2022年02月18日 17:51 弁護士ドットコム
手術直後の女性患者にわいせつな行為をしたとして、準強制わいせつ罪に問われた男性医師の上告審判決が2月18日、最高裁第二小法廷であり、三浦守裁判長は懲役2年の逆転有罪判決を言い渡した2審・東京高裁判決を破棄し、審理を高裁に差し戻した。
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判決後、弁護団は都内で記者会見を開いた。
主任弁護人の高野隆弁護士は「最低限、冤罪が確定することを防げた。このことは素直に弁護団一同喜びたい」としつつ、破棄差し戻しについて「ありえないと考えていた。あまりに微視的で抽象的な議論しかできないようなところを審理させようとしている。なぜこうなったのか理解できない」と疑問を呈した。
最高裁判決は、検察側証人の証言が「医学的に一般的なものではないことが相当程度うかがわれる」と指摘した上で、「専らそのような見解に基づいて、女性がせん妄に伴う幻覚を体験した可能性を直ちに否定した原判決の判断は、1審判決の判断の不合理性を適切に指摘しているものとは言えない」とした。
また、アミラーゼ鑑定とDNA定量検査の結果について「女性の胸に被告人のDNAが多量に付着していた事実が認められるならば、被告人がわいせつ行為をしたとする女性の証言の信用性が肯定され、原判決の判断の誤りが判決に影響しないと見る余地がある」とした上で、DNA定量検査の結果の信頼性について「審理を尽くすことなく、被告人がわいせつ行為をしたと認められるとした原判決には、審理不尽の違法がある」と判断。審理を東京高裁に差し戻した。
高野弁護士は「せん妄の可能性について審理しなさいと言っていない。せん妄の可能性があることについてはこれで決着がついたと思う」と評価した一方、定量検査の結果の信頼性について「どっちつかずの表現になっており、1審以来の議論がまた蒸し返されることになる」と懸念を示した。
「検察は大量の人材と国家予算を使って裁判を進めているが、被告人はいち個人に過ぎず、我々もいち弁護士にすぎない。強制的な捜査権限や専門家を探して何百万、何千万とかかる実験をさせる力は到底ない。だからこそ、検察側の有罪証拠に疑問が残る場合は無罪としなければならないという刑事裁判の鉄則がある。最高裁はこれだけ疑問があることを認めながら無罪判決にしない。これは個人に多大な負担をさせる非人間的な判断ではないか」(高野弁護士)
弁護団の趙誠峰弁護士は「最高裁は『控訴審で疑問点が解消し尽くされておらず、さらに証拠調べをすべき』と言っているが、1審以来、検察官がDNA定量検査について信頼性を含めて立証できていないことが端的に現れている。それを理由に高裁に差し戻すというのは、無罪の証明をいち個人に対して強いていることに他ならないのではないか」と批判した。
弁護団によると、被告人は病院での診療のため判決に立ち会えなかった。
最高裁判決後、被告人と電話で話したという高野弁護士は「意気消沈しているわけではなく、無罪に向けてさらに裁判で戦うという意欲は十分あるようです。私たちとしては彼の期待に応えられなかったことは残念で不十分な判決だったと思うが、被告人自身は前向きに捉えていて、これも自分の冤罪を晴らすための一つの前進という理解をしているようです」と話した。
判決全文は最高裁HPで公開されている。
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=90933