ハースの新車『VF-22』も、アルファロメオの新車『C42』もシェイクダウン時の写真がメディアやSNSに出ているので、事実上最後の新車初登場になったのがアルピーヌF1の『A522』だ。
フレンチブルーとBWTピンクのファンキーな装い。しかし、カラーリングはファンキーだが、現物の『A522』のスタイルはかなりコンサバなアプローチに見える。『A522』は比較的FIAフレームの意図に忠実で、サイドポッドはフェラーリやアストンマーティン型に似た上面処理で、タイトなローバックダウン処理はメルセデスやウイリアムズ型のとの中間的なイメージだ。このオーソドックスな手法がとられたことで『A522』は若干クラシックなスタイルだ。
しかしスタイリングで大きな冒険を避けた分、ルノーのパワーユニット(PU)には大きな開発が加えられた、メルセデスやホンダと同じくターボとMGU-Hが前後に別れる、“スピリットターボユニット方式”を取り入れた。チームは「パフォーマンス向上を開発目標の頂点に置いた」と語る。
2021年はパフォーマンスの向上を狙って信頼性を落としてしまったルノーのPU。新設計のPUはこの問題をクリアしているはずで、ルノーPUもやっとホンダ、メルセデスのPUと同等の構成になったわけだ。また新たなPUの登場と、サイドポッドの容積拡大でセンタークーリングによる“頭でっかちな構成”はなくなり、インダクションボックス後方はスムーズな形状に戻っている。
しかし、エンジンカバーを造るコクピット後方のショルダー部には、ルノー時代のアルマジロスリットが切られている。ここからの排熱がリヤウイングへの空気流をボディワークの表面から剥がすことなく、ウイング下へと引っ張っていくようだ。
フロントサスペンションもプッシュロッド式のまま変わらず。メルセデス同様、新レギュレーションに対して革新的に取り組んだというより、昨年までのデータを新レギュレーションに合わせて反映させた着実なスタイルに思える。もちろん、実走行車両になれば、数々のエクストラパーツの装備が考えられ、開幕戦にはさらに進化を遂げたマシンが登場するはずだ。
『A522』の意外とコンサバに見えるオーソドックスなアプローチと、パフォーマンス向上に懸けたルノーPUのコンビネーションは、レース巧者のフェルナンド・アロンソと、ハードファイターのエステバン・オコンには結構向いているかも知れない。新型PUに信頼性が備わっていれば、シーズン開幕序盤からチャンピオンシップポイントを稼ぐための条件は充分に揃うだろう。
個性的な新車の多いなか、コンサバ、オーソドックスな戦略をとったアルピーヌF1の『A522』。その答えはどのようなパフォーマンスで表れるのだろうか。
《プロフィール》
津川哲夫(つがわてつお)
1949年生まれ。F1メカニックを志して1977年に単身渡英。トールマン、ハース、ベネトンなどのチームでメカニックを勤め、1990年シーズンでメカニックを引退。その後、F1中継でピットレポートやセッション解説、そして雑誌やwebメディアでメカニック経験を活かしたメカニカルな視点でF1の魅力を伝え続けている。