食べながらテレビの内容について語り合う時間こそが、この上ない幸福なのではないだろうか。豪勢なおかずが何品並んだとか、るいが大物に成長するかどうかではなく、大好きな子供たちと食事を共にし、泣いたり笑っている顔を見ていられるだけで、ただただ幸せなのだと伝わってくる。


 かつて小さなひなた(新津ちせ)は、るいの額の傷のことを「旗本退屈男みたいでかっこいい」と目を輝かせ、るいを微笑ませた。好きを突き詰めたひなたならではの視点は、いつの日かまた誰かを微笑ませることになるのかもしれない。そして、その誰かは五十嵐(本郷奏多)になりそうな予感も。ひなたの快活な声と眩しい笑顔にパワーをもらいながら、その活躍を応援したい。


(Nana Numoto)