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『妻、小学生になる。』貴恵が生まれ変わった理由とは? “謎の男”水川かたまりも登場

2022年02月19日 06:01  リアルサウンド

リアルサウンド

『妻、小学生になる。』(c)TBS

「例え生まれ変わったとしても、それは二度目の人生なんかじゃない。まとめて一つの人生なんだ。後悔や反省を乗り越えない限り、時間は進んでも人生は進まない」


【写真】天才中学生小説家・出雲凜音(當真あみ)


 とは、生まれ変わりをテーマに描く天才中学生小説家・出雲凜音(當真あみ)が綴った文章の一節だ。そして、小説は「じゃあ、今、どうするか。大切なのは迷うこと。迷った先に必ず君らしい答えが出せるから」と締めくくられる。


 書き終えた彼女は、まるで電源が落ちたかのように気を失ってしまった。と、同時に現れたのは、髪を指でねじりながら街をふらりと歩く謎の男(水川かたまり)。これは、執筆中の凜音がよくしていた癖だ。どうやら、その姿は誰にも見ることができない様子。通り過ぎる人と触れてもすり抜けてしまうあたり、どうやらこの世界の道理で生きる人ではようだ。


 ここで、ある説が浮かんでくる。この男は凜音の中にいた、生まれ変わりの人なのではないか。生まれ変わりとは、後悔や反省を乗り越えるために導き出された究極の選択肢。そして、この男の魂は小説を書き上げるという目的を果たせたことで、凜音の身体から抜け出たのではないか、と。


 金曜ドラマ『妻、小学生になる。』(TBS系)第5話は、なぜ生まれ変わりが起きたのかという理由が少しだけ垣間見えた回だった。10年前に他界した新島貴恵(石田ゆり子)と、その記憶を持つ小学生の白石万理華(毎田暖乃)。2人の魂は1人の身体に同時に存在しているのとは少し違うようだ。貴恵としての記憶が鮮明な今、万理華としての日々が思い出せないのだと明かされる。


 もう隠しきれない。そう考えた貴恵と圭介(堤真一)は、万理華の母・千嘉(吉田羊)に現状を説明するも、もちろんすぐには信じてもらえない。だが、呼び方が「ママ」ではなく「お母さん」になっていること、顔色をうかがうように覗き込んでいた視線からまっすぐに見つめる眼差しに変わっていること、できるはずのないオムライスがおいしく作られていたこと……。


 どんなに言葉を積み上げても伝わりそうになかった状況も、母として娘を改めて向き合えば、今の万理華がかつての万理華とは別人であることはこんなにも明らかだった。「万理華に会いたい! 万理華を返して!」と掴みかかる千嘉に、圭介は「家族ぐるみの付き合い」を申し出る。


「あなたの娘さんも、僕の妻も、1人しかいませんけど。1人しかいないから見つけたいんです。白石家も新島家も幸せに暮らせる方法を。白石万理華さんも新島貴恵もあなたも平和ボケの鳩でいられるように」


 「平和ボケの鳩」とは、貴恵が家族の悩みを持たずに育った圭介を揶揄したものだ。のほほんと何も背負わずにいられることの幸せを、貴恵は誰よりも知っていた。貴恵が生まれ変わった理由には「白石家も新島家も幸せに暮らせる方法」が大きく関わっているのではないだろうか。


 千嘉から「消えてくれないかな」などと暴言を吐かれてきた万理華に、かつての母と自分自身を重ねずにはいられなかった貴恵。幸せにしてくれない周囲に怒り、情緒のコントロールが苦手だったという母に、貴恵はよくオムライスを作っていたと弟の友利(神木隆之介)が語っていた。


 それは貴恵が人生で得た、母とうまく付き合うための知恵とも言える。万理華となった今も、母である千嘉を攻めるのではなく、その知恵を絞って元気づけようとする健気な姿勢に胸が痛くなる。


 家族が幸せに暮らすためにはどうしたらいいのか。それを一番に考えて生きてきた貴恵にとって、自分の死がきっかけでどこにも進めなくなってしまった新島家は見ていられなかったのかもしれない。そして、同じように母娘関係で悩む万理華のことも一緒になって考えていきたい。それが生まれ変わりという現象へと繋がったのではないだろうか。


 だとすれば、この2つの家族が幸せに暮らす方法が見つかったとき、貴恵の魂はどうなってしまうのだろう、という不安がよぎる。娘の麻衣(蒔田彩珠)の恋を応援し、一緒にゲームをして、川の字で寝る。一つずつ、失われた時間を取り戻すかのように、紡がれる新島家の思い出。それも、いつか万理華の記憶と引き換えに抜け出てしまうものなのだろうか。


 貴恵が満足してしまったらその魂が抜け出てしまうのだとしたら、まだまだ安心してもらっては困る。万理華の心を守り、千嘉とぶつかり、麻衣を励まし、圭介を奮い立たせ、友利を叱咤し……彼らには、まだまだ頼れる貴恵が必要に見えるからだ。


 とはいえ、いつまでも貴恵に頼っていることが本当に家族が幸せになる方法なのか、というのもまた考えさせられるところだ。人生を進めるというのはある意味で寂しさの連続だ。「このまま時が止まってくれればいいのに」と願うほど幸せなひとときを過ごしたとしても、時間は無情に流れていく。


 自分自身は老いていくし、子どもはいずれ巣立っていく。周囲の人間関係も水の流れのごとく絶えず移っていき、その変化に常に対応していく必要がある。だからこそ、迷い続けなければならない。自分らしい答えを出すまで、決してあきらめることなく。


 ただ、1人ではなかなか見つけ出すことは難しい。だから、貴恵は白石家と新島家を巻き込み、生まれ変わったのかもしれない。それぞれ中で抱え込んできた思いを無理なく解き放ち、気持ちよく迷い生きていくために。


 「家族ぐるみの付き合い」を、貴恵ではなく圭介が提案したところにもまた大きな意味を感じた。圭介自身が貴恵に頼らずに新しい答えを導き出そうとしているように見えるからだ。千嘉との新しい関係に加えて、上司の守屋(森田望智)の想いや、麻衣と蓮司(杉野遥亮)との淡い恋など、同時に多くの変化が起こる。それもまた人生。悔いのないように、圭介たちには思いきり迷ってほしいものだ。


(佐藤結衣)