日比野は芸術が持つ力について、文化や文明の勃興と「アートと福祉」というテーマで日比野が推進している同大学のプロジェクト「Diversity on the Arts Project (通称:DOOR)」を用いながら具体的に下記のように説明する。
個人や地域のギャップが在るからこそわくわくやドキドキは生まれる。芸術文化とは「自分が知らなかった、持っていなかったものに出会うことへの喜びや驚き」だと考えている。例えば、世界四大文明の発生というのは川のほとりに様々な民が集まり、山の幸と海の幸を交換することで発展していった。つまり互いに所有しないものを尊重し、価値を交換することで融合し新たな文化が生まれてきた。まさに"藝術は、ずっと前からSDGs"という言葉に直結するだろう。そういった「自分の既成価値を覆す」「異なる価値観のモノと出会う」という意味では、福祉施設でワークショップを行う授業(DOOR)を行うことは自然な流れだった。例えば美術教育を受けている我々は、身長160cmの人を模写する際、A4の紙に縮尺して描こうとするが、1m60cmの紙を用意し描くことだってありえる。 世の中では"福祉施設"と呼ばれているような場は「自分が思い込んでいた方法とは違う描き方をする人に出会える」という意味では「文化施設」と呼べるはず。そういった決まりごとを排除し、より多角的な視点をもたらす"ものさし"を芸術を用いて入れていけば、福祉施設に対しても「手を差し伸べる」というような一方的なヒエラルキーは生まれないのではないだろうか(日比野克彦)。
それを受け司会進行を務めたSDGs推進室長の国谷から「現在の社会においては芸術は余裕のある人だけのものになってしまいがちで、敷居が高いというイメージがある。そんな中、芸術は企業やコミュニティ、社会の課題解決に貢献できるということをどのように示していくか」と問われると「芸術を数値化していかなくてはならない」と話し、可視化が難しいとされている芸術がもたらす効果の数値化について言及した。
SDGsの17の目標の中に芸術という文字はないが、その数値を達成するためには芸術が必要なんだ!というのが僕らの考え。いくら、高齢化社会をよりよく生きるために文化や藝術は貢献できていると語っても、資本主義社会においては数値化・証拠を見せるというのは避けては通れない。「芸術だから数値化はできません」と放棄するのではなく、芸術がもたらす効果を数値化する研究も他大学と共に共創していく。はじき出された数値は藝大生と企業を繋ぐステークホルダーにもなるはず(日比野克彦)。
国内唯一の国立芸術大学として数々の著名芸術家を輩出し、ファッション業界でも高い評価を受けている東京藝術大学の次の一手が注目される。