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NHK名古屋ドラマ制作撤退を惜しむ 『中学生日記』『のほほん』など名作を生んだ独自性

2022年02月25日 06:01  リアルサウンド

リアルサウンド

テレビ

 NHK名古屋放送局が、ドラマ制作から撤退するという。2022年の新年度からNHKは夜の時間帯の大幅改革を行う方針で、報道番組を強化し、バラエティやドラマは制作規模を縮小するそうだ。時代の流れと言ってしまえばそれまでだが、ネットの普及によってメーテレ(名古屋テレビ)などの地方局制作のドラマに注目が集まりやすくなっている中、積極的に地方での番組作りをおこなってきたNHKが撤退することは、まことに残念である。


【写真】コメディドラマの傑作『阿佐ヶ谷姉妹ののほほんふたり暮らし』


 名古屋放送局が作るドラマには隠れた名作が多かった。一番の代表作はやはり『中学生日記』だろう。本作は1972年から2012年まで放送された中学校を舞台にしたドラマだ。基本的には中学生の日常や悩みを1話完結で描く作品となっており、出演する中学生が芸能事務所に所属する俳優やアイドルではなく、オーディションで選ばれた名古屋近郊で暮らす素人の中学生だったということが一番の特徴だった。ドラマとしては地味な作りだったが、だからこそ、独自の生々しさが画面の中に存在した。ドラマというよりはドキュメンタリーを観ている印象に近かったと記憶している。


 漫画家・水木しげるの戦争体験をドラマ化した『鬼太郎が見た玉砕~水木しげるの戦争~』(2008年)や、振り込め詐欺の実態をドキュメンタリーパートとドラマパートで描いた『詐欺の子』(2019年)といったNHKスペシャルで放送された作品も、ドキュメンタリーとドラマが混ざりあったような独自の作品だった。


 企業の粉飾問題を調査する公認会計士を主人公にした『監査法人』(2008年)、ゼネコン会社の入札をめぐる談合の内幕を描いた『鉄の骨』(2010年)、太陽光発電の最先端技術をめぐる特許マフィアとの戦いが描かれた『太陽の罠』(2013年)といった会社を舞台にしたビジネスドラマの傑作も名古屋局は多く制作している。取材を元に作られたドキュメンタリー的な手触りのシリアスなドラマというのが、NHK名古屋放送局が作るドラマの大きな特徴だろう。


 一方、コメディテイストのドラマにも傑作が多かった。たとえば、『ちょっと待って、神様』(2004年)は、不慮の事故で命を落とした中年女性の久留竜子(泉ピン子)が女子高生・天城秋日子(宮崎あおい)の身体を借りて現世に戻り、期限付きで人生をやり直すというファンタジーテイストのドラマだ。


 竜子の魂が乗り移ったことで秋日子が明るい女の子に変化していく姿が本作の見どころで、宮崎あおいが女子高生役を好演していた。その後、本作の浅野妙子(脚本)と銭谷雅義(制作統括)が手掛けた連続テレビ小説『純情きらり』で宮崎あおいは主演を務め、国民的女優としての道を邁進するようになる。


 本作がなければ『純情きらり』、大河ドラマ『篤姫』といったNHKドラマでの活躍もなかったかもしれない。


 このようなコメディ路線のドラマも名古屋放送局の作品には多い。言いたいことが言えずに鬱屈している小学校教員の女子がネットで知り合った謎の男と関わることで成長していく姿を描いた『恋するハエ女』(2012年)、特撮オタクの女性を主人公にした『トクサツガガガ』(2018年)、ミャンマーから日本に漫画留学した青年と女幽霊と関わる姿を描いた『彼女が成仏できない理由』(2020年)。お笑いコンビ・阿佐ヶ谷姉妹のエッセイに綴られた二人の共同生活を映像化した『阿佐ヶ谷姉妹ののほほんふたり暮らし』(2021年)はコメディドラマの傑作だが、NHK名古屋放送局らしいと感じるのは「他人に自分のことを理解してもらえない孤独」が背景にある作品が多いということ。だからこそ、どの作品にも楽しさの中にふと寂しさが漂う作りとなっている。


 どんな作品であっても丁寧に作品が作り込まれているのが、名古屋放送局の作るドラマの特徴で、だからこそ忘れられない作品がたくさんあるのだろう。


 最後に、名古屋放送局制作のドラマで、筆者が一番好きな作品を上げたいと思う。2009年に放送された『リミット-刑事の現場2-』(以下、『リミット』)だ。


 本作はベテラン刑事の梅木拳(武田鉄矢)と若手刑事の加藤啓吾(森山未來)がコンビを組んで事件の捜査にあたる刑事ドラマ。『リミット』は2008年に作られたドラマ『刑事の現場』の続編。定年退職間際の団塊の世代の刑事が若手刑事に特別な指導をおこなっているという実話をベースにしたドキュメンタリー的なドラマだった『刑事の現場』に対し、続編となる『リミット』は犯罪者と刑事たちが抱える心の闇に踏み込んだ問題作となっていた。


 『女王の教室』(2005年、日本テレビ系)などの作品で知られる遊川和彦が脚本を担当しているのだが、NHK名古屋放送局のドラマにあるドキュメンタリー性と、遊川が得意とするフィクションならではのケレン味ある作劇が絶妙なバランスで融合した刑事ドラマの傑作となっている。


 人を選ぶ作品だが、ぜひ一度観てほしい。そして、NHK名古屋放送局が「これまで、いかに素晴らしいドラマを生み出してきたのか」を改めて知ってほしい。


※宮崎あおいの「崎」は「たつさき」が正式表記。 


(成馬零一)