NTTインディカー・シリーズが2月27日に開幕戦を迎える。2022年もシャシーはダラーラのワンメイクで、エンジンはホンダとシボレーの2メーカーのものが搭載される。タイヤはファイアストンが単独供給し、ストリートとロードコースではハードとソフト(ブラックとレッド)の2スペックが使われる。今シーズンのレース数は17。アメリカ国外ではカナダでの1戦がスケジュールされている。
新チャンピオンのアレックス・パロウ(チップ・ガナッシ・レーシング)は今年も活躍が期待できそうだが、非常に手強いライバルがひしめいており、今年も熾烈な戦いがシーズンを通して繰り広げられることになるだろう。
パロウにとっての最強のライバルは、7回目のタイトルを狙う大ベテランのスコット・ディクソン。チームメイトなので手の内を隠しようもない。この真っ向勝負に2年続けて勝つという課題はなかなかハードルが高い。
エンジニアリング、ドライバーラインアップ、クルーの訓練度、作戦能力……すべてがトップレベルのチップ・ガナッシ・レーシングは今年も4カー体制。NASCARチャンピオンのジミー・ジョンソンがフルシーズンエントリーになって、トニー・カナーンはインディー500のみ出場する。ジョンソンがオーバルでどんな走りを見せるかは興味深いところ。昨年2勝のマーカス・エリクソンのパフォーマンスにも注目だ。
パロウの第2のライバルは昨年ランキング2位だったジョセフ・ニューガーデン(チーム・ペンスキー)。2度チャンピオンになっている彼は担当エンジニアがアロウ・マクラーレンSPに移籍したため、今年は新任エンジニアとの戦いになる。
チームメイトはウィル・パワーとスコット・マクラフランで、シモン・パジェノーを放出して体制が3台に縮小されている点が気がかり。これらがマイナスに作用する可能性も考えられるからだ。もっとも、大きめの体制変更でプラス要素が引き出されるケースも考えられる。
パロウよりやや若い20歳台前半のライバルたち、その筆頭は昨年2勝してランキング3位になったパト・オワード(アロウ・マクラーレンSP)。
F1の名門チームはインディカーのプロジェクトでも活動資金をまずはガッチリ確保し、前体制から受け継いだスタッフを強化。その成果で昨シーズン中に急速に力を伸ばしたが、今年も上昇ムードを保ち続けることはできるだろうか。移籍2シーズン目になるフェリックス・ローゼンクヴィストのパフォーマンスアップがどれぐらいなされるかと、スポット参戦させる3台目の働きぶりもポイントとなる。
オワード以上に怖い存在になると見られるのがコルトン・ハータ(アンドレッティ・オートスポート・ウィズ・カーブ・アガジャニアン)だ。彼のチームには昨年ルーキーながら表彰台に3回上り、ポールポジション獲得も1回果たしたロマン・グロージャンと彼を担当していたエンジニアが揃って移籍してきた。
その上、技術提携するメイヤー・シャンク・レーシングはエリオ・カストロネベスとシモン・パジェノーのベテランコンビになった。アンドレッティ陣営のエンジニアリングは一気に強化される。その恩恵を得たハータが連勝街道を突っ走る……ということは十分起こり得る。
強豪入りしたグロージャンの走りも楽しみ。初勝利が早ければタイトル争いの可能性も出てくるだろう。
アンドレッティ・オートスポートにはアレクサンダー・ロッシもいる。ハータの活躍とは裏腹に居所をなくなしてしまった感すらあるが、今年はグロージャンも加入してきた。苦悩は深まるのか、数年前まで見せていた爆発的な速さを取り戻すのか。
■2022年もルーキードライバーは豊作?
今年のルーキーは去年ほど目立った体制での参戦がないもののクォリティは高い。昨年のインディライツでチャンピオンになったカイル・カークウッド(AJ・フォイト・エンタープライゼス)、同2位だったデイビッド・マルーカス(デイル・コイン・レーシング・ウィズHMD)、ふたりのアメリカ人ルーキーはトップカテゴリーでも戦闘力を発揮することと期待される。
彼らの他にも、昨シーズンの終盤3戦ですでにインディカーを走らせているカラム・アイロット(フンコス・ホリンガー・レーシング)、日本のスーパーフォーミュラで走っていた女性ドライバーのタチアナ・カルデロン(AJ・フォイト・エンタープライゼス)、昨年唯一の参戦で予選4番手と実力の片鱗を見せたクリスチャン・ルンガー(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング)が参戦する。(カルデロンはストリートとロードコースのレースのみ)
アイロットはすでに3レースを経験している点で優位にあるが、シリーズ唯一の1カーチームからの出場という点は不利。フォイトでエース扱いをしてもらえるカークウッド、RLLで優先順位が3番手のルンガー、小さなチームだが琢磨という経験豊富なチームメイトを持つマルーカス、ルーキー・オブ・ザ・イヤーを獲得するのはこの中の誰になるのだろうか。
ルーキーではないが、成長株としておおいに注目されているのが、昨年1勝したリナス・ヴィーケイ(エド・カーペンター・レーシング)だ。スピードのある彼を走らせるエド・カーペンター・レーシングは、オーナーのエド・カーペンターがレース出場をインディ500だけとして、チーム運営により力を注ぐ。チームメイトはコナー・デイリーに決定。チーム力を全体的にレベルアップさせることが今年の彼らの目標だろう。
昨年のインディ500でチームのインディカー初勝利を挙げたメイヤー・シャンク・レーシングも非常におもしろい存在だ。カストロネベスがフル出場になった上に2台目を委ねるのがパジェノー。
実績あるベテランコンビはペンスキーで一緒だった間柄なのでチームワークも上々でシリーズの台風の目となる可能性は十分。特に、インディ500で彼らは強さを発揮するだろう。
グロージャンを失ったデイル・コイン・レーシング・ウィズRWRが佐藤琢磨を獲得。このコンビネーションはどんな成果を得ることになるのだろうか。
オーバルレースに出場しなかったグロージャンだが、ロード、ストリートではどのコースに行っても速かった。そのマシンが今度は琢磨に委ねられる。優勝争いをするには今シーズン向けのレベルアップが当然必要だが、ベースとなるセッティングの競争力が高いことは確か。
DCRのマシンは実はオーバルでも速い。インディ500でのスピードは強豪たちも恐れているほどだ。そのマシンを手する琢磨はインディでの3勝目を強く意識している。
レイホール・レターマン・ラニガン・レーシングはオーナーの息子のグラハムを中心とする新体制へと移行した。未勝利だが、ここ数年でスピードは見せてきているジャック・ハーベイを招き入れ、新人のルンガーも採用。
レイホール二世は勝利から遠ざかって久しい。昨シーズンは琢磨にも勝利がなかった。チームとして再び勝てる力を身につけ、それをさらに強固なものとするための体制拡大は、初年度から成果を得ることができるだろうか。
開幕戦の舞台はフロリダ州セント・ピーターズバーグのストリート。昨年のレースではハータがポール・ポジションからの優勝を飾った。その彼は昨シーズン最後の2戦、ラグナセカとロングビーチで連勝しているので、シーズンを跨いでの3連勝達成を狙ってくる。
25日にプラクティス、26日に予選、そして27日決勝レースが予定されている。ひと足早く開幕を迎えるインディカー・シリーズ。開幕戦を制し、スタートダッシュを決めるのはどのドライバーか?