2022年02月19日 10:01 弁護士ドットコム
「ゲームの課金で、勝手にクレジットカードを使われた」「スマホを取り上げたら暴力を振るわれ、警察沙汰になった」。ゲーム依存の子どもを抱える家族などでつくる団体には、小学生から大学生までの子を持つ親から、このような相談が日々寄せられている。ゲームをやめられず、日常生活に支障をきたすようになった子どもたちに対して、家族は何ができるのか。
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一般社団法人「ネット・ゲーム依存家族の会」は、ネットやゲームの過剰使用の問題を抱える家族の集まりとして、2021年11月に立ち上がった。家族会やセミナーを開催するほか、電話相談を通じて、悩んでいる家族を支援団体などにつないでいる。
電話相談に対応するのは、自身も家族の依存症問題に悩んだことがある人たち。その1人であるヤノさん(=仮名・50代女性、新潟県在住)には、ゲーム依存の息子がいる。
「息子は社交的で、小学生のころは友人も多く、サッカーやラグビーなどのスポーツもしていました。一方で、幼少期からゲームにのめり込み、暇さえあれば、スマホでゲームをしていました。
徐々にゲームをやめられなくなり、昼夜逆転し、中学1年生の夏から学校に行かなくなったんです。食事もせず、お風呂にも入らずに、押入れの中などでゲームをする毎日でした」
ヤノさんの夫は、ギャンブル依存症に苦しんだことがある。夫を通じて、すでに依存症に関する知識を持っていたヤノさんは、息子が学校に行かなくなってから約1カ月後、息子とともに病院に足を運んだ。医師には「ゲームの使い方に問題がある」と入院をすすめられた。
息子は入院に同意し、同じ年の11月から約2カ月にわたる入院生活を送った。入院中の前半は、病院に併設されている学校に通い、後半は元の学校に午前登校するなど、復帰に向けて準備をすすめた。しかし、退院後、すぐに学校に行かなくなり、ゲームを続ける日々に戻ってしまった。
「治療を受けたからといって、すぐに治るわけではありません。依存症当事者の夫は、誰よりもそのことを理解していたはずなのですが、学校に行かなくなった息子を見て『治っていないじゃないか』と不満を言っていました。頭でわかっていても、親としては、子どもに『治ってほしい』と思ってしまうんですよね」
現在、ヤノさんの息子は単位制高校に週4日ほど通っている。ゲームはやめられていないが、食事や入浴などの基本的な生活習慣は取り戻すことができているという。
ただ、かならずしも、入院することがよいとは限らないようだ。ヤノさんは「親の意思で無理に入院させることで、子どもが親に恨みを持ってしまい、親子関係が悪化する場合もある」と話している。
「ネット・ゲーム依存家族の会」代表理事の黒田沙希子さんによると、子どものゲーム問題に悩む親たちから寄せられるのは、主に課金や暴力に関する相談だという。
「財布からクレジットカードを抜かれて200万円ほど使われたり、銀行口座から勝手に預金を引き出されたりした親もいました。また、家のWi-Fiを切ったり、ゲーム機器を取り上げたりしたことで、子どもが家族に暴力を振るったという相談もあります。小学5年生の子どもの暴力に悩み、警察を呼んだ家族もいました」(黒田さん)
一方、「子どもがゲームばかりしていて、勉強をしない。スマホを取り上げるべきか」など、ゲームをする行為そのものを悪いことととらえ、やめさせたいという相談もみられるようだ。
黒田さんは「ゲーム依存」が注目され始めた一方、ことばだけが独り歩きしてしまい、なんでも「依存」と考えられてしまう風潮にも疑問を抱いている。
WHO(世界保健機関)が定義する「ゲーム障害」は、ゲームをする時間をコントロールできなかったり、他の生活上の関心事や日常の活動よりゲームを優先したりするなどの症状が1年以上継続することとされている。重症であれば、1年より短くても「ゲーム障害」にあたることもある。
ヤノさんは「スマホやネットは生活上なかなか切り離せないもの。アルコールを含む薬物とは異なり、回復の道を歩むためには、ゲームやネットと『上手に付き合っていく』ことが求められているように感じる」と語る。
なぜ、子どもたちは、日常生活に支障をきたすほど、ゲームをやめられなくなってしまうのか。その背景には、夫婦間の問題が関連している場合もあるという。
「夫婦仲が悪く、別居寸前にもかかわらず、『子どもは学校に行かせたい。スマホから離れさせたい』と訴える親もいます。夫婦間の問題が、すり替えられて、子どもに負担を与えてしまっていることに気づいていないんです」(黒田さん)
教育熱心だったり、自分自身にコンプレックスがあったりする親も目立つようだ。ヤノさんも次のように話す。
「進学校に通う子どもがゲームをやめられないことに対して『落第したらどうしよう』『受験勉強に失敗したらどうしよう』などと悩んでいる人もいます。
子どもが病院に通っているというある親は、医師に『お子さんは、(進学校にいる)今の状態がつらいのではないか。別の学校で上位を取れれば、自信が出るかもしれない』と転校をすすめられたそうです。
でも、『転校をすすめる医師は信用できない』という理由で、通院をやめてしまいました。よくよく話を聞いてみると、親自身が学歴コンプレックスを抱えていました」
ヤノさん自身も運動音痴の自分にコンプレックスを感じていた。そのため、スポーツができる息子に期待し、熱を入れてしまったという。その結果、息子はスポーツに楽しみを見出せず、負担に感じていたようだ。
ヤノさんは、ほかの仲間の話も聞くことができる家族会に参加したことで、自分の理想を息子に押しつけていたことに気付かされた。しかし、ヤノさんのように家族会につながる親は一握り。たとえつながったとしても、家族会に行かなかったり、来なくなったりしてしまう人も珍しくないという。
「『ちゃんと病院のプログラムを受けているのか』『どんなことをしているのか』など、子どもの様子を逐一チェックはするものの、家族会には決して来ない親もいます。未成年の親の場合、自分に責任があると感じてしまい、子どもを支配・管理・コントロールすることに一生懸命になってしまうことも少なくありません」(ヤノさん)
ゲームに依存してしまった子どもの「変化」のみを求めていても状況は改善しない。黒田さんは、ネットやゲーム依存からの回復においては「親も覚悟が必要」と話す。
「子どもの『今』をそのまま親が受け入れることです。ゲームにハマっていようと、課金していようと、暴れていようと、今の自分の子どものありのままを受け入れる。子どもは、何かに悩んでいたり、生きづらいのかもしれません。
親は、自分を責めたり、夫婦関係が悪いためだと思ったりするなど、子どもがゲームやネットをやめられなくなった現状に意味づけをしてしまいがちです。でも、まずやるべきは、子どもがゲームに熱中していないと生きていけない状況にあるということを無条件に認めること。
もちろん、ゲームをやめられず、日常生活がままならない状態を『肯定する』という意味ではありません。大切なのは、その状態を『受け入れる』ということです。そして、仲間がいる家族会で、自分の思いを話してほしいと思っています」(黒田さん)
<一般社団法人「ネット・ゲーム依存家族の会」>
https://netgame-family.org/